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自宅で作ってみたくなる!「おやつ」がキーの映画のすすめ【映画とおやつ】

fudge.jp / 2025年1月10日 14時30分

自宅で作ってみたくなる!「おやつ」がキーの映画のすすめ【映画とおやつ】

日常を豊かにするのはお腹と心を満たす“おいしいもの”。自分でも何か作れたのなら、日々がもっと楽しくな...

 

お気に入りに登録していた映画を日がな一日観続ける。こんな幸せな休日の過ごしかたってあるでしょうか。 映画鑑賞のお供として欠かせないもの。それは、おいしい「おやつ」! 「おやつ」が物語の鍵となり心の奥の方を刺激する、そんな映画作品を紹介します。 自分でも何か作ってみようか? 意欲が湧いてきたら、休日をおやつ作りに充てるのもいいかもしれません。

 

手軽に作れて、なんてことのない素朴な味。だけど当人たちにとっては何より重要な意味をもつおやつ。『岸辺の旅』に登場する黒胡麻餡の白玉団子はまさにそう。

 

三年前に失踪し、行方がわからなくなった夫の勇介を待ち続ける妻の瑞希は、ある日、スーパーの棚に置かれた白玉粉にふと目を留める。そして夜、彼女はひとりで静かに白玉団子を作り始める。まずはすり鉢で黒胡麻の餡を作り、粉から作った生地に包むと、お湯をはった鍋に一つまた一つと放り込む。すると鍋の中で、文字通り、白く小さな玉がゆっくりと茹で上がり、ふるふると震え出す。手のひらで生地をこね、ぽちゃりと水に沈める音はどこか官能的で、少しだけ不穏さも感じさせる。

 

白玉が浮かび上がるまでをじっと見つめるうち、暗い部屋のなかにふいに勇介が姿を現す。そして平然とした様子で、熱々の白玉を口にし、満足そうに笑みを浮かべる。いったい彼はどこからやってきたのかを訝しむうち、食べ終えた彼はこうつぶやく。「俺、死んだよ」。実は彼は三年前にすでに亡くなり、瑞希に会うため、ここまでずっと歩いてきたのだという。艶々と光る白い団子が、勇介をこの世に呼び寄せ、夫婦の再会をもたらしたのだ。

 

妻は夫の死を自然と受け入れ、夫婦は最後の旅に出ようと約束する。それは、ここにたどりつくまでに、勇介がお世話になった人々を訪ねる旅。彼らが出会う人々は、もちろん生きている人もいれば、すでに死んでしまった人もいる。なかには死者と共に生きようとし、うまくいかずにもがいている者もいる。この映画では、生と死の境目はいつも曖昧で、彼らはふわふわとその境界線を漂いつづける。日本中のいろんな景色を眺め、人々と交流しながら、夫婦はかつての自分たちの関係を振り返り始める。勇介はなぜ自分を置いて家を出たのか。彼はどんなふうに死んだのか。そして彼が隠していたある秘密とは。

 

映画を見届けたあと、私は白玉粉と黒胡麻を買いにいこうと心を決めた。

 

 

MOVIE: 『岸辺の旅


©「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS 

三年前に失踪したきり行方不明だった夫が、ある日突然、戻ってきた。死と生の境目を漂う、夫婦の最後の旅が始まる。原作は湯本香樹実の小説。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞受賞作。

2015年/監督:黒沢清 出演:深津絵里、浅野忠信、小松政夫、奥貫薫

 

 

onKuL vol.17(2022年10月売号)より。

illustration:Nobuco Uemura
text:Rie Tsukinaga
re-edit:onKuL

 

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