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BOOK アラフォー世代が左右される〝どうしようもない偶然〟「人生は転換点に満ち満ちている」物語書きたかった 作家・平野啓一郎『富士山』

zakzak by夕刊フジ / 2024年11月2日 15時0分

小説家の平野啓一郎さん=1日午後、東京都新宿区(安元雄太撮影)(夕刊フジ)

実験性の強い短編集

――10年ぶりの短編集

「(短編は)20代後半のころに、よく書いていたけれど、その後は長編を書いた後ごとに書いていたくらいですね。好きか嫌いか? で言えば短編は好きです。実験的な書き方ができるし、ディテールを細かく書き込まなくてもいい自由さもありますしね。でも、評価されるのは長編の方が多くて…(苦笑)」

――次々とページをめくりたくなる作品ではなくて、そこに、ずっととどまっていたいような作品を書きたい、と

「〝ページをめくる手がとまらない…〟といった(本の)宣伝文句が多いでしょ。それに違和感があるんです。僕が本を好きになったときは〝ぐっと引き込まれて感慨に浸りたい〟〝その世界にずっととどまっていたい〟気持ちになって、むしろページはめくりたくない。短編についても『絵に描いたようなうまい』作品は好きじゃなくて、もっと思想性と実験性の強い短編を書きたいですね」

――今回の短編集はコロナ禍のときに書いた

「(あの時期は)世界がパラレルワールドに突入し、どこに足を踏み入れてしまったのか分からないような感覚がありました。緊急事態宣言が発令されて、街から人が消えたり、飛行機が止まったり、全員がマスクをしていたり。そして人間の距離感が変わり、人と会う頻度が減った。作家によっては取材に出られなくなったり、新作のプロモーションができなくなったり…。僕は新聞連載の途中で、仕事は止まらなかったけれど、ストレスはありましたね」

――『富士山』はコロナ禍の最中、マッチングアプリで知り合ったアラフォー男女の物語

「(アラフォーは)女性の場合『出産』を希望しているならギリギリのタイミングになりがち。それなのにコロナ禍によって『出会い』のチャンスが無くなってしまった。マッチングアプリでさえ、直接会うことが難しくなる…。僕の周りにもそのために悩んでいる女性たちがいました」

――物語のキーになっているのが、少女の「SOS」サイン

「コロナ禍でステイホームになり、DV(家庭内暴力)が増えたことでつくられたサインだけど、日本ではあまり広がってないですね。誰もが知っているサインじゃないからこそ、見たとき、自分が介入すべきかどうか、判断が分かれるでしょう。そういった『性格』が現れるのも物語として面白いと思ったのです」

――まさしく「一瞬の判断」がこの男女の人生を変えてしまう

「僕は『自己責任論』が嫌いなんですよ。(不幸なのは)自分のせい、とか、努力が足りない、とか。もちろん、社会構造的に貧富の差は生まれますし、世代的な問題もあります。しかし、人生はそれだけじゃなくて、もっと『どうしようもない偶然』に左右されているのではないか。(人生を変えるような)瞬間が人生には満ち満ちているのだと思います。そんな物語を書きたかった」

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