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BOOK 古都とコロナが融合した奇想天外な舞台小説 作家・古川日出男さん『京都という劇場で、パンデミックというオペラを見る』

zakzak by夕刊フジ / 2024年8月17日 10時0分

2019年12月初旬、中国の武漢で発生したコロナというパンデミックはたちまち世界を席巻し、日本にも例外なく地獄とパニックが押し寄せた。あれから4年半が過ぎて人々の記憶から薄れ始めたパンデミックを記録しようと、『平家物語』(古典新訳コレクション)『平家物語 犬王の巻』の古川日出男さんが書き上げた「奇想天外で壮大な人類史オペラ小説」とは? 発想の原点を聞いた。

人が消えた現実

――季刊文芸誌「文藝」の連載を経て単行本になりました

「よく本になったなと思うし、よく書き上げたなと自分でも励まされもします。当初はパンデミックと京都をテーマにしたノンフィクションにするつもりでした。京都といういろいろな歴史物語を持つ魅力的な場所が、パンデミックという地球上の人々を殺していく恐ろしい物語に負けてしまい、国内最大級の観光都市である京都からも人が消えてしまった。その現実を書いておかなくてはいけないと思ってスタートしたんです」

――それが小説になっていったのは

「この現実にひとりの作家として対峙するためには、僕もノンフィクションではなく物語をくり出さなくては、と書いている途中で気がつきました。先の見えないパンデミックの広がりを僕自身も追体験して、物語として戦おうと考えたわけです」

――物語の主要登場人物ですが

「最初は三島由紀夫の『金閣寺』という小説のオペラ化によって、このパンデミックの現実に立ち向かいたいと思っていました。京都へ行って、六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)という寺の住職さんとお話ししたのがきっかけで、平安時代の公卿・小野篁(おののたかむら)と紫式部が登場人物に加わりました。この両人の魅力に引きずられていくことで、一冊の本として、パンデミックに対して僕なりに答えを出す、というところまで到達させてもらえたと思っています」

自由のシンボル

――京都という都市へ抱く思いは

「京都の街は応仁の乱で一度焼失していますが、その記憶は鮮烈に残ったまま、そこに人々が住んでいるんです。一つの都市が栄えて滅ぶというのは、生きている人間の命のメタファーとして捉えられるんじゃないかと。自分たちの歴史はあるけれど、すべては燃えて消えてしまった、その両方を踏まえている場所です。人を柔らかく励ましてくれるようなところを持っている土地ですね」

――そこをオペラの舞台にしたのは

「現実の世界にもう一つの現実をはめ込む総合芸術がオペラです。ある意味、異界を作るというか、死後の世界のような他界を作ることになります。日本には、現実世界でありながらいつでも他界を生める場所はそうそうありません。京都は確実にそれができます。オペラの舞台にするとしたら、そこしかないという直観がありました」

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