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BOOK デビュー作で芥川賞受賞・石沢麻依さん 初エッセー、ドイツと仙台で時空を超える「登場人物のふりした〝私〟を小さく紛れ込ませています」

zakzak by夕刊フジ / 2025年1月25日 15時0分

デビュー作『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した石沢麻依さん。初エッセー集となる『かりそめの星巡り』には、故郷・仙台への思いや記憶とともに、移り住んで10年になるドイツでの生活が綴られる。大好きな小説、専門の美術、長く複雑な歴史、色彩豊かな風景。石沢さんの豊饒(ほうじょう)で誠実な言葉は、まだ見ぬ世界へと誘ってくれる。

変わってきた視点

──第1章は、「河北新報」の連載「記憶の素描」をまとめたもの。石沢さんが暮らすイェーナをはじめ、ドイツの街や人々の息遣いが感じられる。テーマはどのように決めたのか

「芥川賞受賞後に河北新報さんから声をかけていただいて、受賞エッセーを書いたんです。それをきっかけに、ドイツと仙台をつなげて書いてみませんか、という連載のお話をいただきました。ドイツを紹介する機会だからと、最初は珍しいものやイベントを取り上げていましたが、だんだん視点が変わってきました。風景や街並み、ドイツ語の言い回しに着目する一方で、ウクライナやパレスチナの状況など、自分が気になったことや連想したものを重ねつつ広げていく、という感じで書いていました」

──ドイツと仙台を行き来するなど、時空を超える石沢さんの文章が心地よく、ときに、繊細な感性やユニークな連想にハッとさせられる。鮨の「えんがわ」から「怪盗紳士」を連想したり

「子どもの頃、初めて食べたえんがわの味にひどく感動したものの、魚の名前が分からず、『怪盗紳士』と呼んでいました。当時読んでいた、アルセーヌ・ルパンが主人公の本からの連想です。彼が令嬢や婦人へ向けた言葉の口当たりの良さと結びついたのでしょう。普段の生活でも、小説や映画、絵画のある場面や描写が浮かんでは別のイメージへ膨らんでゆきます。方向音痴なので、知らない街で迷う度に、カフカの『城』のKのつもりになるうちに、周囲の風景がマグリットの絵に見えてくることもあります。口にすると大袈裟だと笑われるので、エッセーという形で思い切りおしゃべりしています」

見えないもの描く

──音が色として見える、と以前の取材で答えている。この作品でも堪能できる豊かな色彩感覚は、どのように身につけたのか

「緑の多い環境で育ったことが影響しているかもしれません。通っていた小中学校の教室の窓いっぱいに裏山が見えました。友達のいなかった私は、休み時間もよく自席から窓の外を眺めていました。そのうちに緑の移ろいに気づくようになったんです。季節ごとの変化だけでなく、週ごと、日ごと、時間ごと、秒ごとと細かく見つめ、天気や空気の条件次第で見え方の違いを追いかけるようになりました。青色も好きだったので、色鉛筆や絵の具の青だけでは物足りず、空や風景から探していました。この名残が、夜になる前、辺りが青に染まる『青の時間』を書いたエッセーに表れています。ただ、私は目に映るものを細かく書きすぎていて、うるさいな、と感じられる方もいるかもしれません」

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