1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

椎名誠の街談巷語 引き出しで不吉に「チーン」…おせっかいスマホとの闘い 「今週使ったのは十二分間でした」

zakzak by夕刊フジ / 2024年5月10日 6時30分

スマホにわずらわされない生活をと考えてはいるのだが…(夕刊フジ)

我も人並みにスマホというものを持っている。「使っている」と力強く言えないのは、どうも世間の様子からすると、当方は電話機能ぐらいしか使えていないからだ。その程度なら公衆電話で十分足りているのだけれど、その公衆電話がもうまわりにはない。家人に聞くと駅までいけばあるらしいが、そこにいくまでに電話で話すべき用件を忘れてしまいそうだ。それではまずいとメモに書いても、そのメモを忘れずに駅までちゃんと持っていけるかどうか。

スマホは電話以外にもいろいろ使えるんだよ、というコトを孫などからおしえてもらっているのだが、どうも覚えられない。孫は、うちのじいさんはバカなんだな、と思っているようだが本当だからそれもしようがない。ますますスマホというものがキライになっているから捨ててしまいたいが値段を聞いたら、ずいぶん高い。これをみすみす捨てるともっとバカにされるだろうなあ、と思い、机の引き出しにしまって、ときどき近所にサンポに出るときに持っていくようにした。迷子になったとき使うように、などと家人に言われているからだ。でも落としてしまう心配があるから外出のときはやっぱり机の引き出しのなかに置いて出たりもしている。

時々机の引き出しのなかでチーンなどという仏壇みたいな不吉な音をたてている。何かなと思って見ると「今週(このスマホを)使ったのは十二分間でした」というようなことを文字でわざわざ言ってきたのだった。まったくおせっかいでいやな奴なのだ。

誰とそんなに長い時間話をしたのか疑問だった。誰か家宅侵入して机のなかのそれを使っているとしたら気持ちが悪いから孫に相談すると「このまえ使い方のレッスンをしたときのコトじゃないのかな」などと賢いことを言っていた。なるほど。

つい最近またもやチーンという音が聞こえた。みると「あんたは四五〇メートル歩いた」などと言っている。家人に言うと「散歩のときの数字ね。少ないわね」とそっけない。それにしても、我が何メートル歩こうと余計なお世話だ。そんなことを報告してくれなどと頼んでもいない。本人が知らないうちにどうやってそんなのを測ったのだ。サンポのとき後ろにいたのかオイ。

その日の夕刊の一面に今年は熱中症特別アラートが開始される、という記事が出ていた。「あんたは本日二八〇分間、家のなかをウロウロしていました」などと書かれるのもいやだから、その日はスマホを持って家でじっとしているとまたもやヒョロヒョロさわいでいる。みると「豪雨警戒アラート」という文字が点滅していた。その日はシトシトの悲しげな驟雨(しゅうう)だった。これが夜にかけて豪雨になると言っているらしい。夜九時ぐらいにまたヒョロヒョロ鳴って地震がきた。スマホが喜んでいるようだった。まったくうるさい時代になったものだ。

■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)、『失踪願望。』(集英社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttps://www.shiina-tabi-bungakukan.com

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください