13勝でも昇給100万円「おかしかった」 怒りの契約更改…絶望した“チーム内格差”
Full-Count / 2024年4月11日 6時50分
■工藤一彦氏は1982年に11勝、1983年は自己最多の13勝…エース格として活躍
元阪神投手の工藤一彦氏はプロ8年目の1982年に204回1/3を投げて、初の2桁勝利となる11勝8敗2セーブ、防御率3.00の成績を残した。9年目の1983年には13勝10敗1セーブ、防御率4.16。この年は巨人のエース・江川卓投手と先発で2試合投げ合っていずれも勝つなど、エース格としても結果を出した。にもかかわらず、工藤氏はこの頃を振り返りながら何とも切なそうな表情を見せた。これには“懐事情”が関係していた。
阪神監督に安藤統男氏が就任した1982年、工藤氏は4月5日の開幕3戦目(中日戦、ナゴヤ球場)に先発するなど、先発ローテーション投手として活躍した。シーズン前半に7勝をマークし、監督推薦でオールスターゲームにも初出場。7月27日の大阪球場での第3戦で先発し、3回1失点に切り抜けた。「点を取られなかったら何か賞をもらえたかもしれなかったけどね」。これも思い出の一コマだ。
9月1日の大洋戦(横浜)に先発し、8回1/3を1失点でシーズン10勝目。初めて2桁勝利に到達した。チームでは山本和行投手の15勝に次いで、小林繁投手と並ぶ2位タイの11勝をマーク。この2人を上回る204回1/3を投げて、チームに貢献した。4月16日の巨人戦(後楽園)では、尊敬する小林を8回途中からリリーフしてプロ初セーブも記録。「(勝利投手の)コバさんに『助かったわ』って言われたのも覚えている」。充実の年だった。
翌1983年も工藤氏は好調をキープ。開幕3戦目(4月13日、広島戦=広島)に先発して5安打完封勝利でスタートし、小林と並ぶチームトップタイ、自己最多の13勝をマークした。このシーズンで特筆すべきは、江川と2度投げ合って2度とも勝ったことだ。土浦日大時代に「霞ヶ浦の江川卓」との異名もあった工藤氏にとって、1歳年上の江川は憧れの人。プロではよく先発で投げ合ったが、1982年までは1度も勝てなかった。
■憧れの江川氏との投げ合いで2戦2勝…年間13勝でも年俸は100万円増だった
惜しい試合はあった。1979年9月13日の巨人戦(後楽園)。これが早くも江川との3度目の投げ合いで、工藤氏は6回までノーヒット投球。試合も2-0と阪神がリードしていたが、7回に同点に追いつかれて降板、リリーフも打たれてひっくり返された。工藤氏に黒星こそつかなかったが、江川は完投勝利だった。以降も工藤氏が好投しても、江川はその上を行く好投を見せた。とにかく高い壁だった。それを1983年シーズンは2戦2勝でクリアしたのだ。
「あの江川さんだからね」と工藤氏は笑みをこぼす。念願の“初勝利”は1983年5月27日の巨人戦(甲子園)。7回4安打2失点の江川に対して、工藤氏は6安打完封勝利だった。トータルでは10回投げ合って、工藤氏に白星がついたのは、この年だけだったが、どの対戦も思い出深いものばかり。「俺が引退してからだけど、球場で江川さんが向こうの方から『おー』って手を振っているわけ。誰に言っているのかと思ったら、俺だった。覚えてくれていて何かうれしかったよね」。
11勝と13勝。この2年連続2桁勝利は大きな自信になったことだろう。だが、ここで思い出したように「納得いかなかったんだよなぁ」と表情を曇らせた。それは年俸評価について。「1000万円でもプラスアルファがあればいいなって思っていたんだけどね。そしたら車を1台は買えるじゃない」。1983年シーズンに13勝を挙げたオフの契約更改での工藤氏の推定年俸は1900万円。前年からはわずか100万円のアップだった。
時代、時代に相場はある。令和の現在と比べることはできないが、それを承知の上でも工藤氏は「おかしかったと思うよ。あの頃の阪神はどう考えてもピッチャーに厳しかったよ」と嘆く。「野手ばかり、給料が上がって、ピッチャーは大幅に上がる人間が少なかった」。今ではあり得ないが、当時は毎日試合に出る野手の方が査定ポイントも高くなりがちと言われていた。工藤氏も痛切に感じていたわけだ。
「契約交渉の時は、球団代表と査定担当の2人が相手だったけど、俺、言ったんだよ。代表と1対1にしてくれって。1対2じゃ最初から勝てるわけないと思ったからね。まぁ1対1でも結局、変わらなかったけどね」とやるせない表情を浮かべた。1983年シーズン後、小林が現役引退を発表した。工藤氏は阪神投手陣を引っ張る立場にもなったが、年俸問題はその後も尾を引いた。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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