元ドラ1、幻に終わった広島入団…誘いを「知らなかった」 顧問が“勝手にお断り”
Full-Count / 2024年4月20日 6時50分
■同志社大に合格した田尾安志氏…広島からの誘いを後に知った
現役時代に中日、西武、阪神の3球団でプレーした田尾安志氏(野球評論家)は、大阪府立泉尾(いずお)高校から同志社大に進んだ。縁があって練習に参加したところ、結果を出し、野球部の渡辺博之監督から「ぜひ同志社を受けてほしい」と言われた。ただし、野球での推薦制度の利用はなし。受験勉強をしっかりやって自力で挑んで見事に合格したが、進路には違う道もあった。「広島・田尾」が誕生していたかもしれないというのだ。
田尾氏は泉尾高3年の夏にエースとして、大阪大会ベスト4に導いた。打撃でも「2年秋から3年夏までに打率5割以上だった」というように非凡なものを見せていた。次のステージは大学野球。「僕が高校1年の時に3年生でピッチャーをやっていた人が一浪して早稲田に入って野球部だった。特待でも何でもなくて入った人なんですけど、僕に連絡をくれて『早稲田の練習に来いよ』って。そう言われたんですけどね」。それは実現しなかった。
正直、東京六大学については「どんなものか知らなかったし、憧れもなかった」という。「大阪に住んでいて、当時は東京までがすごく遠く感じて、なんでわざわざ東京までって気持ちも強かったのでね。できれば関西でやりたい。近いところがいいって思っていたら、泉尾の4年先輩で同志社大野球部のピッチャーと仲がいいという人がいて『田尾を1度見たいと言っている』って声をかけてくれたんです」。
1泊2日で同志社大の練習に参加。「投げたら、全然誰にも打たれなくて、打ったら4年生のピッチャーからライトオーバーとセンターオーバー。フェンス直撃だったかな。そしたら渡辺監督が『同志社をとにかく受けてくれ、特待的な扱いは全くできないけど、夜間を受けたらどうだろう』って言われたんです」。大阪ベスト4の実績では推薦制度は利用できなかった。「でも僕は昼間の方に行きたいって言ったんです」。自力合格を目指して受験勉強に力を入れた。
「あの時の僕は浪人する覚悟でした。そしたら、古典がパーフェクトにできたんです。ちょうどラジオ講座で勉強していたところが出たんですよ。英語はまぁまぁ人並みに点は取れるくらいだったので、あの古典は大きかったと思う」。社会学部社会学科に合格した。「ラジオ講座をやっていてよかったなって思いましたね。そういうことがあったんですよ」。そんな受験が終わった後だった。広島カープから誘われていたのを、その時に初めて知ったという。
■「もうちょっと早めに…僕に選択させてほしかったな」
「カープがドラフトで指名したいと来てくれていたそうなんですけど、顧問の先生は僕に言ってくれなかった。カープのスカウトには『本人は大学に行くみたいですから』ってお断りしたらしいんですよ。確かに、僕は大学に行きたいと言っていましたからね。でもね、もしも、その段階で僕の耳に入っていたら、なびいたかもしれないです」と田尾氏は話す。「大学に行ったら授業料もいるし、おふくろとかも本音はたぶん働いてほしかったと思うんですよ。だから……」。
当時の田尾氏はプロ野球に「興味が全くなかった」という。「小さい頃は長嶋(茂雄)さんのファンでかっこいいなって見ていましたが、どこを応援するとか、そういう意識はなかった。野球は自分がプレーするのが好きだったのでね」。泉尾高校のエース兼3番打者として結果を出していても「プロから誘われるなんて想像もしていなかった。全く頭になかった」。そのため進路にプロを選択肢に入れることもなく、大学進学を希望していた。
「後で聞いて思いましたよ。もうちょっと早めに言ってほしかったな。僕に選択させてほしかったなってね。そういう気持ちにはなりましたね。早く聞いていたら、そのまま広島に入っていたかもしれなかったですからね」。田尾氏は笑みを浮かべながら、そう明かしたが、もしも泉尾高から広島入りしていたら、その先の野球人生はどうなっていただろうか。同志社大学進学とどちらが良かったのだろうか。
これも運命だったのか、幻に終わった広島入団。田尾氏は1975年ドラフト会議で中日から1位指名されて同志社大からプロ入りするが「カープは僕が大学を卒業する時も一番熱心に誘ってくれたんですよ。縁がありそうで、なかったんですよねぇ」としみじみ話した。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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