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“やらされる野球”に嫌悪感 失踪し道外れるも…心動いた友の涙「たまらなくなった」

Full-Count / 2024年5月27日 7時5分

東京・新宿区、鶴巻ジャガーズの園部健二監督【写真提供:フィールドフォース】

■先進的な父親監督の模範例…東京・新宿区の鶴巻ジャガーズ・園部健二監督

 小学生の学童野球界を歩けば、必ず出会うのが、父親監督や父親コーチ。チームと指導者が選ばれる時代になりつつあり、住んでいる市区町村外のチームへの入部や移籍が珍しくなくなってきた。それでもなお、学童野球の現場を支え続けているのは選手の父親たちだ。

 その大半は、息子や娘が6年生の活動を終えたタイミングでともに卒団して中学球界へ。学童チームにそのまま指導者として残るケースは圧倒的に少ないが、超難関の全国大会に出てくるチームには“元”父親監督が多い。

「小学生の甲子園」とも言われる、8月の高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童大会)。1051チームが加盟する東京都では現在、その最終予選となる都大会が行われている。23区26市ほかの代表61チームによるトーナメント戦で、上位3チームが全国切符(開催地枠を含む)を手にする。

 大会パンフレットにある名簿から、監督と同姓の選手がいるチームを数えてみると、20チーム(32.8%)あった。昨秋の新人戦の都大会(62代表)は、24チーム(38.7%)。監督と選手がたまたま同姓のケースもあるだろうが、少なくとも3割以上は父親監督が占めているはず。ちなみに昨夏の全日本学童大会は、同様に調べると参加51チームのうち17チーム(33.3%)で、監督と選手の同姓が認められた。

 厳しい上下関係や体罰や暴言にも耐えて野球をしてきた。現場取材では、そういう父親監督にまだ多く出会う。新宿区で創立50年になる、鶴巻ジャガーズの園部健二監督もその一人。運営も指導も保護者で担うのがチームの伝統で、園部監督は息子が1年生で入部すると同時にコーチに。3年目から学年チームを率いており、この2024年度がラストイヤーになるという。


全日本学童都大会開会式で62代表が入場行進【写真提供:フィールドフォース】

■チーム方針=親子の意向の最大公約数=「野球がうまくなること」

 新人戦は区で準優勝、今春の全国予選は区準決勝で敗退と、いずれも都大会には進めず。しかし、他大会では新人戦の関東大会王者とも接戦を演じて3位など、レベルは決して低くない。ただし、最優先は勝利や実績づくりではないと、園部監督は語る。

「チーム方針は月謝3000円を出している各家庭の意向によるもので、その最大公約数は『野球がうまくなること』なんです」

 選手は学年数人程度で、活動は週末のみ。学区の校庭は使えても長くて半日で、あとは2時間1コマの公共のグラウンドを抽選やキャンセル待ちで確保する。都心部ではよくある環境だ。また、こういう一般的なチームの多くは、区大会を制しての都大会出場を目標に掲げている。

 一方、「野球は無差別級で、学童は体の大小が勝敗に直結する」との持論がある園部監督は、ほぼ学区フリーの強豪チームにまで勝とうという野心はゼロ。反面、投手や遊撃手や打者など個として、強豪チームの選手を上回ることは可能だと語る。

「選手は2つに大別できるんです。プロになりたいという子と、単純に昨日よりうまくなってみんなとワ~イと楽しみたい子のどちらか。プロになりたい子には、ゴールから逆算して相応のレベルになれるように指導しますし、うまくなるという目標そのものはどの子も同じです」

 息子の自主練習はサポートするが、一切の口出しをしない。代わりに野球塾に通う息子とともに、知識やノウハウを吸収・咀嚼してチームに還元。そこでは大人も子どももなく、挨拶も言葉遣いもごく自然なままでコミュニケーションがとれている。

「解釈は人それぞれですけど、社会的なマナーは最低限でいいとボクは思っています。いちいち脱帽して直立不動で大声で挨拶とか、ふつうの社会生活や職場ではありませんし、少なくとも監督のボクに対してそういうのはいいです、という感じ」(園部監督)


2月の京葉首都圏江戸川大会で3位に入った鶴巻ジャガーズ【写真提供:フィールドフォース】

■「人生かけるなんてできない」はずが…能動的にやる野球で上達を実感

 自身はかつて、父親監督の下でプレーして甲子園常連高校からも声が掛かる腕前だったが、自ら失踪して野球の道を中学で外れた。「週末のやらされる野球が嫌で嫌で、野球に人生をかけるなんてできないと当時は思っていました」

 高校は自由な校風の進学校へ進み、学生生活をとことんエンジョイ。だが3年夏に、中学時代の球友たちの引退試合と涙を目の当たりにして、心が再び野球へ。

「ボクがチャラチャラと遊んでいる間に、彼ら(元チームメート)は寮に入って正月以外は野球をしていたんだと思うと、もう、たまらなくなって……」

 その後、球友たちと草野球に興じるなかで、能動的にやる野球の驚くべき上達を実感。それが現在の指導方針のベースになっているという。試合中も負の感情が表に出ることはなく、ムードを盛り上げつつ、随所で野球のイロハの先や勝負学を伝授していく。明るいのは指揮官だけではなく、どの顔もどの目も生き生きとしている。

 園部監督の哲学には、悩みの尽きない父親監督たちのヒントやきっかけも多く潜んでいると思われる。いずれまた指導者として、学童野球に戻ってくる気はないのか。「そこに需要があればもちろん!」と前置きした園部監督は、こうも語っている。

「年配者が『最近の若者は……』と非難する風習は紀元前からあるらしいんですよ。だからボクの息子や娘が成人してから万が一、学童野球に戻ってきたときには『うるせえな、この考え方の古いオッサン!』とならないように、どうアジャストできるかですね」

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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