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『メタファー:リファンタジオ』想像から現実を顧みる―トマス・モアのユートピアは現代にあり?【ゲームで英語漬け#146】

Game*Spark / 2024年10月27日 17時0分

『ペルソナ』シリーズでは「ベルベットルーム」でペルソナの力を管理していましたが、『メタファー:リファンタジオ』ではどこかに幽閉されている「モア」という人物からアーキタイプの力を授かります。モアは主人公が常に持っている本を書いた当人で、そこに描写される「理想の国」は現代の地球を思わせるイメージです。


この「モア」のモチーフになっているのが「ユートピア」を描いたイギリスのトマス・モア(1478~1535)です。法曹として優れていた彼はカトリック教徒なのですが、ヘンリー8世の離婚問題に端を発する英国国教会を批判したために、反逆罪でロンドン塔に幽閉、処刑されてしまいます。


ユートピアが書かれたのはその約20年前、欧州諸国を巻き込んだイタリアのカンブレー同盟戦争の最中でした。ヘンリー8世は政治的に邪魔な人間を反逆罪で処刑することが多くあり、王の強権によって国内は疲弊し、さらに特権階級による富の独占と格差拡大が起きていました。「ユートピア」でもよく引用されるのが、「羊が人を喰っている」とよく言われる以下の文章です。


‘The increase of pasture,’ said I, ‘by which your sheep, which are naturally mild, and easily kept in order, may be said now to devour men and unpeople, not only villages, but towns;


「牧草地の増加によって、本来おとなしく飼いやすい羊が、村のみならず街も、そして人さえも食い荒らし、人口を減らしているという」


これは当時行われていた「第一次囲い込み」の状況を指し、利益率の高い羊毛生産をするため、借地にしていた小作人の農地や住宅を強引に取り壊し、住民を追い出していたことを表します。地主の利益追求のために多くの人が仕事も家も奪われてしまう、そうした理不尽が横行していました。


「ユートピア」は最初にラテン語で書かれ、後に英語にも翻訳されましたが、モアの存命中は英国で出版されていません。執筆中はヘンリー8世の元でネーデルラント使節を務めており、政治的立場を守るためだったのでしょうか。


「ユートピア」は作者のトマス・モアが、アメリゴ・ヴェスプッチの航海に同乗したラファエル・ヒスロディ(ユトロダイウス)と対話する前半と、ヒスロディが語るユートピアの制度の後半に分かれています。前半部分でモアは、従軍した兵や労働者が見捨てられる現状について強く批判しました。


When that little money is at an end (for it will be soon spent), what is left for them to do but either to steal,and so to be hanged (God knows how justly!), or to go about and beg? and if they do this they are put in prison as idle vagabonds, while they would willingly work but can find none that will hire them; for there is no more occasion for country labour, to which they have been bred, when there is no arable ground left.


「その僅かな金が尽きれば(すぐに使い果たしてしまうからだ)、盗みを働いた末に吊られるか(その妥当性は神のみぞ知る!)、歩き回って物乞いするほかどうしろというのだ?そうなれば彼らは怠けた浮浪者として捕らえられ、働きたくとも雇い先は見つからない―耕作地が無くなれば、彼らが慣れ親しんだ小作の口もないのだから。」


そうしたイングランドに対する批判の後、ヒスロディが航海で辿り着いたという「ユートピア」の地理や歴史、社会制度を描写します。ユートピアは私有財産を廃止し、共同体の繁栄を第一とした共産主義、社会主義的な制度になっています。そのベースにはプラトンの思想や南米の共同体国家の影響が見られます。所々は現代の私達にも通じるところがあって、16世紀から観た私達の暮らしはある意味「未来の理想郷」と言えるでしょう。


but they, dividing the day and night into twenty-four hours, appoint six of these for work, three of which are before dinner and three after; they then sup, and at eight o’clock, counting from noon, go to bed and sleep eight hours: the rest of their time, besides that taken up in work, eating, and sleeping, is left to every man’s discretion;


「彼らは一日を24時間に分け、そのうち6時間を労働に充てる。3時間は昼食前、3時間は昼食後、その後で軽い夕食を採り、午後8時に就寝して8時間眠る。残りの時間は働くにしろ、食べるしろ、眠るにしろ、それぞれの自由に任されている。」
(“Dinner”は肉などしっかりした食事を指し、時間は問わない)


現行の王政や特権階級が牛耳る社会に対する不満や疑義が増えていく一方、古代ギリシャ・ローマの再評価であるルネサンス、新大陸発見による南米の文化など、西欧とは異なる政治体制が注目を集めていました。人文主義者のエラスムスはモアと親しくしていて、権力を風刺した「痴愚神礼讃」はモアの自宅で執筆。「ユートピア」はそれに触発されて書き始めたとも言われています。


トマス・モアが想像したユートピアの制度は当時のイングランド社会に対するカウンターであり、モアがその制作においてどこまで本気だったかは分かりません。本の最後には作者のモアの言葉として、語り手ラファエルの全てに同意することはできない、とあります。その上で、ユートピアから私達の政府が倣うべき所も大いにあるのではないか、として「ユートピア」は締められます。


もちろん「ユートピア」は文字通りウ・トポス、どこにもないモアの想像した幻想上の国です。提言や思想書と違って直接の主張ではないものの、現実を離れて荒唐無稽な筋書きを書いた先に、現実にフィードバックできる思想の種が実ることもあります。物語が現実を動かす力を、世界が荒れる今こそ信じる時なのかもしれません。


おまけ


問答無用の傑作異世界ファンタジー。「あかがね色の本」でしか味わえない読書体験に是非一度触れてみて下さい。




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