憲剛の最新本を立ち読み!「史上最高の中村憲剛」(10/20)
ゲキサカ / 2016年4月24日 7時30分
川崎フロンターレのMF中村憲剛の南アフリカW杯から現在までの5年半を描いた『残心』(飯尾篤史著、講談社刊)が4月16日に発売となった。発刊を記念しゲキサカ読者だけに書籍の一部を公開。発売日から20日間、毎朝7時30分に掲載していく。
めぐってきたチャンス<下>
ゴールを決めたのは、またしてもメキシコのエース、ハビエル・エルナンデスだった。
後半21分、メキシコの右コーナーキックが鋭い弧を描き、日本のゴールに向かう。ニアポストにいたメキシコの選手が頭で後方に逸らすと、誰よりも早く反応したエルナンデスがいとも簡単にヘディングで決めた。
スペイン語で「小さなエンドウ豆」を意味する「チチャリート」の愛称を持つエルナンデスは、身長175センチと日本人と大差ない体格でありながら、マンチェスター・ユナイテッドで3シーズン連続して2ケタ得点をマークしている世界的なストライカーである。
そんな選手を、日本の守備陣が警戒しないわけがない。
常に視野に入れ、細心の注意を払っていたはずだったが、21分のゴールだけでなく、その12分前の後半9分にも彼の姿を見失い、クロスからのヘディングゴールを許していた。
エルナンデスは派手な動きをするわけではない。むしろ、のらりくらりと前線をさまよっているように見えたが、チャンスの匂いを嗅ぎつけると、まるで獲物を視野に捉えた野獣のような俊敏さでゴール前に姿を現し、ゴールを陥れた。
先制された直後、内田篤人、吉田麻也を立て続けに投入し、4-2-3-1から攻撃的な狙いを持った3-4-3へとシステムを変更したアルベルト・ザッケローニは、2点差に広げられ、最後の交代カードを切る決断を下した。
ベンチには、ストライカーのハーフナー、アタッカーの乾貴士、清武弘嗣が控えていたが、呼び寄せたのは、中村だった。
「遠藤に代わってボランチに入って、攻撃を組み立ててくれ」
それが、指揮官の指示だった。
2試合続けてボランチに投入される。しかも、ゴールが欲しい状況で起用される――。
何かが変わりつつあった。
ところが、準備の整った中村がピッチサイドに立とうとしたとき、アクシデントが起きた。左ふくらはぎの負傷を悪化させた長友佑都がペナルティエリア内に座り込み、メディカルスタッフの治療を受けたが、プレー続行が不可能となったのだ。
中村の出場にもストップがかかり、監督とコーチ陣による即席会議が開かれた。
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