憲剛の最新本を立ち読み!「史上最高の中村憲剛」(19/20)
ゲキサカ / 2016年5月3日 7時30分
川崎フロンターレのMF中村憲剛の南アフリカW杯から現在までの5年半を描いた『残心』(飯尾篤史著、講談社刊)が4月16日に発売となった。発刊を記念しゲキサカ読者だけに書籍の一部を公開! 発売日から20日間、毎朝7時30分に掲載していく。
表の顔と、裏の顔<上>
初めて会ったときの印象を、伊藤宏樹はまったく覚えていない。
それどころか、会ったという記憶すら、彼にはなかった。
「日韓ワールドカップの最中に、うちの練習に参加してるはずなんですけど、まったく覚えてないんですよね。練習試合にボランチとして出場した? うーん、思い出せないですね」
強豪と呼ばれるようになった今でこそ、高校、大学のナンバーワンクラスの選手が入団を希望するクラブになったが、2002年当時のフロンターレは、J2に沈んでいた。
J1クラブと選手の獲得で競合しても、勝ち目はない。そのため、大学生の練習参加を積極的に受け入れ、埋もれている才能の発掘にも力を注いでいた。
関東大学リーグ2部に所属する中央大学の4年生だった中村憲剛も、大学のコーチのツテを頼りにやって来て、実際に加入するかどうかはわからない大学生のひとりに過ぎなかったのだ。
だから、伊藤が記憶の糸をたどって引っ張り出した第一印象は、それから半年以上が経ち、新シーズンを迎え、チームメイトとしてトレーニングに励むようになってからのものだ。
その印象は、あまり芳しいものではなかった。
「今もそうですけど、昔はもっと線が細くて、ヒョロッとしてたから。プロとしてやっていくのは、ちょっと厳しいだろうなって」
だが、この新人は“普通の新人”とはちょっと違う、と伊藤が気づくまでに、さほど時間はかからなかった。華奢な体格なのにプロになれただけあって、たしかに技術は非凡なものがあったが、それ以上に感心させられたのは、全身にみなぎるギラギラ感だった。
「いや、もう、向上心の塊で。純粋なサッカー小僧って感じですよね。うまくなりたいっていう気持ちが前面に表れてましたよ。ほら、若い子って、そういうの、出すのはカッコ悪いっていうのがあるじゃないですか。でも、憲剛はすべての練習に全力で取り組んでましたね。今振り返っても、他にいないですね」
伊藤がプロ3年目、中村がプロ1年目の2003年、フロンターレにとっての唯一にして最大の目標は、3年ぶりとなるJ1復帰だった。チームを率いる石崎信弘は、基礎とフィジカルトレーニングの徹底で若手を鍛えあげ、チーム力をアップさせることに優れた指導者だった。
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