「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第30回:所変われば(昌平高MF針谷岳晃)
ゲキサカ / 2016年6月8日 19時55分
“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」
「所変われば品変わる」ということわざがある。同じ物でもそれぞれの土地によって、物事の捉え方は変わるものだ。サッカー選手は物ではないが、チームや監督や観客によって見方が異なり、起用法や組み合わせによって大きく変化するという意味では似たようなところがある。
関東大会の最終日、会場でどよめきを生んでいたのは、グループBの決勝を勝った昌平高の背番号7だった。ダブルボランチの一角を務めた針谷(はりがや)岳晃は、大会の視察に訪れたプロや大学のスカウトもうなる、優れた展開力を発揮した。
中盤でパスを受けると、相手のプレスを容易にいなしてボールをキープ。視線や体の向きで相手を誘い出しては、守備網の隙を面白いように突いた。針谷は、武器であるパス出しの駆け引きについて「周りを見ると(味方に)1枚はマークが付いていたから、自分がマークを連れてほかの仲間が空くように意識していた。ボディフェイントは、いつも使っている。パスコースが相手にバレると、パスを受ける選手もきつくなる。フェイントで相手が1枚外れれば、味方はフリーで受けられる」と語った。展開力が求められるボランチは、天職と言える。
しかし、FC古河ジュニアユースでは1学年下にナショナルトレセンに選出される有力選手がいたこともあってポジションを勝ち取れず、左DFを主戦場としていた。「試合に出られるなら良いと思って、ボランチは諦めていた」と当時を振り返る針谷だが、試合のタクトを振るう役への憧れは、消えなかった。昌平高の練習参加では中盤をやりたいと申し出て、中盤の真ん中で水を得た魚となった。
藤島崇之監督は「間違いなく中盤の核になると思った。フィードの展開力、足を振る力があり、両足で蹴れる」と高く評価。結果、唯一獲得に名乗りを挙げた昌平高に針谷はやって来た。体が小さく、線は細い。しかし、FC古河で磨いた技術力をベースに昌平高で武器を磨いた。昨年は先発でもなければ、ボランチでもなかったが、最高学年を迎えて力を発揮する時がやって来た。
「今大会は得点がなかったし、もっと怖い選手になりたい。守備も、フィジカルも、運動量も。色々なことに挑戦したい。全国高校総体に出られれば、進路も変わって来る。大学でも自分の持ち味を発揮できるところを選べるようにしたい」
自分の長所に魅力を感じ取ってくれた昌平高で全国の舞台に立ち、中盤起用の期待に応え、進路を切り拓く戦いが始まる。
■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」
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