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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:夢のはじまり(都立東大和南・岸本真輝)

ゲキサカ / 2016年11月8日 13時35分

 3度目ということもあって、もう初回のような警戒心は感じない。想像していた以上に彼の表情はさっぱりしていた。「本当にみんなが応援してくれて、最高の雰囲気が出来上がっていて、『凄く楽しかった』とみんな言っていましたし、この雰囲気でもう1試合、もう2試合とやりたかったですね」と試合のことを話していた中で、「凄く振り返ると」と入学当初の頃の話が始まる。その話がひと段落すると、「凄くさかのぼるんですけど」と入学前の頃まで話が及ぶ。淀みなく話し続ける姿を見て、「今日は凄く話が整理されているな」と感じた。

 そんなキャプテンがこう言葉を紡ぐ。「さっきロッカールームで話を聞いたら、右サイドバックのヤツがインターハイで引退したので、残った3年生のヤツは絶対出られると思うじゃないですか。でも、結局レギュラーを2年生に取られたんです。でも、その選手は『最後まで残って良かった』と言っていましたし、みんなが口を揃えて『最後までやって良かったな』と言っていたので、自分もそれを聞けて良かったです」。苦しかった2年間を経て、チームをまとめようと悪戦苦闘している内に、気付けばそのチームには大きな一体感が生まれていた。結果もそうだが、きっとキャプテンにとってはそれが一番嬉しかったはずだ。総体予選からのこの半年余りの感想を聞くと、「インハイから選手権の数か月はなんか夢の中というよりは、目標への道が見えてきたというか、『こういうのを求めていたんだな』という感じで凄く時間の経つのが早かった」そうだ。最後の最後で自らの思い描いていたチームに近付いて行く手応えがあったからこそ、あっという間の数か月だと感じたのだろう。そんな終わり方ができる高校生は決して多くない。そういう意味で彼らは非常に幸福な高校サッカーを過ごすことができたのだと思う。

「これからまずは勉強ですね」と笑ったキャプテンに、大学でサッカーを続ける気はないのだという。「もう1試合やりたかったのはありますけど、もう1回ココに来ようとは思わないです。他にやりたいことがあるので」と少し言い淀んだ彼に、「その『やりたいこと』は聞いてもいい?」と尋ねたが、「それは聞かなくていいですよ」とかわされた。3度の会話である程度は心を開いてくれた感触はあったが、そこまでは到達できなかった。でも、それでいい気もした。『やりたいこと』は人に言うものでもないし、きっと彼ならゆっくり時間を掛けて、その『やりたいこと』をじっくり実現していく気もする。オフィシャル的な会話は終わり、少し雑談めいたやり取りになった頃、「それでさっきロッカールームで言ったんですけど」と彼は突然切り出した。「後輩には『これが“伝説”として残るんじゃなくて、“伝統”として残って欲しい』ということを伝えて。実際にここまで来て、2、3年後には全くここまで来れないようになってしまうチームも結構あるので、だから本当に“伝統”にして欲しいですね」。やっぱり最高に良い話は最後に出てくる。それは3度目でも変わらなかった。

「お疲れさま」「さようなら」。別れの挨拶を交わし、その背中を見送った後も少しその場に残ってみる。もしかしたらあの日と同じように戻ってくるんじゃないかと思って。でも、アイツは結局戻ってこなかった。その時、わかった気がした。「ああ、ちゃんとやり切ったんだな」と。新たな夢のスタートを切った岸本真輝に幸多からんことを。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
【特設】高校選手権2016

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