[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:自分の中の“おまもり”(新潟明訓高・田中健二監督)
ゲキサカ / 2016年12月22日 21時43分
「以前はこんな舞台で戦えるなんて想像していなかった」と前述した言葉には理由がある。高校時代は新潟明訓サッカー部で3年間を過ごし、進学した順天堂大を卒業した田中は、教員として母校の高校へ赴任を希望したが、枠の関係もあって断られてしまう。ただ、「絶対に受からないと思っていた」新潟県の教員採用試験に合格。県立高校に勤める体育教員としての社会人生活がスタートした。最初はサッカー部員が11人に満たない年もあれば、「ボトルも水を出したら霧吹きみたいに出てくるような、本当にボロボロのヤツ」を使っていたりと、決して恵まれた環境ではなかったという。それでも、常に冷静なイメージのある今の姿とは対照的に「バカじぇねえのってくらい熱かった」と振り返る当時も、そんな状況の中で試合に何とか勝ってやろうという気持ちを常に持ち続けていた。加えて、バドミントンやバスケットボール、柔道などの顧問も任されていく内に、サッカーだけを指導していては得られないであろう目線も獲得していく。ヘディングが苦手な子には野球の練習を、ミートができない子にはゴルフの練習を採り入れたりと、常識に囚われない指導法に次々とチャレンジしていった。「自分はサッカーだけをやってきた訳ではないので、そういう所は他の指導者にはできない部分だと思いますし、引き出しは凄く増えたかなと思います」という田中。その時代を振り返って、彼は「あの経験は僕にとっての“おまもり”です」と表現してくれた。
2008年。田中に母校からオファーが届く。新潟明訓は私立校。その受諾はすなわち安定した公務員の職を捨てることとイコールになる。「あの不景気の時に公務員を辞めるようなバカは普通いないんですよ(笑)」と愉快そうに笑った彼は、周囲の大反対を押し切ってチャレンジする決断を下した。「最初の頃の自分の夢は明訓を倒すことだったんですよ。県立で全国に行くというのはよっぽどじゃないと無理なので、『国体とか県トレセンで指導できたらいいな』というくらいのビジョンしかなかったんです」という田中が踏み出した新たな一歩は、結果的に自身の人生を大きく変えることになる。
就任4年目の2011年。田中の監督就任以降初めて、学校としては10年ぶりに出場した全国総体で新潟明訓はベスト8まで勝ち上がった。「でも、一番動揺していたのは僕ですからね。大津の平岡さんとか流経の本田さんと対戦した時も、『何でオレがここにいるんだろう?』みたいな(笑) 代表者会議でお2人に『オマエ、ユニフォームとかわかってるんだろうな』とか言われて、『ハイ…』とかそんな感じですよ(笑) 自分が一番ビビっているのに、生徒にハッタリで『やるんだぞ』みたいなことを言って」と笑顔でその時を回想する田中。「ただ興奮しながら指揮を執っていました」というこの大会は、初戦突破自体が実は新潟県勢にとって13年ぶりだった。この躍進が新潟明訓も含めた県勢各校にとって、「全国に出ることが目的だった」意識を少しずつ変容させていくきっかけになったことは間違いない。
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