「東京五輪への推薦状」第54回:道行く人も振り返る、前橋育英の“ジャイアント・シンデレラ”榎本樹
ゲキサカ / 2018年2月16日 17時30分
2020年東京五輪まであと2年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ
「道ですれ違う人も自分のことを分かってくれるみたいで……」
第96回高校サッカー選手権大会を締めくくった決勝戦での決勝点。あの一瞬を境にして前橋育英高FW榎本樹の“知名度”が爆発的に向上したことは想像に難くない。あっという間に“シンデレラ”となったようなものだ。
ここまで決して順風満帆だったわけではない。中学時代はそこまで高い評価を得られておらず、第一志望だったチームのセレクションには受からず、前橋育英へ進むことになったと言う。だが、この判断は結果として正解だった。ドリブル勝負が武器の攻撃的MFから、185cm級にまで伸びてきた身長にも合わせてセンターFWへコンバートを受けると、ポストワークやヘディングに磨きをかける中で、新たな場所で才能が開花していった。よく参考にする選手も、あこがれのロナウジーニョから、ヴァーディや先輩である皆川佑介に変わった。
前橋育英でもその実力は徐々に認められていった。前主将のMF田部井涼は「高さがあって、速さもある。『こいつは来るな』と思っていた」と振り返る。しかし、山田耕介監督も含めてこうした褒め言葉の次に来るのは決まって「ただ」とか「でも」という接続詞である。榎本本人が「私生活がダメダメでした」と言うように、オフ・ザ・ピッチの意識が低く、それがネガティブに作用していた。
昨夏には、高校総体を前にしたピリピリした時期に大寝坊を「やらかして」(榎本)先輩と首脳陣の大ひんしゅくを買い、1週間近く全体練習への参加を許されなかったこともある。「草むしり、していましたね」(田部井涼)。
メンバーに入れるかどうかという瀬戸際の時期にやらかすこと自体がある意味で大物ではある。そして山田監督が迷った末に最後に選んだ選手としてメンバーに滑り込むと、いきなり初戦(三重高戦)からハットトリック。大会通算5ゴールで得点王にまで輝くこととなった。ピッチ外での失態もあり、数少ない下級生での起用という事情もあってプレッシャーはあったはずだが、重圧を跳ね返す活躍ぶりだった。
前橋育英に入って磨かれたという前線でハードワークする能力もあり、高校選手権では軽量級FW飯島陸とのコンビで泥臭く体を張りつつ、しっかり周りも“見えている”特長を発揮。アシスト役やプレス要員としても機能した。決勝点“のみ”の男だったわけでは決してないだけに、最終学年を迎える今季の飛躍に自ずと期待も高まるところではある。
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