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「安心できる居場所を作りたい」。FC東京と二人三脚で歩んできた知的障がい者のクラブ「トラッソス」のポリシー

ゲキサカ / 2019年5月1日 19時0分

「夕方からジュニアユースの子を観るときは、生徒たちも指導する大人たちも一生懸命。でも午前中は笑ってボールを追いかけている。そのバランスが自分の中でとれなくなっていきました」

 介助員のアルバイトをしていた頃、中学3年生の自閉症で登校拒否が続いていた男の子がいた。学校側から「体育の授業をやってほしい」とリクエストがあり、障がいのある人に初めてサッカーを教えた。しかしその男の子は、吉澤氏がボールを蹴っても最初、ソッポ向いてしまう。「この子が楽しんでやってくれるにはどうしたらいいんだろう」と指導者魂に火が付いた。

「ボール蹴ってごらん」と言って、置いてあったボールをたまたまボールを回してみた。すると絵柄が楽しかったのか、一度はソッポを向いたその子はボールに向かった。蹴り終わって、再びボールを蹴ったら、そのボールが見事にゴールに入った。

 吉澤氏はその男子生徒のこれまでの経験を一生懸命、推察しようと努め、サッカーをやることで自信を持てるように導いた。すると、その子がサッカーをするために週1回、学校に登校するようになり、数か月後には、秋の文化祭で全校生徒の前で主役を張るまでになった。その子に関わっていた先生は涙を流していた。

「当時、知的障がい者に対して何の知識もない。ただ興味を引きたかっただけなんです。サッカーに関心のないように見えた子が、でもそこで変化を見せてくれた。そこが面白いな、と感じたんです。僕が長い間サッカーをしてきて、『誰かと一緒にサッカーをしたい』と思ったのが彼ら(障がい者)が初めてでした」

 トラッソスはこの4月の時点で幼児から成人までの生徒で構成されるスクール生76人と、原則、高校生以上のクラブチームに61人が在籍。年齢は幼稚園の年長から45歳と多岐にわたる。大事にしていることは「やりたくなるサッカー」。自発的に行動を促す雰囲気つくりや選手への声のかけ方をコーチ陣も常に学び続けており、「発達性協調運動障害」を研究しながら現場で実践指導を続ける筑波大の澤江幸則准教授を招き、定期的に勉強会も開催している。
提供:トラッソス
 彼らは練習の時から同じウェアを着ている。試合では統一しても、練習からそろえるクラブは珍しい。これも吉澤氏のこだわりのひとつだ。

「視覚から『みんな一緒の仲間』『団体の一員になる』ということを植え付けて壁をなくしたいんです。(障がいの有無は関係なく)僕は『受容感』が大事だと感じています。誰かが僕を受け入れてくれたことをちゃんと感じられること。そこに気づいたときに『ああ、僕ここにいていいんだ』と思う、この相互関係です。僕がいくら受け入れても、相手が『受け入れてもらった』と感じていなかったら、その距離感は遠いままですから」

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