スタンドの仲間を見てあふれた涙。前橋育英MF笠柳翼はそのドリブルで信じた未来への道を突き進む
ゲキサカ / 2022年1月5日 12時21分
[1.4 選手権準々決勝 大津高 1-0 前橋育英高 フクアリ]
それまでは気丈に振る舞っていたものの、応援席へと挨拶に向かい、スタンドに立つチームメイトたちの顔を見ると、こらえていた感情が静かにこぼれ出す。勝ちたかった。まだ、みんなとサッカーを続けたかった。
V・ファーレン長崎への入団が内定している、上州のタイガー軍団を牽引したナンバー10。前橋育英高MF笠柳翼(3年=横浜FCジュニアユース出身)は、黄色と黒のユニフォームであふれる涙をそっと隠した。
準々決勝までも、決して思うようなパフォーマンスを披露できたわけではない。初戦の草津東高(滋賀)戦は、チームこそ4-0と快勝を収めたものの、自身はノーゴール。「自分としては今日のプレーは最悪だった。次の試合で得点とかアシストをもっと増やさないといけない。本来は自分が勝たせないといけない立場なのにチームに助けられた」と唇を噛む。
2回戦の三重高(三重)戦でようやく大会初ゴールを記録したが、3回戦の鹿島学園高(茨城)戦では、終盤のビッグチャンスでシュートをGKにぶつけ、主役の座は後輩のFW高足善(2年)がさらっていった。追求し続けてきた「チームを勝たせられるような選手」の真価が問われる大津高(熊本)との大一番。気合が入らないわけがない。
アクセルとブレーキを交互に踏み込むような、緩急に富むドリブルはこの日も随所で繰り出すものの、なかなかゴールに結び付かない。前半11分にはカウンター気味のアタックから失点を許すと、以降も攻勢の時間が続くにもかかわらず、1点が遠い。
後半18分。負傷の影響でベンチスタートだった、群馬内定のDF岡本一真(3年)がピッチに登場する。「良い仲間でもありながら、ライバルでもある」という盟友は、普段の右サイドバックではなく、自らの後方に当たる左サイドバックの位置に送り込まれる。采配の意図は十分に理解していた。中央に、縦に。それまで以上に笠柳はピッチを自在に駆け回り、相手のゴールへと迫っていく。
それでも、5バック気味で守備意識を徹底した大津の堅陣は揺るがない。最後はセットプレーにGK渡部堅蔵(3年)も前線まで上がってきて、必死に同点ゴールを狙うが、一歩及ばず。0-1で試合終了のホイッスルを聞く。
少しだけ立ち尽くした後、笠柳は立ち上がれないキャプテンのDF桑子流空(3年)の元へ駆け寄り、優しく抱き起こす。しばらくは必死に感情を押し殺していたが、試合に出ることが叶わず、スタンドから拍手の声援を送り続けた仲間の姿を見ると、もう我慢できなかった。
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