貫いたのは、やり合わない勇気。関東一が「勝負へのリスペクト」と「敗者へのリスペクト」で呼び込んだ国立切符
ゲキサカ / 2022年1月5日 19時13分
右サイドバックでスタメン出場したDF倉持耀(2年)は40分間で全力を出し尽くし、後半開始からはDF下田凌嘉(3年)がそのバトンを引き継ぐ。左サイドバックのDF矢端虎聖(2年)も課された役割をまっとう。もちろん際どいシーンはあったが、相手のサイドハーフにフリーでシュートを打たれる局面は、ほとんど作らせなかった。
この戦い方を選択した背景には、もう1つの理由があった。「私自身の中で一番大きかったのは、中津東、尚志、矢板中央に勝って我々はここまで来たので、もちろん我々のやりたいことがあったとしても、『我々と戦ったチームに失礼があってはいけないな』ということは凄く思っていました。もし、これが矢板中央だったら、尚志だったら、間違いなく粘り強く守れるはずだったので、そこで我々が出ていって、大敗してしまって、『やっぱり他のチームが行った方が良かったんじゃないか』と言われることだけは避けなければいけないことでした」(小野監督)。
中津東も、尚志も、矢板中央も、もちろん全力を尽くして勝ちに来たことは言うまでもない。その相手を倒して、この準々決勝のステージまで勝ち上がってきた。彼らの勝利に対する強い執念を目の当たりにしてきたからこそ、自己満足で終わるような戦いだけは見せられない。目の前の勝負への、そして刃を交えた敗者へのリスペクトが、この日の関東一を貫いていた。
指揮官が名指しで「今回は肥田野が守備を頑張ってくれました」と称えたMF肥田野蓮治(3年)は、チーム屈指のテクニシャンだ。FC東京の下部組織で育ち、得意の左足を武器に攻撃面で今大会も違いを見せてきた。
その肥田野が、右サイドで守備に奔走する。対峙したのは磐田内定のMF古川陽介(3年)。大会ナンバーワンドリブラーとも称されるタレントに、何度も何度も振り切られながら、何度も何度も追走する。その圧倒的な個の力の差を突き付けられ、心が折れそうになったであろうことは想像に難くない。それでも、必死にそのドリブルに食らい付き、何とか防ぎ切ろうとする姿には、この試合の勝利に懸けるチームのプライドが凝縮されていた。
劇的な勝利を収めた試合後。小野監督はオンライン会見で、次のような言葉を残している。「やはり『ここまで勝ってきた責任があるな』ということはずっと思ってきたので、粘り強く戦わなくてはいけないなという気持ちが強くて、我々をきっと今まで戦ったチームが支えてくれたんじゃないかなと思っています」。
もちろん東京都の予選も含めて、彼らの軍門に降ってきたチームの想いを背負って、関東一が向き合った80分間とPK戦。あるいは高校選手権史上に残るような一戦は、『勝負へのリスペクト』と『敗者へのリスペクト』を念頭に置いた指揮官の『やり合わない勇気』を、選手が汲み取った末に辿り着いた“奇跡”だったように思えてならない。
(取材・文 土屋雅史)
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