みんなが連れてきてくれた国立で示した45分間の覚悟。戦線復帰の前橋育英MF柴野快仁が繋ぎ切った「勝利のバトン」
ゲキサカ / 2025年1月12日 7時45分
「もう自分が出る時は、負けている時かあまりチームがうまく行っていない時で、そこで『変化を付けるために出す』ということは言われていたので、パスで自分がリズムを作るためにも、落ち着かないとダメだということはわかっていました」。
自分に課せられた役割を頭の中で整理しながら、緑の芝生に足を踏み入れると、今まで味わったことのないような感情が湧き上がってきたという。
「『人がこんなにいるんだ!』と思いましたし、やっぱり見ているのとピッチに立つのでは全然感覚が違って、『凄いところで試合に出ているな』って。もう出た瞬間からずっと笑っちゃうぐらい楽しくて、みんなの応援をピッチで聞けたり、こんなに強度の高い試合に出られることが、こんなに幸せなことなんだなということが、よくわかりました」。
ボールを受けて、捌く。ボールを運んで、散らす。「自分が焦ってしまっては、チーム全体が焦ってしまうことはわかっていますし、自分は常に冷静に周りを見て、一番良いところへ効果的にパスを出すことを狙っていたので、そういう面ではチームの助けになれたのかなと思います」。柴野と白井の投入で一気にアクセルを踏み込んだ前橋育英は、後半3分からの10分間で3点を連取。スコアを一気に引っ繰り返す。
しばらく試合から離れていたこともあって、柴野は改めてボランチでコンビを組む“相方”の存在の大きさを感じていた。「久しぶりの試合で、少し感覚を忘れかけていたところがあったんですけど、『少しミスしても陽さんがカバーしてくれる』という、自分の中での安心感があるので、自分のことだけを考えてプレーできましたし、自分が自由に動くためにも、陽さんは凄く大事な存在かなと思います。今日も本当に感謝しています」。キャプテンも務めるMF石井陽(3年)との連携もばっちり。リードを奪ってからも、確実にゲームを支配しながら、時計の針を進めていく。
ファイナルスコアは3-1。「久しぶりに試合に出たので、普通にキツかったです(笑)」。45分間で中盤に安定感をもたらした柴野は“勝利のバトン”を繋ぎ切り、チームも逞しく決勝進出を手繰り寄せた。
いよいよやってきた全国ファイナル。先輩たちに、監督をはじめとしたスタッフに、そして家族に恩返しするための舞台を前に、柴野は確かな決意を口にする。
「本当にもう誰よりも走って、チームの勝利に貢献しないと、みんなに合わせる顔がないというか、そういう気持ちでやることは決めているので、絶対勝利という形でみんなに恩返しできるように頑張りたいです。自分の得意のドリブルで前を向いて、相手を1枚剥がしたり、決定的なパスでチームを勝たせられるような活躍をしたいなと思っています」。
日本一まではあと1勝。どんな形でも、出場するからには今持っているものすべてをぶつけて、みんなで最高の景色までたどり着いてやる。試合に出られることへの感謝を胸に、柴野快仁はそのエネルギーが尽きるまで、国立競技場のピッチを全力で駆け抜ける。
(取材・文 土屋雅史)
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