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R&B愛好者の底力を感じた3日間。「いま本当にパリでは五輪なんてやっているのか?」という疑問が…(松尾潔)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年8月2日 9時26分

 28年前の「その日」、ぼくは当時の定宿だったロサンゼルス・サンタモニカのホテルのひなびたバーにいた。カウンターにもたれかかり、天井から吊るされたテレビの小さな画面に見入っていた。映し出されるのはもちろん開会式。ジャム&ルイスの新曲が聴けるという情報を、ぼくは現地の音楽関係者から聞いて知った。まだインターネットの個人利用が一般的ではない時代、口コミこそが最速の情報収集源だった。

 喉は渇いてばかり。薄いビールを何杯かおかわりして、居合わせた宿泊客たちと乾杯を何度かくり返した。自分と同じ肌の色をした客はほかにはいない。ついに始まったね、アトランタ・オリンピック。ぼくがそうつぶやくと、最も濃い色の肌を持った男性が言った。

「アトランタ・オリンピックと呼ぶのは間違いじゃないけど、文字通りの意味だけなら十分とはいえない。これはダーティ・サウス(イケてる南部の)オリンピック、そう、ブラック・オリンピックなんだ」

 それまで米国で夏季五輪は3回行われたが、南部での開催は今回のジョージア州アトランタが初めて。それは初めての「黒人五輪」も意味するというのが彼の言い分だ。ときの大統領は民主党のビル・クリントン。76年の大統領選では、元ジョージア州知事ジミー・カーターの選挙スタッフだった、ジャズサックスの得意な男だった。このハンサムガイは、翌97年にセクハラ訴訟を起こされ、さらにその翌年には弾劾裁判にまでかけられる……余談が過ぎたようだ。とにかく今になって思うのは、あの夏ぼくは五輪開催にさほど抵抗を覚えていなかったということだ。

 29日(月)のTBS『NEWS23』にコメンテーターとして出演した東京大学准教授の斎藤幸平さんは、小川彩佳キャスターからパリ五輪について訊かれると「いやあ、全然見てないですね。私、反五輪で(視聴を)ボイコットしてるんですけど」と答えた。これに小川キャスターは「ボイコットなんですね?」と確認を求めた。斎藤さんは「はい」と即答したあと、過剰な商業主義が好きではないというのはあるが、最も大きな理由はスポーツウォッシュに加担したくないからだと言いきった。

 戦争を理由にロシアは今回のパリ五輪に参加できない。だが、国際司法裁判所(ICJ)によってジェノサイドをやっているとされ、占領政策自体も国際法違反だと勧告を受けているにもかかわらず、イスラエルは国際社会や国際オリンピック委員会(IOC)から国としての参加を認められている。これはダブルスタンダードではないかと斎藤さんは指摘する。主張はこう続く。そのダブルスタンダードから目を背けたまま、五輪に夢中になって『平和の祭典良かったね』という感想をもつ人びとが増えると、パレスチナの人たち、ガザの人たちは忘れられ、ジェノサイドも見過ごされてしまうのではないか。自分はそのことに微力でも抗いたいので(五輪を)見ないようにしている。

 斎藤さんの発言はすぐさまネットの話題になった。よくぞ言ったり斎藤幸平、である。よくぞ引き出したり小川彩佳、かも。ぼくはといえば、開会式だけは観た。各競技のテレビ観戦に熱中する人たちには全く共感を覚えないが、彼らをきつく責め立てようとまでは思わない。ただ斎藤さんの言論をメディアから排除するようなことだけは絶対にあってはならぬと強く思う──そうつぶやいたX投稿もまた、なんと3時間後には某スポーツ紙にコタツ記事化されたのだが。ネットニュースのネタとしてお手軽に消費された感じは否めない。何だかなぁと思ったので、こうして逆コタツ記事化する次第。真夏のコタツ合戦か。猿も蟹も避けて通るわい。要らんよ、それ。

(松尾潔/音楽プロデューサー)

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