認知機能が低下すると、どうしてゴミ屋敷になってしまうのか【正解のリハビリ、最善の介護】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月6日 9時26分
ねりま健育会病院の酒向正春院長(C)日刊ゲンダイ
【正解のリハビリ、最善の介護】#53
「足の踏み場もありませんでした。どうやって暮らしていたのかわかりません……。ゴミがあふれて汚れや臭いもあり、部屋に入るためにモノを動かすのも大変でした。患者さんは本当に自宅へ帰れるのでしょうか?」
入院中の軽度認知症患者さんの家庭訪問に行ったセラピストが言いました。
一方、患者さんは「もともと自宅では普通に暮らしてましたよ。掃除もしてるし、特に困ることはないですよ。家に帰ったら、大丈夫です。ちゃんとやれます。家の掃除も、帰ったらゆっくりやっていきます」と答えられました。
同じ現場を目にしている2人の感想が、セラピストと患者さんでこれほど違います。自分の「家」や「部屋」という空間は、患者さんのすべてを包み込んで守ってくれるのだと思います。患者さんは、ゴミが散乱した家の中の状態を問題とは感じておられず、むしろ安心感があるようです。
今後、自宅退院されても掃除はあまりされないでしょう。業者に頼んで一度きれいに掃除、廃棄、整理整頓してもらっても、誰かの継続的な支援がないと同じ状態に戻るのは時間の問題です。このため、患者さんと一緒に掃除や整理整頓を協力してもらえる介護サービスを整えてから、独居自宅退院していただきました。それにしても、なぜ「ゴミ屋敷」になるのでしょうか。
■片付けは認知機能を鍛える大切な習慣
原因としては、住人が認知症や高次脳機能障害がある場合が多く、その重症度によって、病識低下、注意力低下、遂行困難、記憶障害、社会的行動障害が生じていることにより発生します。つまり、家や部屋が「汚い」とか「臭い」という意識がなくなるため、きれいに整理整頓して片付けるという必要性がなくなるのです。
軽症では、多少気になる場所があっても、すぐに忘れて気にならなくなり、すべてをきれいにする集中力はとても保てません。掃除を遂行する意思も生じません。また、モノを捨てようにも、何を捨てたらいいのかの判断もできなくなります。
中等症では、一般的にゴミと思われるモノが自分の所有物=宝と思い込むこともあります。
さらに、汚い、臭いという意識もなくなり、ゴミと一緒に生活するようになります。ゴミ屋敷でも“住めば都”なのかもしれません。そして、ゴミが部屋や家からあふれ外まではみ出すことになります。しかし、他人やご近所に迷惑をかけているという意識はまったくありませんし、「ゴミも自分のモノだ」という所有意識のみが強く残るため、地域との社会問題になってしまうのです。
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