その患者さんにとって競馬が脳機能リハビリに有効なのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月13日 9時26分
ねりま健育会病院の酒向正春院長(C)日刊ゲンダイ
【正解のリハビリ、最善の介護】#54
「先生、今週もとりましたよ。新馬戦は難しいけど、古馬は予想しやすいです。毎週の予想がホントに楽しいです。しかし、先生の予想もよく当たりますね」
毎朝の全員回診の時、患者さんからうれしそうな声であいさつされました。
この患者さんは54歳になる独身の男性です。右脳出血後に重症左片麻痺と高次脳機能障害(劣位半球症候群)を生じました。著名な回復期リハビリ病院で6カ月間治療を受けましたが、車椅子介助の状態のため、自宅退院ができませんでした。
そこで、自宅退院を目指すなら、超強化型老健「ライフサポートねりま」でのリハビリ治療が好評だとご紹介いただき、入所されたのです。それから、当老健で約6カ月間の入所リハビリを行い、杖歩行とADL(日常生活動作)が自立となり、劣位半球症候群も軽快されて、独居自宅退所が可能となりました。
高次脳機能障害は重度の状態が長期間続くと、脳血管性認知症へ移行します。このため、認知機能を向上する訓練を年単位で継続することが必要です。認知機能低下を予防するためには、筋肉と体力を維持する運動(脳筋連関)を継続すること、新鮮なコミュニケーションを保つこと、そして、その人なりに生活を楽しむことの3つが重要になります。今回は「楽しむ」についてお話しします。
■「楽しむ」ことの重要性
この患者さんの楽しみは「競馬」でした。なぜ楽しいのかを患者さんに聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。
「だって、お正月以外は毎週末に楽しめるじゃないですか。麻痺があっても、屋外訓練でコンビニに行って、競馬新聞や競馬週刊誌を買うことが楽しいんですよ。毎週、予想しています。時々、当たるとうれしいです。それにしても、先生はなんで毎回当たるんですか?」
これほど趣味で毎日楽しめて、さらに、屋外歩行や買い物をする目的があると、毎日少しずつ運動機能訓練もできますし、他の人と会話することで、感情も精神も高次脳機能も改善します。
さらに、どうやって競馬を予想するのかを聞いてみました。
「調子のいい馬です。そして、結果にロマンがある予想をします。でも、騎手の力量や馬の血統も考えますよ。距離に応じて強い血統があるんですよ。そして、季節によって強い血統もあるんです。夏競馬に強い馬は基本的には弱い馬なんで、重賞は勝てません。だから、夏だけ狙うんです」
この患者さんの予想法には注意力や集中力が必要ですし、記憶力も要りそうです。
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