ひょっとしたら死ぬかも…元テレ朝アナの佐々木正洋さん髄膜炎を振り返る
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月18日 9時26分
結局、かみさんはヨーロッパ旅行を満喫して、フランスのエシレバターなんか買って帰ってきましたよ(笑)。
でも、自分が病院に足を運べない代わりに息子をよこしたんです。面会にやってきた息子は「なんで早く言わないんだよ」と言ってくれて、それがちょっとうれしかった。「そっちも仕事があるんだから迷惑だろうと思ってさ」と返しましたが、久しぶりにそんな父と息子らしい会話ができて、かみさんにちょっと感謝でしたね(笑)。
髄膜炎は幸いにもウイルス性でしたが、あまりの頭痛に「ひょっとしたら死ぬかも」と思ったときがありました。でも、不思議と怖くなかったんです。それまでの自分は死への恐怖があったのですが、実際に死を身近に感じてみると、意外と客観的でそんな恐怖がないことが新たな発見でした。
走馬灯のように過去を思い出すこともなかったし、家族に会いたいという気持ちすら湧かなかった。そのくらい現状の自分のことで精いっぱいだったのです。治ってから、親しい友人には「大丈夫だよ、本当に死ぬかもしれないってときは怖くないから」と体験談を語っています。
髄膜炎のあと、17年の年末には「逆流性食道炎」と「突発性難聴」を発症し、20年には「虫垂炎」、3年ほど前には「大腸ポリープ」と、次々と病気に見舞われました。
今考えてもつらいのは、虫垂炎のとき、手術の後、やけに気弱になって病室から今は亡き渡哲也さんに電話をしてしまったことです。フリーになってから、ちょくちょくお仕事に呼んでいただいて、一緒に渡さんの隠れ家的なお店でお食事をさせていただいたこともありました。「渡です」と渋い声で残してくださった留守電メッセージをいつまでも消せずにいたくらい尊敬する存在でした。
不意にかけた渡さんへの電話は留守電になっていましたが、盲腸で入院していることと、なぜかお声が聞きたくなった旨をメッセージに残すと、10分後にまさかの折り返しのお電話があり、大緊張しました。まだ手術の痕が痛かったのに、そんなことを忘れてベッドに正座していました。渡さんは「治ったら前に食事に行ったところへ行きましょうね」と言ってくれたのです。もう、それだけですっかり回復した気分でした。
それが6月中旬のことで、渡さんは8月10日に亡くなりました。お電話のときには、もうかなり悪かったんです。それなのに有頂天になって、「なんて自分のことしか考えていなかったのか」と自分を恥じました。と同時に、渡さんの懐の深さを感じずにはいられませんでした。
病気から学んだことは、自分が弱い立場に立った時に、人の自分に対しての本当の気持ちがよくわかる、見えるということです。
(聞き手=松永詠美子)
▽佐々木正洋(ささき・まさひろ) 1954年、福岡県出身。1977年にテレビ朝日に入社。昼のワイドショー「ワイド!スクランブル」の名物コーナー「夕刊キャッチUP」を16年間担当するなどし、2012年にフリーに転身した。最近は舞台にも挑戦中で、11月14~18日には内田康夫生誕90周年記念公演「軽井沢殺人事件~浅見光彦VS信濃のコロンボ~」(渋谷・伝承ホール)に役者として出演する。
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