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戦い続けた女性の列伝『「時代」を切り拓いた女性たち―国境を越えた14人の闘い』(花伝社刊、原野城治)

Global News Asia / 2024年6月21日 12時0分

 東京都知事選挙は大物女性政治家2人の戦いとなりそうで、日本の政治の世界も、ようやく女性の時代の到来が予感される。そんな時代を見通すように現れたのが本書で、明治から平成まで、日本と世界をボーダーレスに生きた女性の列伝を収めた。男性編となる『国境なき時代を生きる―忘じがたき記憶の物語』も2021年に出版されている。

 本書が取り上げた女性は、津田塾大学の創設者、津田梅子から国連難民高等弁務官の緒形貞子まで「逆境の時代を突き抜けた女性」14人。留学や外国王族との国際結婚、海外公演、国連機関の幹部、混血孤児など外国との関わり方はさまざまだが、男性支配が当然だった時代、彼女たちの生涯が戦いの連続だったことを知らせてくれる。

 例えば日本初の国際女優、川上貞奴。花柳界で芸者として名を馳せた後、欧米を席巻する大女優になったが、帰国後の1917年にきっぱり引退。後半生は、芸者時代の憧れの対象で、福沢諭吉の娘婿、福沢桃介に愛情を注いで過ごした。芸者時代を含め、名声に包まれた波乱万丈の人生だが、一切執着せずあくまで自身に忠実に、静かに生涯を終えた。

 「小さな巨人」と呼ばれた緒方貞子。修羅場に足を踏み入れる徹底した現場主義からこう呼ばれた。緒方が過酷な現場体験を踏まえて打ち出したのが「人間の安全保障」で、紛争で国家が機能しなくなった時、外からの力で、個人の生命や人権を守ろうという概念だ。国連が国家だけでなく人間の保護を打ち出すようになるきっかけをつくった。

 緒方の母方の曾祖父は、五・一五事件で暗殺された犬養毅首相。父は外交官。夫の父は元朝日新聞副社長で戦後の吉田内閣で副首相だった緒方竹虎。昭和史を背負うような個人史で、米国で博士号を取得した際の論文は「満州事変外交政策決定過程の研究」だった。

 本書執筆のきっかけとなったのは、取材先のJT生命誌研究所の中村桂子館長(現名誉館長)が発した「人類は女性のタマゴ(卵子)でつながっています」の言葉だったそうだ。女性と母性はイコールでなく、本書にもあるように女性解放と母性保護の関係には論争もあったが、両者は密接な関係にある。

 列伝の女性の多くは、夫や子どもとの濃密な関係や葛藤が人生の大きな部分を占めている。このことが、前著の男性編には感じられなかった重たさを本書に与えているように思える。女性の解放なり権利を考えると、自分の家族、人生、社会を見つめ直さずにいられなくなる。

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