2020年<隈研吾>の設計でリニューアルオープンした建築物とは!?…京都だけにある「名建築」を巡るおさんぽルート【専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年2月28日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
京都には、カフェやホテルとして利用できる名建築があります。そのなかには、2020年隈研吾の設計でリニューアルオープンした話題の建築物も。おさんぽしながら立ち寄りたい名建築の数々について、『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版 』(エクスナレッジ)著者の円満字洋介氏が紹介します。
二条駅界隈へは染め物業者が集まった
二条駅界隈は鉄道開通とともに倉庫街となり、駅の西側は田園地帯だった。そこへ綿ネル製造のレンガ造り工場が立地してから歴史的風景は展開する。工場のまわりに京染め業者たちが市内から移ってきた。堀川沿いは江戸時代以来、京染め業者の集まっていた地域で今でも染め物屋が多い。堀川は戦後もずいぶん長く友禅流しの光景が見られた。この地域は京都のなかでもまちづくりに熱心な地域のひとつとして知られ、工房めぐりなどのイベントも開かれている。
唐破風を備えた銭湯
JR二条駅から南へ向かう、NISSHAの西側の地域は、戦前の借家街がまるごと残っている。借家街につきものなのが銭湯だ。この芋松温泉も周辺借家街とほぼ同時にできたと考えてよい。唐破風を備えた立派なつくりである。もしルートを逆にたどったなら、ここでひと風呂浴びたいところだ。
赤いレンガ工場と白い洋館事務所
七本松通りと山陰線にはさまれたNISSHAには、いろんなタイプのレンガ造りの工場がある。これだけまとまって残っているのは関西では珍しく、南側の正面入り口近くには、2階建ての旧事務所棟も見える。この工場は、元は綿ネルの製糸から織布までの一貫工場で、1,000名以上が働く大工場だった。まわりに集まったのは、市内から移ってきた京染め業者たちだ。当時、二条から壬生へかけては一大染業地帯だったのだ。
三角出窓がかっこいい
壬生川通りを四条通りから北へ向かい、姉小路通り沿いの旧京都市立教業小学校は、正面の三角出窓がスマートでかっこいい。アールデコといっても良いだろう。出窓を含めてスチール製のサッシがほぼ残っているのも珍しい。アルミよりもスチールのほうが強度があるのでラインは細くなり、よりシャープな造形が可能だ。タイルも砂岩に似た感じの珍しいものを使っている。
和と洋の不思議な調和
堀川通りを越えて三条通りを東へ、新町通りを南へ向かったこの八竹庵は、京都を代表する呉服商美濃利の井上家住宅として建てられた。数寄屋大工の上坂浅次郎が手掛けた名建築である。玄関脇の応接間と2階洋間は建築家武田五一のデザインで、和風と洋風のデザインを混ぜた武田好みのインテリアを楽しむことができる。その後、建物は京染の襦袢メーカーであった川崎家の所有となった。川崎家は所有権を自社へ移し、襦袢美術館・紫織庵として活用してきた。2021年に町家再生を手掛ける「くろちく」が取得し、翌22年より八竹庵として公開されている。
2020年「隈研吾」の設計でリニューアルオープンした建築物
祗園の街風景に馴染む学校建築
1本東の室町通りの京都芸術センターは、旧京都市立明倫小学校だ。京都の小学校は、町衆が自分たちで出資して設立し、国の学制に吸収されるまで学校の先生の給料も自分たちが払った。つまり地域立の学校だったのである。この建物にも地域で集められた寄付金がふんだんに使われている。こうした支援は学校建築に地域性を反映させることにもなった。ここは祇園祭地区なので、正面の階段室は鉾をかたどったといわれている。3つの丸窓と2本の角を持ち、一見かたつむりのようにも見える。校舎内部もほぼ竣工時のまま残されており必見だ。現在、芸術センターとして活用されており部分的に入場もできる。カフェもあるぞ。
片岡らしいセセッション
烏丸通りと蛸薬師通り角のフローイングカラスマは、片岡安らしいセセッションスタイルだ。片岡は建物を1枚のタペストリーのごとくデザインする。ボリューム感もなく、陰影は薄く、簡略化された装飾を平面的に散りばめるのが特徴だ。この建物はそんな片岡好みの典型である。
洒落たレンガ造の元馬小屋
高倉通りの水口弥は、元運送業者の馬小屋だと聞いている。入り口が左に寄っているのは、右側に馬を入れたからか。旧笹屋倉庫ともいい、アーチのキーストーンの「さ」は笹屋の「さ」で、よく見れば、隣接する土蔵の鬼瓦下にも「さ」はある。京都商工大鑑(1928)の運送業者一覧に笹谷清次郎があり、住所もぴったりなので笹屋はこの人なのだろう。その後笹屋がどうなったかよりも、ここにいた馬たちがどうなったのかが少し気になる。
冬しか見えないファサード保存
水口弥のひと筋西には、ウィングス京都がある。せっかく外壁保存したのに、なぜこんなにたくさん街路樹を植えるのか。ファサードは木の葉の落ちた冬に見るのがよろしい。
マンサード屋根に窓が残る
烏丸通りから三条通りを西へ入った文椿ビルヂング、竣工時は西村貿易の社屋だった。西村家は京都を代表する京友禅の老舗千総の当主で、高島屋の飯田家と並んで伝統工芸の近代化に功績のあった家柄だ。さて、この建築はファサードが改造されている。1、2階窓の間の縦ラインは戦後の改造だろう。トップのくさり模様も当初は通っていたように見える。マンサード屋根(腰折れ屋根)に窓が残っているのは珍しく、銅板の飾りがアールヌーボー風かドイツ表現主義的に見える。
電話局の転用例
ルート最後の新風館は、2020年に隈研吾の設計でリニューアルオープンした。建物は逓信省の吉田鉄郎の設計で、1926年に竣工した。電話局として使われてきたが、2001年にリチャード・ロジャースの改修設計で商業施設「新風館」として再生した。このとき元の建物の東半分を失っている。今回のリニューアルでは、ロジャースの設計した部分を解体してホテル棟に建て替えている。北側玄関は吉田の設計した当初のもので、教会堂のような交差ボールト天井が見事だ。外壁のタイルの模様貼りも楽しんでほしい。
円満字 洋介
建築家
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