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米IAC会長「トランプ系メディアの株を買うヤツは“マヌケ”」…〈もしトラ〉のカギを握る、とある企業の正体

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月19日 8時15分

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2024年11月に実施される米大統領選。トランプ前大統領(以下、トランプ氏)の再選が実現するか否か、高い関心が集まっています。このカギを握るのは、同氏が大株主として立ち上げたSNS「トゥルース・ソーシャル」を傘下に持つトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(以下、TMTG)という企業かもしれません。一体どのようなことでしょうか? ソフトバンク孫正義氏の元右腕である三木雄信氏がわかりやすく解説します。

「もしトラ」のカギとなる、TMTGの株価が乱高下

トランプ氏が大株主として立ち上げたSNSであるトゥルース・ソーシャルを傘下に持つTMTGが、3月26日に上場しました。

取引開始直後に株価は急騰し一時は70ドルを超え、時価総額は90億ドル(約1兆3,700億円)以上となりました。トランプ氏はこの株式の57.6%を保有しており、結果トランプ氏の資産は60億ドル(約9,000億円)以上の価値となったのです。

この上場のタイミングでトランプ氏は、大統領選や複数抱える訴訟費用ため資金調達が必要な状態であることもあり、TMTGの株式がトランプ氏の今後の重要な資金源として話題となりました。

しかし3週間後には…

しかし、4月1日にはTMTGは2023年度通期の決算を発表し、株価は37ドルまで下落。さらに15日に18%安、16日に14%下落し、結局22.84ドルとなってしまいました。つまり、3月26日の上場直後につけた史上最高値から70%以上下落したことになります。

決算の内容がよくなく、売上410万ドル(約6億円)、純利益が5,800万ドル(約88億円)の赤字だったことに加えて、監査法人から継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)を巡る疑義が提起されることからでした。そのうえ、トランプ他の経営陣が株を売ることを可能にする手続きを始めたことと、膨大な投資を必要とするストリーミング事業を開始すると発表したことも影響したのでした。

この結果、トランプの資産も大幅に減少しました。加えて、トランプ氏はこの株について、上場に伴うロックアップ規制により、上場後6ヵ月は売却や保有株を担保にした借り入れをやることは原則できません。このこともあり、トランプ氏が大統領選や複数抱える訴訟費用ため、十分な資金調達ができるかどうかはまだ見通しは立たないと状態といえるでしょう。

トゥルース・ソーシャルを傘下にもつTMTGの実力

このようにTMTGの2023年度通期の業績は、非常に厳しいものでしたがその実力はどうなのでしょうか?

Amazonは創業から6年間はずっと赤字だった

実際、IT業界では市場で競合とのシェア獲得競争に打ち勝つために、赤字であっても顧客獲得に注力していく戦略を取る場合もあります。たとえば、Amazonは、1995年にサービスを開始し1997年に株式を上場しましたが、ずっと赤字で、黒字化したのは2001年第4四半期でした。つまり、約6年間ずっと赤字だったということになります。

特に2000年にはネットバブルの崩壊でAmazonの株価は80%以上下落するという苦境に陥りました。その際にも、ジェフ・ベゾスはアニュアル・レポートの冒頭で、次のようなことをレポートしていました※1

・2000年の顧客数は2,000万人で、1999年の1,400万人から増加した。

・売上高は1999年の16億4,000万ドルから2000年には27億6,000万ドルに増加した。

・また、最も重要なこととして、顧客第一主義を徹底した結果、アメリカの顧客満足度指数で84点を獲得。このスコアは、サービス業としては過去最高のもの。

TMTGの経営が早くも危ういといえる理由…IAC会長「株を買っている人はマヌケ」

では、TMTGもそのようなIT企業によく見られる赤字でもシェア獲得を目指す戦略なのでしょうか? ――どうやらそうでもないようです。それは、TMTGがアメリカ証券取引委員会(以下、SEC)に4月1日に提出した年次報告書※2からも読み取ることができます。そのなかには次のようにはっきりと書かれています。

TMTGは現在、同様の業界の企業が使用する特定の主要な経営指標を収集、監視、報告することはなく、今後も行うことはありません。

Amazonとは、まったく異なる経営の姿勢であることがわかります。赤字でも上場して株価を維持していくためにはその中身を詳しく株主に報告していくことが必要なはずです。

また、TMTGは、そもそも報告だけでなく収集もしていないのですから、マネジメントを「同様の業界の企業が使用する特定の主要な経営指標」という数字ベースで行っていないということですから大変危うい経営といえると思います。

また、現在のフルタイムの従業員数はわずかに36人と書かれています。競合とされているX社(旧Twitter)の社員は1,500人(2023年4月23日、英メディア「BBC」のマスク氏へのインタビュー記事による)と比べると極めて弱い体制です。

こうしたことを受けて、旅行会社エクスペディアに加えてメディア大手IACの会長でもあるバリー・ディラー氏のCNBCによるインタビューでは、「トランプ・メディアは“詐欺”であり、株を買っている人は“マヌケ”」という発言までありました。

しかし、筆者はTMTGを「詐欺」ではないと考えます。なぜならばTMTGは年次報告書で次のように明示しているからです。

・TMTGは、トゥルース・ソーシャルを成長させて収益化する取り組みで成功しない可能性があります。

・TMTGの実際の財務状況および経営成績は、TMTG経営陣の予想と大きく異なる場合があります。

・トランプ大統領と関係のある企業の多くが破産を申請しましたし、TMTGも破産しないという保証はありません。

このようにある意味、非常に正直に情報が開示されています。こうしたことを考えれば、やはり「詐欺」は言い過ぎでしょう。株を買っている人が「マヌケ」かどうかはわかりませんが。

TMTG上場の裏にある「仕掛け」

ここで読者の皆さんが疑問に持つのはどうしてそのような会社が上場できたのかということではないでしょうか?

コロナ禍でブームだった「SPAC上場」を活用

それは、アメリカにあるSPAC(スパック)という仕組みが大きく関係しています。SPACとは、“Special Purpose Acquisition Company”の略です。日本語訳では「特別買収目的会社」となります。

多くの場合、著名な経営者や投資家がその実績と信用をベースにして自ら事業を行わない「空箱」の会社、端的にいえばペーパーカンパニーを作ります。そして、その会社が、株式市場に上場し、資金を集めて上場後2年以内に将来性のあるスタートアップ・ベンチャー企業を買収するという仕組みです。

投資するプレイヤーから見れば、著名な経営者や投資家の企業を見分ける「目利き力」に賭けることができるというユニークな投資機会を提供する仕組みといえるでしょう。また、買収されるスタートアップ・ベンチャー企業からすれば、著名な経営者や投資家の経験や信用を利用して短期間に上場することができるという利点があります。

SPACはコロナ禍での金融緩和局面にあった2021年には、大いに活用され、2021年は最終的に613社がSPAC上場を果たし、1,625億ドルが調達されました。こうしたSPAC上場好調の影響もあり、2021年の米国での新規上場社数は前年比2倍となり、新規上場社数は1,007社となり、1995年以降で最高となりました。

しかし、その後開示に不備が見られ株価が低迷する企業が急増し、開示とその内容についての責任に関する規制強化の動きもありSPAC上場のブームは急速に萎んでいます。

SPACでの22〜23年の上場は100社弱、調達金額も約170億ドルと報じられています。

ちなみに、米国でのSPAC上場は地政学的リスクや⽶国の⾦融引き締め等によるIPOの市況悪化の影響やSPAC上場規制の強化の流れを受け減少傾向で、2022年上半期のSPAC上場件数は、2021年上半期と比較し、75%減となっています。

TMTGの今後の株価と大統領選の行方

TMTGの株価における今後の予想は、TMTGの年次報告書にもあるように「同様の業界の企業が使用する特定の主要な経営指標」を収集、監視、報告することはないため予測することは極めて困難でしょう。

そうしたなかでの株価の変動は、TMTGの業績よりも、トランプ自身の大統領選の状況・複数の裁判の結果がどうなるかを材料になると思われます。

実際にTMTGの年次報告書にはこのように書かれています。

〇ドナルド・J・トランプ大統領に関連するリスク    

TMTGの成功は、ブランドの人気とトランプ大統領の評判と人気に一部依存しています。トランプ大統領に関連する宣伝に対する悪影響、またはトランプ大統領のサービスの喪失は、TMTGの収益と経営成績に悪影響を与える可能性があります。

つまり、トランプという個人への人気度のバロメーターになっているのです。この意味でTMTG株は、普段株式に投資をしない人にとっても大変興味深い株なのではないかと思います。  

<参考>

※1 https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/annual/00ar.pdf

※2 https://app.quotemedia.com/data/downloadFiling?webmasterId=90423&ref=318207449&type=HTML&symbol=DJT&cdn=39d41ffb2103fb7896f15b0c5e1a5bc5&companyName=Trump+Media+%26+Technology+Group+Corp.&formType=10-K&formDescription=Annual+report+pursuant+to+Section+13+or+15%28d%29&dateFiled=2024-04-01)

三木 雄信

元日本年金機構 理事

トライズ株式会社 代表取締役社長

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