【掛布雅之が野球解説】大山悠輔は「阪神タイガースの未来を大きく左右する」存在へ
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月19日 11時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
昨年38年ぶりの優勝を果たした阪神タイガース。その中でも活躍を見せたのが大山悠輔選手です。掛布雅之氏は以前、自身の著書で、大山悠輔選手は4番バッターとして覚醒したと語っていました。大山選手の成長とはどのようなものだったのか、その著書よりご紹介します。※本連載は、掛布 雅之氏による著書『常勝タイガースへの道 阪神の伝統と未来』(PHP研究所/2023年10月27日発行)より一部を抜粋・再編集したものです。
掛布雅之が語る大山悠輔の野球の特徴
大山悠輔選手のバッティングが覚醒した感がある。元々打ちに行ったときに、頭が前に突っ込んでしまっていた。頭が前に突っ込むと当然目もボールに近づいていくことになる。
ボールに目が近づいていくと、バットを大きく振ることができなくなる。頭が突っ込まなくなって大山は、すごく前のフォロースルーが大きくなり、打球の飛距離も伸びていっている。頭が後ろに下がるような感じでバットを前に放り出せるので、目とボールとの距離がすごくとれて、バットを遠くへ放り出せるのだ。
それだけ自分の状態がよくなると、相手投手の攻め方も変わってくる。
簡単に初球からストライクを投げてはこない。外のスライダーで誘ってくるか、外のストレートやボール気味のストレートを投げて誘ってくる。アウトコースを見せてインコースで起こしにきたりもする。両サイドの出し入れで揺さぶってくるのだ。
そして、アウトローのボール球で空振りか引っかけさせる配球をしてくるのだが、その配球に対しても大山は頭が前に突っ込まなくなったことで見極められるようになった。
目を近づけると意外に両サイドのボールを追いかけてしまうものだ。でも顔が止まっていると、両サイドのボールを追いかけずに見極められる。大山自身の四球数は2022年59個だったが、23年は99個と飛躍的に増えた。ボールを見極め、打つボールが来るまで待つ我慢もできているし、かといって大山の特徴であるファーストストライクに対する積極性も忘れていない。
そういう意味ではストレート系で攻めてくるパ・リーグのピッチャーと大山のタイミングは合うのだ。2022年6月3日の日本ハム戦での1試合3本塁打は全部ストレートだった。また、大山は失敗の内容がすごくよくなっている。それを見たときに、大山は下降線を辿るような状態にはならないのではないかと感じた。
大山の守備力も向上している。相手打者の一、二塁間を抜けようかという打球を見事なグラブさばきで好捕している。サードを守っていたからこそ、左右の動きも上手い。大山はサードを守っているときには、送球の不安があったのかもしれないが、ファーストであれば、その不安はなくなる。その守りのリズムがバッティングにもつながっているのだ。
もし一塁しか守れない新外国人が入ってきたとしても、大山を一塁から動かすのは反対だ。バッティングも崩れていくかもしれない。
阪神が勝つためにはファースト大山で固定する。守る野球はすごく大切である。打っても3割だが、守りは9割9分の確率で勝ちにつなげられるからだ。
近本選手、大山選手はバットのヘッドが投手方面に倒れ、打つ瞬間にそのまま手首を最短距離で出して打つイメージだ。
大山選手の魅力は、何よりも近本選手と同じくシーズンを通して戦える体力があることだ。2022年シーズンは23本塁打を放つ。生え抜き選手で3年連続20本塁打以上というのは21世紀初の快挙だった。 23年は19本塁打だったが、大山選手は、岡田監督の考える中軸としての役割を果たしているといえるだろう。23年はセ・リーグ打撃部門での四球数はトップである。大山選手に言いたいのは、3球目までのボールの見極めをさらにしっかりとするということだ。
阪神が常勝軍団になるために欠かせない存在へ
阪神が来シーズンも優勝するためには、四番打者の座を任された大山が、シーズンを通してきちんと四番を守り切ることにある。四番打者がある程度固定されて1年間戦えれば、前後のバッターを誰が打つかももちろん大事だが、そのバッターも非常に楽になる。勝てない責任は、やはり四番にあるのだ。
大山は私が阪神2軍監督を務めていた2016年、ドラフト1位で入団してきた選手だ。中央球界では無名だった大山の名前が読み上げられた瞬間、ドラフト会場内に響き渡った阪神ファンの悲鳴とも嘆息ともつかない反応。大山は述懐した。「悔しかった。一生忘れられない。声をあげた全員を見返してやる!」
その気概を持ち続ければ、大山は阪神の不動の四番になれるはずだ。チームの勝ち負けの責任を背負うのが「四番打者の条件」なのだ。阪神タイガースというチームは、特にその色が濃い。
極端なことをいえば、四番が打てなくてもチームは勝てる。別に私が打たなくても、真弓さんなり、バースなり、岡田が打てばチームは勝った。しかし、四番の私が打てば、勝つ確率が当然もっと高くなった。それよりも、敗戦チームの「負の部分」を背負うことが本当に大切だったのだ。
仮に私が4打数3安打しても、チャンスで打てなくて負ければ、その打てなかった一打席をマスコミに痛烈に批判される。「掛布、チャンスで凡退」。いや、それでいい。四番が責任を背負うことによって、ほかの選手たちが非常に楽にプレーできるからだ。「四番」は正直難しい。だからこそ「四番」なのだ。
大山がヤクルトの村上宗隆や巨人の岡本和真のように、勝っても負けてもフルシーズン四番に座り活躍できれば、おのずとチームの結果はついてくるだろう。
近い将来、阪神が常勝軍団になっていくためには「真の四番打者の育成」が必要不可欠だ。そして可能性があるのは大山悠輔と佐藤輝明しかいない。2人が阪神タイガースの未来を大きく左右するのは間違いない。
掛布雅之
プロ野球解説者・評論家
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