60代、70代は要注意…新型コロナの“ワクチン接種”を機に増加した「ある恐ろしい心臓病」【上皇陛下執刀医が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月21日 9時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は、発症や重症化を防ぐのに有効であることが証明されています。一方で、副反応の報告が増えていることもたしかです。本稿では、2012年の上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術を執刀した経験もある心臓血管外科医の天野篤氏による著書『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)から一部抜粋し、新型コロナウイルスのワクチン接種と心臓トラブルの関係性について解説します。
接種を機に隠れていた症状が表面化することも
ワクチン接種後に心血管障害、脳血管障害、血栓症が確認されたケースも
新型コロナウイルス感染症は、2023年、感染症法上では5類感染症となりましたが、高齢者にとってはまだまだ用心すべき感染症です。これまで無料で実施されてきた日本のワクチン接種は今後、季節性インフルエンザと同じように、希望者が一部負担金を支払っての接種となる模様ですが、新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防ぐ効果があるのは間違いなく、現時点ではウイルスから自分の身を守る最善の手段といえるでしょう。
いっぽうで副反応の報告が増えているのもたしかで、ワクチン接種後に心血管障害、脳血管障害、血栓症が確認されたケースも見られます。今のところワクチン接種との因果関係はわかっていません。ただ、ワクチン接種による免疫反応などで高熱が出ることを見ても、一部の方には健康被害に属するダメージを与えている可能性もあります。
何分、mRNA(エムアールエヌエー=メッセンジャーアールエヌエー)という”タンパク質の設計図“の入った遺伝子情報を投与するタイプの集団接種ワクチンは、新型コロナワクチンがはじめてなので、副反応も手探り状態なのです。一部の方でこれまでは表面化していなかった心臓や血管のトラブルが、ワクチン接種をきっかけに表に出てしまった可能性も考えられます。
ワクチン接種後に血圧の上昇を訴える人が増えた
実際、「ワクチン接種後に血圧が上がった」という患者さんが増えています。また、大動脈解離で救急搬送される患者さんも、これまでは1か月に1件あるかないかだったのが、多い月では2~3件に増えていた印象です。大動脈解離は前ぶれなく血管が裂けて解離し、1度目の発症で突然死する危険がある疾患です。血圧が高く、上行大動脈(心臓から出て上に向かう動脈)が太くなっている人に多く見られます。
そんな大動脈解離の患者さんが増えているのは、コロナ禍の巣ごもり生活で血圧の管理が不十分になっていることに加え、ワクチン接種による血圧上昇が引き金になっているケースもゼロとは言い切れません。しっかりした調査と解明が必要です。
そうはいっても、ワクチンは新型コロナから命を守る有効な手段です。だからこそ、心臓や血管にトラブルが起こる可能性もゼロではないと想定して対策を講じたうえで、ワクチン接種に臨むのが理想的といえるでしょう。
まずは心臓ドックなどの検査を受けて、自分の体の基礎データをきちんと把握しておくことが重要です。心臓血管系では心電図、心エコー、心臓CTの3つの検査で正常なのか異常 があるのかどうかがわかります。これにブラスして頭部MRIで脳血管の状態を確認しておけば安心です。血管トラブルが起こったときに命にかかわるのは心臓、脳、大血管ですから、 検査を受けて自分がそれぞれどんなリスクを抱えているのかをチェックしておきましょう。
ワクチン接種が「思わぬきっかけ」となる可能性も
また、血圧を日頃から定期的に測り、把握しておくことも大切になります。先ほどもお話ししましたが、ワクチン接種後に血圧が上がるケースが多く見られます。
病院で計測した場合、「上の血圧(収縮期血圧)12mmHg未満/下の血圧(拡張期血圧)80mmHg未満」が正常の範囲です。それが、ワクチンを接種したあとの計測で前ぶれなく上の血圧が180程度、または下の血圧が130程度まで上昇する人が少なくないのです。この数値は、放置しておけば3年ほどで人工透析が必要になるようなレベルです。
ですから、日頃から血圧を測って数値を把握しておき、ワクチン接種後も含めて上が180、下が110 を超えるようなら、すぐに医療機関で診てもらってください。そういう人は、ある日突然、血管や心臓のトラブルを起こす”素養“があるということです。
心臓トラブルを起こす患者さんは、自分の血圧を正確に把握していないケースがたくさん見受けられます。先日来院された70歳の女性は、「いつも血圧は正常値です。病院でも自宅 でも、上は100もありません」とのことでした。しかし、血液検査ではBNPの数値が高かったのです。BNPとは「脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれるホルモンで、血圧の上昇など心臓にストレスがかかると、それを和らげるために心室などから分泌されます。
つまり、BNPが高ければそれだけ心臓に負担がかかっている証しです。念のためCT検査をしてみたところ、上行大動脈が太くなっていることもわかりました。血圧が高くなければ、BNPが高くなったり上行大動脈が太くなったりすることはまずありません。そこであらためて血圧を計測してみると、「上150/下90」でした。その患者さんは、緊張や興奮などによって血圧が上昇するタイプだったのです。
こうしたタイプの人は、思わぬきっかけでいきなり心臓トラブルを起こすリスクが高いといえます。ワクチン接種がそのきっかけになってしまう可能性もないとはいえません。今までの生活習慣病とその自己管理の再点検がセットになっていると考えるべきです。
天野 篤 順天堂大学 医学部特任教授/心臓血管外科医
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