「認知症にだけはなりたくない」高齢者が多いが…実は「恐れる必要はない」と和田秀樹氏が断言する“これだけの理由”
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月6日 10時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢者の多くが不安を抱く「認知症」。理由として、家族になるべく迷惑をかけたくない…と考える人も少なくありません。しかし、そこには認知症に対する誤解があると、高齢者専門の精神科医である和田秀樹氏は言います。和田氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、多くの人が知らない「認知症」の実態について見ていきましょう。
認知症にまつわる誤解
高齢者医療を行っていたり、多くの高齢者とお話をする機会が多い私の経験では、高齢者の不安や恐怖の中で最も大きいものに、認知症があります。ボケたくない、認知症にだけはなりたくないという人がやたらと多いのです。ただ、高齢者専門の精神科医としての長年の経験から言うと、「認知症になるか、うつ病になるか、どちらかを選べ」という究極の選択を迫られたら、間違いなく、私は認知症を選ぶでしょう。
実は認知症は、少なくとも本人にとっては、それほど不幸な病気ではありません。楽しいことも忘れますが、嫌なことを忘れられるし(特に、最近起こった嫌なこと)、いろいろなことが気にならなくなります。実際、認知症が進むほど、ニコニコする高齢者は多いのです。
一日中、ニコニコする可愛いおじいちゃん、可愛いおばあちゃんになるわけです。初期こそ、自分が認知症になってしまったことを悲しんだり、苦しんだりすることも珍しくありませんが、中期以降は自分が認知症だという意識がないものです。いわゆる病識(病気であるという自覚)がないということです。自分の知的機能の衰えに苦しまないのです。ということで、本人の主観的には、どちらかというと幸せになれる病気とさえいえるのです。
認知症でも活躍し続けたレーガン大統領
しかし、人に迷惑をかけるのではないかという考え方もあるでしょう。一つ言っておきたいのは、認知症は急に何もできなくなる病気ではないということです。
アメリカのロナルド・レーガン元大統領は、退任の5年後の1994年に、自分がアルツハイマー病であることとその病状を、国民に対する手紙という形で告白しました。発表の際には、すでにまともな会話ができないレベルだったそうで、その1年前に妻のナンシーが自宅にホワイトハウスの執務室を再現したのに対して、自分が大統領として執務をしていると思い込んでいたということです。
その後、10年も生きていたのですから、進行は遅いタイプの認知症だと考えられます。ということは、告白の5年前の大統領在任中も、物忘れ程度の認知症の初期症状は出現していたことでしょう。実際、次男のロンは2011年出版の回顧録の中で、1984年の前副大統領ウォルター・モンデールとの討論会において、父の異変に気がついたと指摘しています。つまり、大統領在任中の後半は認知症であった可能性もあるのです。
ここで申し上げたいのは、認知症といっても軽いうちであれば、大統領さえも務まるということです。
認知症はいざとなったら「介護保険」の利用ができる
認知症がかなり重くなれば、何もできなくなって、人の介護が必要となりますが、それは迷惑をかけるといえるのでしょうか?
そのために介護保険制度があるのです。介護保険の導入後、昔ほど施設に入るのは難しくなくなりましたし、介護費用が保険でカバーされるので、介護付きの有料老人ホームも以前よりはかなり安く利用できるようになっています。
家族が迷惑だと思ったり、自分が迷惑をかけたくないと思えば、老人ホームに入ればいいのです。ついでにいうと、人間の生存本能というものは意外に強いようで、かなり認知症が進んでも、コンビニに買い物にも行けますし、それで自分で食事を摂って一人暮らしを続けているお年寄りも、私はたくさん知っています。
そういう意味での迷惑でなく、徘徊したり、大声を出したり、便をこねたり、それを家中に塗り付けたりして迷惑をかけるのではといった心配をする人もいるでしょう。
こういう異常行動は、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia=認知症の行動・心理症状)といいますが、全ての認知症に起こるわけではありません。2020年の認知症の患者数(65歳以上)は602万人と推計されています。つまり、日本人の20人に1人は認知症なのです。もし認知症の人がみんな徘徊するなら、街中いたるところで徘徊高齢者を見かけるはずですが、そんなことは決してありません。
認知症の多くはある種の脳の老化現象なので、大人しくなる人のほうが圧倒的に多いのです。最近外出しなくなったなと思っているうちに、買い物などにまったく興味がなくなり、そのうちに孫の顔も分からなくなって、ようやく認知症に気づくということも珍しくありません。
大人しくなっているうちは問題行動が目立ちませんし、知的機能の低下も見た目には分かりにくいので、認知症だと気づかれにくいわけです。いずれにせよ、人に迷惑をかけるほどの問題行動は、一般に考えられているよりずっと少ないものです。
要するに、認知症というのは、本人の主観では幸せな状態のことが多いし、少なくともすぐには人に迷惑をかけるような病気ではないのですから、それほど恐れる必要はないというのが、長年の高齢者医療の経験から得た結論です。
和田 秀樹 精神科医 ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表
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