年金は「月33万円」!必死で働いてきた60代・元共働き夫婦、定年後は勝ち組のはずが…老後計画大崩壊。「財布を一つにしなかった」後悔【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月8日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
共働き夫婦の場合、老齢厚生年金として年金の2階建て部分が2人分受け取れることになります。夫婦のどちらかが専業主婦(夫)の場合の家庭と比較して、老後に多くの年金を受け取れる可能性が高いでしょう。しかし、共働きならではの注意点もあって……。本記事ではSさんの事例とともに、共働き夫婦の老後の注意点について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子FPが解説します。
「平均的な金額」に安心してはいけない理由
公的年金額については、毎年、厚生労働省から次年度の年金額改定についてお知らせがあります(厚生労働省Press Release「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」)。2024年度の厚生年金保険は夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額は23万483円でした。
この金額は平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43万9,000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
厚生労働省のモデルケースでは夫婦であり、さらに配偶者は老齢基礎年金のみであることがわかります。ですが、現在では共働き世帯が増えていることから、自分の家庭に置き換えると年金額は大きくかわってくるでしょう。
また、おひとりさまも増加しています。1人ひとりの年金額を参考にするならば、厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」で年齢、性別等で、現在年金を受給している人がどのくらい受け取っているかがわかります。
自分の年金は「ねんきん定期便」「ねんきんネット」で確認をするとわかります。実際に、ねんきん定期便の金額と厚生労働省の平均金額と比べて、自分の年金は高い、低いと判断するのが一般的です。
老後の生活は年金が主な収入源となる人が多いことから、老後資金の必要額も上記を基準に判断しがちですが、その人の年金額、貯蓄額、日常生活の収支によって人それぞれ異なります。また、家族のあり方、セカンドライフの過ごし方によっても大きく変化します。
今回、Sさん夫婦は共働きのため、夫婦2人とも老齢厚生年金を受け取ることができます。年金だけで暮らせる「勝ち組」にみえますが、それにもかかわらず、老後破産に陥ることに……。一体なぜでしょうか?
老後破産に陥る夫婦の特徴
日本弁護士連合会の「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると年金生活者(職業)の破産は全体の6.69%です。年代別による破産者の数では60歳以上の自己破産は25.72%となっています。
多くのケースでは、生活苦・低所得、病気・医療費、負債の返済(保証以外)、失業などが原因のため、勝ち組夫婦には想定外のことが起こり得ない限り老後破産は考えにくい状況と思われます。
そのようななかでも、勝ち組夫婦が老後破産に陥るケースを考えてみましょう。
(1)現役世代から生活水準が落とせない
(2)定年退職後の起業に失敗
(3)子や孫への多額の援助
(4)夫婦関係の悪化
などがあげられます。
元共働きの夫婦、年金は月33万円
同級生のSさん夫婦は、共働きです。お互い大学卒業後、一般企業で60歳まで仕事を続けたため、直近のねんきん定期便の見込額では、夫婦が65歳から受け取れる年金額は約400万円、月額は約33万円です。これまで必死で働いてきた2人は、この見込み額に手を取り合って喜び合います。
※老齢基礎年金は2024年度新規裁定者の満額。老齢厚生年金は差額加算を考慮せず。Sさんの平均標準報酬月額は50万円、450月、妻の平均標準報酬月額は47万円、450月で計算。結婚当初から、お互いの給与は過度に干渉することなく、共有している日常生活費と家賃を1つの金融機関口座にお互いが20万円ずつ振り込み、光熱費等を支払うようにしてきました。Sさんの自宅マンションは都内の通勤に便利なところにあるため、家賃は20万円です。Sさんには全国転勤の可能性があったため、ついに定年まで持ち家を購入する決断には至りませんでした。
2023年(令和5年)総務省統計局の家計調査報告(家計収支編)平均結果の概要から勤労者世帯2人以上の世帯(60歳以上)で、実収入は47万8,099円、消費支出は30万7,321円です。また、65歳以上の無職世帯の実収入は25万5,973円、消費支出は25万2,928円となっています。
上記より、年金に関してSさん夫婦は平均以上の収入があり、いわゆる「勝ち組夫婦」といえます。では、前述の勝ち組夫婦でも老後破産に陥るケースにあてはめてみるとどうでしょうか。
(1)現役時代から生活水準が落とせない
お互いの給与は過度に干渉することなく過ごしてきたSさん夫婦では共有費以外の給与をお互いがなにに使っているか、まったく理解していないため、貯蓄がどの程度あるかが問題となります。
お互いがなににどのくらい使っているのかわからない夫婦は所得があったとしても「相手が貯めているだろう」と考えがちです。そのため、案外貯まっていないケースも多いのです。
(2)定年退職後の起業に失敗
セカンドライフにやりたかった職業にチャレンジしようと、退職金や貯蓄をあて、起業し失敗することも少なくありません。チャレンジする前に、下調べをして、夫婦でしっかりと考えのすり合わせをしてからでないと、こんなはずでは……と破産の可能性があります。
Sさんのケースでは、Sさんは妻に内緒で秘かに起業を考えていました。持ち家を持たなかった理由は転勤の可能性が一番の理由でしたが、起業の際、セカンドライフは都内近郊に自宅を中古で購入し、喫茶店経営のリフォームを、とも考えていたのです。
(3)子や孫への多額の援助
Sさん夫婦には子どもが1人、孫が2人います。過度な援助は自分たちの生活が脅かされることもあります。援助を求められたときは、子どもとよく話し合い、お金を出すだけでなく、相談に乗る必要があります。
Sさんの子どもたちは、安定した公務員のため、現状では問題ないようです。
(4)夫婦関係の悪化
共働き夫婦は、それぞれが、現役時代キャリアを積んで頑張ってきているでしょう。それなりのプライドもあるかもしれません。こうした場合、定年後、一緒にいる時間が多くなると、こんなはずじゃなかったと思うことが出てくることは自然です。
定年後の夫婦関係の悪化はコミュニケーションをとることで、多くの場合、解決するかもしれません。それも早い段階からの心がけが重要になります。これは前述の(1)(2)にもつながってきますが、財布を一つにすることで、お金に関するコミュニケーションをとることが可能になります。
また、もしくはお互いが割り切ってやりたいことをやるという夫婦もあるでしょう。ただし、一緒にいる夫婦である必要がないと結論が出た場合には、「卒婚」という選択肢もあり得るのです。
Sさん夫婦の場合、現役時代はお互い働いていたため、家事の分担もできて、お互いの考え方を認め合って生活を続けてきました。そのほうが居心地がよかったようです。
定年記念の旅行を機に事態はまさかの方向へ…
60歳の定年を機に、労いの旅行へ行くことにしました。これからのセカンドライフをどのように過ごすのかも話し合ういい機会でした。
ですが、話し合いは思わぬ方向へ進むことに……。
夫の考えは、コーヒー好きの2人だから、ゆっくりと喫茶店経営をしてみたい。いままで別々に頑張ってきたが、セカンドライフは一緒に過ごしたいとのことです。
一方、妻の考えは、これまでの会社で継続雇用で働きたい。職場は若い世代も多く、刺激になる。いままでどおりお互いのやりたいように過ごしたいといってます。
どうやらお互いの考えは違う方向に向いているようです。話し合いを重ねても考えは変わらず、だんだんと険悪ムードに進みます。会社員という同じ立場でいたときには、認め合っていた夫婦でしたが、いざ人生の分岐点を迎え、考え方が違うことがわかると、お互いの主張を変えることができなくなり、お互い違う道を歩もうということをいいだす始末。結果、定年の労い旅行のはずが、卒婚旅行となってしまいました。
夫は妻と一緒に過ごす時間を求めていたこと、喫茶店経営に中古の一戸建て購入から考えていたため、貯蓄は退職金と合わせて3,500万円用意していました。老後資金を考えると、多少なり妻の貯蓄を期待していましたが、卒婚となると、喫茶店経営も夢と消え、がっくりと肩を落とすことに。
一方、妻の性格上、卒婚するといままで以上に家賃と食費がかさみ、生計維持が難しくなりそうです。実は、妻はあればあるだけお金を使う散財する傾向があり、貯蓄は退職金程度で500万円と、ほとんどできていませんでした。
老後を勝ち組として過ごすには
Sさん夫婦は60歳定年後、お互いの進む道が異なり、まさかの卒婚という結果に。妻は老後破産しないためにも、生活水準を変える、貯蓄を増やすことを専門家等に相談しながら、ライフプランのアドバイスを受けることをお勧めします。
大誤算の老後を迎える結果となったSさん夫婦。共働き夫婦は、特に現役時代は日々忙しく、先の話は後回しにしがちです。
Sさん夫婦の場合、もしSさんが老後に起業したいという思いを早めに打ち明かしていたら、妻が貯金が苦手なことを相談していたら……。財布を一つにすることで日ごろからお金に関するコミュニケーションの機会を増やすことも可能でした。お金は、一つのきっかけに過ぎませんが、生活をともにする2人にとって非常に重要なものです。早い段階からコミュニケーションがとれていれば、卒婚も破産も回避でき、勝ち組夫婦として2人で肩を並べて老後をともにすることができたのではないでしょうか。
<参考>
・家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
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