【遺産2,500万円】「もちろん私たちも相続できる」疎遠だった姉妹が、父が他界した途端に遺産を主張…介護に奔走した兄を救った“父の遺した言葉”
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月26日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「遺産相続トラブル」は、誰にでも起こりうる身近な問題です。ドラマの中の話と思いがちですが、現実には家庭内で深刻な争いが生じるケースが少なくありません。特に、不動産が遺産に含まれる場合や遺言書がない場合にトラブルが発生しやすく、相続人同士の対立に発展することも──。この記事では、愛媛相続診断士協会会長の浜田政子氏監修のもと、兄弟姉妹で起きた実際の事例を通じて、相続トラブルの原因や解決策について解説します。
「遺産相続トラブル」は身近に存在している
ドラマなどで、遺産相続をめぐる争いを目にしたことがある方は多いでしょう。こうした遺産相続をめぐるトラブルは、物語の中だけでなく、現実の多くの家庭でも発生しています。
その主な原因は、相続人が自分の取り分を有利にしようとする思惑が絡み合い、結果として相続人同士の対立に発展してしまうことです。
相続財産には、以下のような種類があります。現金や預貯金は比較的分割しやすい一方で、不動産などの資産は分割が難しいため、トラブルの原因となることが多いです。
・不動産……48.1%
・現預金……38.6%
・有価証券……12.1%
・その他……6.5%
・借入金……5.3%
(2020年10月:MUFG資産形成研究所「退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査」より)
このデータから、不動産が相続財産の中で大きな割合を占めていることがわかります。そのため、相続において不動産がトラブルの火種になることは多いのです。
さらに、平成28年に家庭裁判所で処理された遺産分割事件を見てみると、認容・調停成立件数のうち、遺産額が1,000万円以下の割合は33%、5,000万円以下になると全体の75%に達しています。このデータは、遺産総額が多くなくても相続人同士で揉めるケースが少なくないことを示しています。
また、一般社団法人相続解決支援機構が2022年に実施した調査によると、相続を経験した人のうち「何らかのトラブルを経験したことがある」と回答した人の割合は78.7%となっており、かなり高い確率で相続トラブルが起きていることがわかります。
遺産相続で揉める家族や兄弟姉妹の特徴とその原因
相続の現場では、「うちでは相続トラブルは起きない」「家族や兄弟仲が良いから心配ない」といった思い込みを持つ方が非常に多いです。しかし、こうした油断から事前の相続対策を怠り、結果的に大きなトラブルへと発展するケースが後を絶ちません。
○遺産相続で揉める主な要因
・遺言書がない
・遺産に不動産が含まれている
・前婚の子供や認知された子供が相続人になる
・遺産の分け方で意見が合わない
・相手に連絡しても無視されたり話し合いが進まなかったりする
・お互い感情的になって話ができない
・相続人の居住地が不明
・連絡先を知らない
・長期間会っていない
兄弟姉妹が相続人になるケースとその相続割合
兄弟姉妹が相続人となるのは、被相続人(亡くなった方)に配偶者、子供、孫、親、または祖父母がいない場合です。この場合、相続財産は兄弟姉妹の人数で均等に分けられます。
ただし、被相続人に配偶者がいる場合、相続割合は異なります。配偶者が常に一定の割合を相続し、残りの財産が子供やその他の相続人に分配されます。
相続には順位があり、配偶者がいる場合は常に最優先されます。その次に子供、直系尊属(父母や祖父母)、そして兄弟姉妹が続きます。添付の表を参考にしてください。
以下の事例を通して、兄弟姉妹間で相続トラブルに発展してしまう経緯を、具体的に見てみましょう。
実際のトラブル事例
相続関係図
相続人
・長男(離婚後、実家暮らし)
・長女(20年前に結婚し、県外に家を建て居住)
・次女(15年前に結婚し、県内に家を建て居住)
父の財産
・自宅不動産:評価額1,500万円(取得時)
・預貯金:1,000万円
本件の特徴
・遺言書はなし
・姉妹はそれぞれ自宅を所有しており、不動産を相続する必要性を感じていない
・長男は実家で父親の介護を担当していた
姉妹の要望
預貯金のみの分配では不公平であり、自宅を売却して現金化し、均等に分けてほしいとの主張。
トラブルの詳細と経緯
5年前、母親が肺がんで亡くなるまでの1年間、姉妹は兄に対して「私たちが介護するので心配しないで」と伝えていました。そのため、兄は母親の介護を任せていたのです。しかし母親の死後、父親が心臓の持病を悪化させ入退院を繰り返すようになると、姉妹は一切協力しなくなりました。
兄が状況を尋ねた際、姉妹は「男親の介護は何かと面倒だから無理」と答えました。この対応に兄は驚きつつも、姉妹が家を建てる際に父親から資金援助を受けていたことや、他の恩恵を受けていた事実を思い返しました。その上で再び協力を求めましたが、姉妹は取り合いませんでした。
兄は訪問看護やケアマネジャーの助けを借りながら1年間の介護を続けましたが、心身共に疲れ果てる中、父親は亡くなりました。その直後、姉妹は兄に「遺産の話を進めましょう。もちろん私たちも相続する権利があるから」と提案。これを聞いた兄は、怒りよりも虚しさを覚え、姉妹との縁を切ることを決意しました。
解決策
姉妹は結婚後、盆や正月には実家に帰ることもありましたが、子どもができると家族との時間を優先するようになり、実家の近くに住む次女でさえめったに帰らなくなりました。その結果、兄と姉妹の間の会話はほとんど途絶え、兄は2人との縁を切ることさえ考えるようになっていました。
一方、父親が余命半年と診断された頃から、兄はほぼ毎日病院に泊まり込み、父親との時間を大切に過ごしていました。その中で、父親が語った言葉を一つ一つノートに書き留めていきました。
父が残した言葉
・病気になり迷惑をかけているが、子どもたちが幸せになることをいつも願っている。
・子供たちにはお金のことで苦労してほしくない。
・親が亡くなった後は、3人仲良く助け合ってほしい。
・長男には墓と家を引き継いでもらい、親戚付き合いも任せたい。
・家族みんなが笑顔で過ごせることを望んでいる。
・孫の成長を楽しみにしている。
・わずかな財産しか残せないが、揉めないで、みんな元気でいてほしい。
解決に至る経緯
父親の言葉を心に刻んだ兄は、姉妹に対してこれらのメッセージを丁寧に伝えました。父親と疎遠になっていた姉妹も、兄の話を聞く中で、父親の考えや気持ちを深く理解し、反省の念を抱くようになりました。そして、兄と姉妹は少しずつ和解の道を歩み始めたのです。
遺産相続についても、兄は姉妹の状況を考慮した提案を行いました。父親の意向を尊重しつつ、姉妹の納得を得られる形で話し合いを進めた結果、遺言書がなくても円満な解決を迎えることができました。
現在では、親の命日やお彼岸には兄と姉妹が揃ってお墓参りや仏壇に手を合わせ、家族としての絆を取り戻しています。
兄弟姉妹間の遺産相続トラブルを避けるための対策とは
被相続人が遺言書を残しておけば、その内容に基づいて相続手続きを進めることが可能です。
そのため、遺産相続の手続きをするときに法定相続人同士で話し合いをする必要はありません。したがって、被相続人が遺言書を残しておけば、法定相続人同士の仲が悪くても、遺産相続手続きのトラブルを回避できます。法定相続人とは民法で定められた被相続人の財産を相続できる人です。
また、兄弟姉妹で認知や養子により相続人になる場合もあります。兄弟姉妹でも普段から所在地や遠方でも生存確認など連絡先の交換もしてコミュニケーションをとることも大事です。
遺産相続トラブルが起こってしまった場合の相談先
相続トラブルが発生した場合、専門家への相談が解決への近道です。それぞれの専門家の役割や費用の目安を以下にまとめました。
1.弁護士
主な業務:
・法律的な交渉の代理
・訴訟時の代理人として対応
費用の目安:
・初回相談:無料が多い
・相談料:30分あたり約5,500円〜
・着手金:約20万円〜30万円
・報酬額:得られた経済的利益に応じた計算(例:遺産300万円以下なら16%、3億円超なら4%+738万円)
2.司法書士
主な業務:
・不動産登記の手続き
・遺言書の作成支援
・裁判所に提出する書類の作成
費用の目安:
・相続登記:約6万6,000円〜15万円以上(不動産の価値により異なる)
3.税理士
主な業務:
・相続税の申告代理
・申告書類の作成
・税務相談
費用の目安:
・相続税申告:遺産総額の0.5%〜1.0%
・相続人が複数いる場合、加算報酬(例:2人目以降、約10〜15%)
・非上場株式や期限が迫っている場合、追加報酬が発生することもあるため早めの依頼が推奨される。
4.行政書士
主な業務:
・保険や公共料金などの名義変更手続き
・遺産分割協議書の作成
・戸籍の収集、財産目録の作成
費用の目安:
・基本報酬:約6万円〜
・戸籍収集:1通あたり1,500円
・遺産分割協議書:約3万円〜
・有価証券の手続き:約3万5,000円〜
その他の相談先:
・銀行、不動産会社、保険会社
・税務署や法務局
・各地域で開催される民間の無料相談会
遺産相続トラブルを避けるためには、まず被相続人が遺言書を作成することが重要です。また、相続人同士が普段から適度なコミュニケーションを取ることも、トラブル防止につながります。
もしトラブルが発生した場合には、状況に応じて適切な専門家に相談することが、解決への近道となります。
浜田 政子
愛媛相続診断士協会 会長
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