日本人は貯金が好き。でも…実際には「貯められない人」が多い残念なワケ【行動経済学】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月24日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
お金を貯めなければいけないとは思いつつも、なかなかうまくいかない……そんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。欧米諸国と比べて「貯金が好きな国民」というイメージもある日本人ですが、いったいなぜ「貯められない人」が多いのか。橋本之克氏の著書『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)よりみていきましょう。行動経済学を活用した貯金システムも紹介します。
日本人が“貯金好き”になったカラクリ
「江戸っ子は宵越しの金はもたない」という言葉は有名です。この時代は、こそこそとお金を貯め込むのは粋ではない、という風潮でした。実際にコツコツ貯蓄する庶民は、あまりいなかったようです。
現代の米国と同様に日本人は、元々貯蓄に積極的だったわけではありませんでした。これが変化したのは明治維新がきっかけです。
新しい日本ができる際に、国家主導で貯蓄の習慣を普及させることになりました。郵便局が貯金を扱う英国の仕組みを取り入れて、1875年に郵便貯金制度が始まりました。貯蓄より消費という江戸時代からの習慣がありましたから、定着には時間がかかりました。
その対策として、政府が高い金利をつける、地域の名士を郵便局長にするなど様々な方法が用いられたと言われています。
その後、近代化が推し進められて日本は工業中心の産業振興、憲法制定、日露戦争の勝利などを経て列強の1つとなります。
さらに、後の太平洋戦争勃発を控えた1938年には国家総動員法が制定されます。政府が国のあらゆる人的物的資源を統制運用できるようになったのです。
日露戦争では英国や米国から公債を募集して軍費を調達しましたが、今回は国民に頼らざるをえません。政府の財源を賄うために、1939年には天引きによる強制貯蓄制度が始まりました。
また1940年には、やはり天引きによる源泉徴収制度も成立します。国民のお金を確実に供出させる手段として、天引き制度が始まったのです。
太平洋戦争が終わった後も政府は、戦後復興の資金を確保するために救国貯蓄運動を展開し、「貯蓄は美徳」の概念を国民に広く浸透させました。全国の小中学校で「子ども銀行」を学校指導で進めるなど、教育機関も巻き込みます。様々な方法で国民が貯蓄に励むよう促したのです。
こうした経緯を見ると日本における貯蓄は、近代化や大戦前後などの歴史の中で、国主導で習慣づけられたものと言えそうです。
こうして戦後の日本は、世界でも貯蓄率の高い国になりました。1975年には23 .1%という記録を作り「日本人は貯金好き」という印象を世界に与えます。
貯金は好き。でも貯まらない…将来に備えられない日本人
ところがOECD(経済協力開発機構)が算出した2021年の貯蓄率は、ドイツ14.9%、アメリカ12.4%などと比べても低い7.8%です。この大きな理由としては、低成長経済の状況下で可処分所得が減っているためという説があります。
将来への備えがない日本人が増えています。これは良い状況ではありません。とはいえ、日本にはSMarTprogram(※)はありません。貯金が必要なのは誰でもわかっています。それができないことが問題なわけです。 (※)Save More Tomorrow「明日はもっと貯蓄しよう」という、米国で進められた「確定拠出型年金」への加入と拠出を増やすためのプロジェクト
そこで、IT技術を使った新たな金融サービス「フィンテック(FinTech:Finance+Technology)」のサービスが役立ちます。
行動経済学を活用しての貯金システム
その1つが「おつり貯金」です。これはスマホにアプリを入れて、カードなどで買い物をするたびに、設定に合わせて一定額が貯金されるものです。設定の単位は、100円、500円、1,000円などです。
仮に280円でコーヒーを買ったとすると、それぞれの設定により、20円、220円、720円が貯金されます。買い物の端数が原資なのであまり深く考えず、しかも頻度が高く貯金ができる仕組みです。
他にもユニークな貯金として、「歩数貯金」があります。これは例えば「1日5,000歩を歩いたら、500円貯金」や、逆に「1日5,000歩を歩かなかったら、500円貯金」のような設定で貯金をするものです。貯金しながら健康促進にもつながります。
また「チェックイン貯金」もあります。ジムや習い事の教室など、あらかじめ登録してある場所に近づくと、自動的に指定の金額が貯金されます。トレーニングや学習などの自分の頑張りが貯金額に反映されて励みになるといった使い方です。
他にも「空き枠貯金」というものもあります。1ヵ月のカード支払いが設定された予算を下回ると、その差額が貯金されるものです。節約した結果が貯金に反映されます。
これらはすべてスマホにアプリを入れて、いくつかの設定をするだけで簡単に利用できます。
あまり難しいものではありません。
“お金が貯まる仕組み”の裏にある「行動経済学」の知見
これらの仕組みにおいても行動経済学の知見が活用されています。
例えば、貯蓄するお金(おつりなど)を目にしないまま自動的に貯蓄のような、より良い使途に振り替える仕組みです。これによって、お金を手元に置けば使ってしまう、現在志向バイアスから逃れることができます。
利用者が、将来の貯蓄タイミングに備えて、事前に設定しておく仕組みもあります。解釈レベル理論に基づいて、心理的にも時間的にも遠い将来のために本質的で上位的な判断ができるようにしてあります。
どれも1度始めると設定を変えない限り続く仕組みです。現状維持バイアスを活用しているのです。また、これらはすべて身近な生活行動と関連があります。手軽に始められるため、自分の将来のために生活資金を用意する「自助」の1つとして良い方法ではないでしょうか。
「自助」を国が支えるための“ナッジ”
さて、この「自助」に関しては、国もより一層の工夫をしなければならないはずです。既に「貯蓄から投資へ」の掛け声もだいぶ古びてきました。とはいえ、昔のように国が指導をするわけにはいきません。
一方で人々の心には、年金2,000万円問題で課題が噴出したように、国への不信感もあります。こういった状況下では、米国のナッジ※成功事例を参考に、日本の課題に合う仕組みを作ることも重要でしょう。指導ではなく、自然な形で国が自助を支えるのです。 ※英語で「(注意を引くために)軽くつつく、そっと押す」転じて「ある行動をそっと促す」という意味の言葉
ただし、ここで注意点が2つあります。1つは「スラッジ(Sludge =汚泥)」を避けることです。これはいわば「悪しきナッジ」です。人の心理的バイアスを悪用し、本来の目的と外れた方法で、人をだまして不当に利益を得る行為です。1度始めたら止めにくい契約などはスラッジの典型です。
もう1つはナッジが、単に国民をコントロールする手法ではないと理解することです。
ナッジを活用するにあたっては、リバタリアン・パターナリズムという「精神」が重要です。「権力的強制に頼らず」「人々の選択の自由を狭めることなく」、「人々に有益な行動を促す(または有害な行動を止める)」という基本ポリシーです。ここから外れてはいけません。
そのうえで、頭でわかっていても体がついていかない人を、より正しく支援するのがナッジです。この精神を運用に関わる人すべてが認識し理解する必要があります。この「強制しない」ナッジの精神を体得しない限り、表面的で効果のない施策で終わってしまうことでしょう。
橋本 之克 マーケティング&ブランディングディレクター/著述家
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