園長の「言い返さなきゃよかったね」に絶句…園児100人超の〈大規模保育園〉で起きた惨劇。正義を貫こうとした非正規職員の末路【専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月23日 11時15分
(※画像はイメージです/PIXTA)
医療や福祉の現場は、「いじめが一番多いのに、もっとも対策が行われていない」業界だといいます。9年連続で職場いじめ相談がもっとも多く、2番目に多い業界との差は約2倍。さらに7割以上の職場がパワハラ対策に講じていないなど、その問題は根深いようです。ハラスメント対策専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、実例とともに紹介します。
同僚のからかいがいじめの引き金に
Aさんは、社会福祉法人が経営する、園児数が100人を超える認可保育園で1年更新のパートタイム保育士として働いていた。これまで、自身の子育て期間を挟んで10年以上保育士として経験を重ねてきた。
Aさんは、同僚からいじめを受けていた。発端は、同じ非常勤保育士のBさんの行為だった。Bさんは、Aさんの名前をもじって、小学生のようなからかいをしていた。Aさんは不愉快だったが、対立するのは良くないと思い、Bさんに頭を下げて、やめてほしいと頼んだ。するとBさんは、「どう呼んだって勝手でしょ」「指図してるよね」と逆に怒り始めた。
実はBさんはふだんから、園の掃除や消毒をサボっており、「こんな仕事はうんざり」などと言って、園長が見ていないときは、ずっと別の部屋で休憩しながらお喋りしており、そのフォローをAさんがしている状態だった。そのことを園長や主任に伝えても、指導が行われることはなかった。Bさんは真面目なAさんを疎ましく思っていたようだった。
その裏には、この保育園の構造的な問題があった。園長や正社員の保育士は、非正規雇用の保育士を一段下に見ており、見下されている非正規の保育士は、同じ立場の保育士にストレスをぶつけるしかなかったのだ。この園では、非正規のみがトイレ掃除やコロナウイルス感染対策のための消毒をさせられていたが、園長は「正社員を守らなきゃいけないから」とこれを正当化していた。
また、子どもたちの前でも、正社員は「先生」と呼ばれるが、非常勤の保育士は「さん」付けで呼ぶことが徹底されていた。非正規の保育士を、対等に扱うつもりは初めからない保育園だったのだ。
Aさんから呼び方について指摘されたことを、Bさんが園長に報告したらしく、Aさんは園長に呼び出された。園長の発言は意外なものだった。「誰がどう呼んだっていいじゃない。被害とか加害とか、私そういうの嫌いなのよ。あなたの方が“要求”してるじゃない」
園長は、非正規同士の「いさかい」などには関心がなく、むしろAさんの方がトラブルの元凶だという口ぶりだった。
それどころか、園長は「あなたこの職業向いているの? 他を探した方がいいんじゃない?」と、Aさんが保育士失格であるかのような発言までした。
園長の「お咎めなし」が園内にもたらした“地獄”
その後、園長からBさんが「お咎めなし」だったことを合図とするかのように、Aさんに対するいじめは、同僚の保育士全体に広がった。
Aさんの靴箱の名札が剝がされたり、泣いている園児をあやすために持ってきていた私物の人形がなくなったり、手作りした園児の名札もゴミ箱に捨てられたりした。犯人は誰かわからない。
園の全クラスを束ねる主任の保育士も、Aさんにだけ、資料を締め切りが迫るまで配付しないことや、行事の計画表を渡さないなど、情報を流してくれないことがあった。「Bさんに名前の呼び方で馬鹿にされるのがつらいです」と主任に相談したところ、次の日、Aさんの翌月の勤務表が真っ白に塗りつぶされ、シフトが抹消されていた。
断っておくと、同じ非正規のBさんが職場で力があるとか、会社の上層部にコネがあるというわけではない。
単に、自分がからかわれたり、同僚が怠けていたりするくらいで、わざわざ「いざこざ」を起こす非正規職員のAさんの方が、園にとっては「問題人物」であり、結果、みんなのストレスの「はけ口」として、あるいは追い出すべき「邪魔者」として、「いじめても良い存在」になってしまったのだ。
Aさんが標的になった「理不尽すぎる」背景
この園にはもう少し背景があった。園児への「虐待」の隠蔽である。
主任や正社員の保育士が、なかなか言うことを聞かない一部の園児を明かりを消した部屋に閉じ込めて、「教育」する習慣が常態化していた。
この保育園は、100人ほどの園児を抱える大規模保育園なので、保育士一人が見なければならない園児の数が多く、一人一人に手をかけていられない。そこで、「手のかかる」園児を物理的に拘束し、恐怖を与えて大人しくさせていたのだ。
主に閉じ込められていた園児は年長児で、自分が受けた被害を保護者に話すことができたため、虐待があったのではないかと保護者会で追及された。
園長は保護者に対して、「暗い部屋でプラネタリウムをしていた」と噓の説明をして乗り切ろうとしたが、さすがにそれでは収まらず、最終的には加害者の保育士たちを系列の別の保育園に人事異動させることで、問題をなし崩し的に終わらせた。
園長は、この対応について、「職員を守らなくてはいけない」と話していたが、Aさんは本当に守らなければいけないのは子どもの方なのではと思い、園長たちの発言に同調せず、懐疑的な素振りを隠さなかった。そうした態度も、園長や他の保育士がAさんを疎むことに拍車をかけていたようだ。
「言い返さなきゃよかったね」…Aさんに訪れた“胸くそ”な結末
同僚からのいじめに疲弊していたAさんにとどめを刺したのが、この年の秋に行われた園長との面談だった。園長から、来年度のAさんの雇用契約について、「更新はしません。半年前に言ったから、あとは他を探してね」と雇い止めを通告されたのだ。
他の非正規職員は契約更新されており、園の経営が悪化した様子も見当たらない。理由を尋ねると、「みんながAさんの苦情を言っているから」だという。そして、面談の終盤、園長はこう口走った。「言い返さなきゃよかったね」。Bさんのからかいのことなのか、園児への虐待のことなのか。いずれにしても、波風を立てるような保育士はいらないと言われたも同然だった。
園長は、Aさんを追い出して、園に「平穏」を取り戻したいだけだった。過去にも園長は、自分が「気に入らない」保育士を突然辞めさせたことがあった。
Aさんは園長に対して、「改めるべきことは、改めます」と不本意ながら頭を下げた。
改めるべきはAさんではなく、非正規職員や園児を軽視し、保育園を「無事に」運営することしか考えていない園長の方なのだが、Aさんは従順に振る舞うことを選ぶしかなかった。
坂倉昇平 ハラスメント対策専門家
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