年金の繰下げなんてしなければよかった…そんな後悔をしないために知っておきたい、繰下げ受給の注意点
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月14日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金の受給時期を遅らせる代わりに受給額が増える「繰下げ受給」。受給額の増加は魅力的ですが、お得かどうかの判断が難しく、繰下げるべきか迷っている人もいるでしょう。そこで本稿では金﨑定男氏とAIC税理士法人による著書『会社が教えてくれないサラリーマンの税金の基本』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋・再編集し、繰下げ受給の基本や注意すべきポイントについて解説します。
2つの年金制度
サラリーマンは、国民年金と厚生年金という2つの年金制度に加入しており、国民年金については10年間以上の加入期間があり年金を納めていれば、受給権があります。
65歳になると、国民年金からは老齢基礎年金、厚生年金からは老齢厚生年金の受給を受ける権利が発生し、年金受給を申し込むことにより、年金を受給することができるようになります。
年金の繰下げ受給
65歳になって年金を受け取る権利のある人は、年金受給の申し込みを行わないことを選択して66歳以降に受給することもできます。その場合には、年金の支給開始が繰り下がります。繰下げを行うことにより、年金額を多くもらうことができるようになります。
繰下げのメリットとしては、受給できる年金額が、1か月当たり0.7%増加します。1年間では0.7%×12=8.4%となります。2年間繰下げすると16.8%、5年間繰下げすると42%増加します。例えば、65歳から受給できる年金額が月額10万円だと仮定すると、5年間繰下げすることにより月額14万2,000円の年金を受給できることになります。
この繰下げは、老齢基礎年金、老齢厚生年金それぞれ独立して適用できますので、例えば、いずれか一方は65歳から受給することにして、他方のみ繰り下げるといったことも可能です。繰下げは、最大10年間(75歳まで)できますので、10年間繰り下げた場合には、年金額は84%増加した額を受給することができます。
ただし、受給開始日が繰り下がるため、長生きする自信がない方は、早めに受給開始したほうが、総受取額は多くなります。
繰下げ受給の損益分岐点
繰下げ受給をした場合に、どれぐらい長生きすれば、繰下げ受給をしなかった場合(65歳から受給した場合)と比べてお得になるのか、計算過程を省略して結論を言うと、約11.9年で損益分岐点となり、66歳から12年後の78歳になった時点で損益分岐点を超え、それ以上長生きすれば繰下げをしたほうがよいということになります。
詳しい説明は省きますが、繰下げ期間が2年であっても、5年であっても、何年であってもこの損益分岐点となる年数は変わらず、約12年で回収が可能となります。例えば、仮に10年間の繰下げをして75歳から年金を受給する場合には、そこから12年後の87歳が損益分岐点となる年齢になります。
したがって、もし確実に87歳以上長生きすることがわかっていたら、10年間の繰下げをして75歳から年金を受け取ることが有利になります。
繰下げ受給の注意点
さかのぼり請求可能
年金の繰下げを請求する場合に、通常は年金請求しない状態にしておくことになり、何歳から繰下げして受給するなどという予約は行いません。66歳を過ぎた以降であれば、いつでも年金の繰下げ受給の請求をすることが可能となります。
ここで重要なポイントがあります。当初、年金繰下げ受給をするつもりで、年金の請求を行わずに放置しておき、68歳になった時点で、やはり繰下げは行わないでおくことも選択可能です。その場合には、年金の請求時に繰下げの申し出をせず、65歳到達時点の本来の年金をさかのぼって請求することができます。
したがって、繰下げ受給待機中の人が68歳になった時点でがんになったことがわかり余命1年などと宣告された場合には、その時点から繰下げ受給の申請をするよりも、65歳の時点にさかのぼって繰下げ増額されない年金を一括して受け取ったほうが有利となります。
なお、繰下げ受給をせず、さかのぼって受け取ることができる最大期間は5年間となりますので注意が必要です。
このさかのぼり受給にはもう一つ注意点があります。それは、もらった年金は所得になり、課税されるということです。
課税の方法は、過去の各年分の所得計算に反映され、過去にさかのぼって各年分の雑所得が増えることになります。過去に確定申告をしていなかった場合には、確定申告をしなければならない可能性が出てきます。
過去に確定申告をしている場合には、修正申告をしなければならない可能性が出てきます。そして過去の各年度別に追加税額が発生した場合には、ペナルティとしての延滞税が課税されることがあります。
インフレとデフレの影響
2020年代に入り、コロナ禍を契機として世界的な物価高、インフレ傾向となっており、日本でもインフレが進行しています。
上記の年金繰下げの損益分岐点の大前提として、デフレ、インフレ、金利の影響は考慮に入っていません。もし、日本も一部の外国のようにハイパーインフレの状態になり、消費者物価指数が年率8.4%を超える状況になった場合には、繰下げによるメリットはなくなり、少しでも早いタイミングで年金受給するほうが有利となります。
繰下げ待機中に死亡の場合
繰下げ請求は、本人が死亡したときは遺族が代わって行うことはできません。繰下げ待機中に亡くなった場合で、遺族からの未支給年金の請求が可能な場合は、65歳時点の年金額で決定したうえで、過去分の年金額が一括して未支給年金として支払われます。
ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れなくなります。この点を考慮すると、制度設計としては10年間の繰下げができますが、繰下げ期間は、最大5年にとどめておいたほうがよいかもしれません。
繰下げ受給で加給年金・障害年金・遺族年金はどうなる?
加給年金との関係
老齢厚生年金を受給する際に、併せて受給できる加給年金という制度があります。65歳になった年金受給者に扶養家族である年下の配偶者がいた場合に、その配偶者が65歳に達するまでの間、当該配偶者分として加給年金という追加的な年金が支給されることになります。
その加給年金の金額は年間約40万円程度になるため、5年間で約200万円の追加的年金を受け取ることになります。
ただし、繰下げ待機中で老齢厚生年金が支給されていない人には、この加給年金は支給されません。また、加給年金部分には繰下げによる増額などもありません。
したがって加給年金を受給見込の方は、老齢厚生年金については繰下げ支給しないほうが有利であると考えられます。
障害年金・遺族年金との関係
66歳に達した日以後の繰下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権(配偶者が死亡して遺族年金が発生した場合や、障害年金を受給することとなった場合など)を得た場合には、その時点で増額率が固定され、年金の請求の手続きを遅らせても増額率は増えません。
このとき、増額された年金は、他の年金が発生した月の翌月分から受け取ることができます。
金﨑 定男
AIC株式会社・AIC税理士法人・AIC社会保険労務士法人
統括代表
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