初孫を産んだ娘「お金持ちの舅から1,500万円贈与された」→負けじと銀行員の助言通り贈与をした資産家父…死後、税務調査で〈多額の追徴課税〉が課されたワケ【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月22日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続税の税務調査において、「名義預金」はしばしば問題となります。贈与の意図をもって開設された口座であっても、被相続人の財産と認定されるケースが後を絶ちません。本記事ではAさんの事例とともに、名義預金の概念、その問題点、そして名義預金と認定されないための対策について、木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。
資産家の父のもとから資産家一家に嫁いだ娘
75歳になるAさんは、関西地方在住で、老舗企業の会長をしています。会長をしているといっても、経営権は息子に譲っており、Aさん自身はロータリークラブや法人会などの会合や趣味のゴルフなどを楽しんで過ごしていました。
Aさんは3代目社長として後継ぎをしており、代々、会社を守ってきたので、地元にも古くからの知り合いがたくさんいます。これまでは会社経営で忙しくしてきましたが、ようやく友人とゴルフや旅行に行くなど楽しむ時間がとれるようになりました。
Aさんには息子と娘がいるのですが、娘は有名女子大学を卒業してすぐに結婚し、夫の転勤で東京に住んでいました。大学も遠方だったため、実家からではなく下宿をして通学していました。そのため、Aさんにとっては、娘がお盆やお正月に帰省してくれるのを毎年心から楽しみにしていたのです。
待望の初孫誕生
そんなある日、娘に待望の赤ちゃんが生まれました。Aさんにとっては、ずっと楽しみにしていた初孫です。大事な娘の子供と思えば思うほど、本当に可愛くて仕方がありません。そして、自分が父親だったときは会社経営に忙しく、娘や息子の育児は妻に任せており、子供との時間が十分に取れなかったという後悔もあり、孫には最大限のことをしてあげたいという気持ちが芽生えていました。
お盆やお正月の帰省がさらに待ち遠しく、会う度にすくすくと成長している孫がとんでもなく可愛く、幸せな日々を過ごしていました。そんなとき、何気なく話していた会話で、娘の嫁ぎ先の舅が孫に教育資金の贈与を1,500万円したということを聞きました。
Aさんの孫は、舅にとっても初孫です。娘の嫁ぎ先は資産家で、婚約するときも娘が惨めな思いをしないようにと、Aさんとしても最大限のことをしてきました。大事な孫と娘のことを考えると、こちらとしても黙ってはいられないと思うように。そこで、Aさんも同じように贈与をしようと考えました。
娘の舅に負けてられない!秘密裏に始めた貯金
Aさんは妻と相談をして、いつも懇意にしている近所の銀行に孫の通帳を作ることにしました。親身になってくれた銀行員のアドバイスのもと、定期的にAさんの口座から孫の通帳に振込をして、貯めていくということを始めたのです。
娘に話そうとしましたが、娘は親に迷惑をかけたくないという気持ちがとても強いので、もしそういったことを言うと絶対に遠慮して断るだろうと思いました。そのため、娘には話さず、いざというときに助けてあげられるように貯めるというかたちをとりました。
Aさん死去
そうして何年も経過したある日、Aさんが亡くなり、相続が発生しました。Aさんが所有している財産は会社の株式をはじめ、いろいろな資産があったため相続税の申告はとても大変でAさんの妻は資料収集に奔走しました。もともと、Aさんは遺書も準備していたのでそのとおりに申告を進めました。
Aさんはとてもきっちりした性格なので妻や子供が困らないように、自分が亡くなったあとのことまでよく考えてくれていたのです。そんなAさんの愛情に妻も息子も娘も涙があふれてとまりませんでした。
そうこうしていたある日、税務調査がきました。「なにか問題があるのか?」妻も息子も娘も見当がつかなかったのですが、思ってもいないことを指摘されました。なんと、孫のために貯めていた預金が相続財産だという指摘を受けたのでした。
通帳は孫の名義なのに、追徴課税?
名義がAさんではないのに、なぜ指摘を受けたのでしょうか?
「名義預金」という考え方があり、この通帳がそれに該当するとのことで家族の誰も想定していなかったことでした。その金額による追徴課税はなんと350万円ほどにもなりました。
このようなことが起きた理由を解説するため、ここで名義預金について知っておきましょう。名義預金とは本人が存在を知らない、もしくは管理をしていない預金のことを指します。名義だけは孫でも祖父が管理していたら、それは祖父の預金とみなされることになります。名義預金とみなされた通帳については、たとえ名義が孫であっても、祖父に相続が発生したら祖父の相続財産とみなされます。
名義預金とみなされるケースはいくつかポイントがあります。
1.本人が口座の存在を知らない。本人が管理していない。
2.預金残高が本人の所得状況と比べて不自然に多い。
3.口座の届出印が本人ではなく、親の印鑑になっている。
4.口座開設をした金融機関が本人の住所ではなく、祖父の住所の近くの支店になっている。
5.預金が預けられたままで口座の引き落としが全くない。
これらにあてはまるような通帳であれば、名義預金となりますので、たとえ、毎年110万円ずつ贈与していたつもりでも、贈与をしたことになりません。
今回の事例では、祖父は関西に住んでいて、孫は東京に住んでいました。祖父は自分の自宅近くの銀行で口座開設をしていました。子供にいえばよいのですが、遠慮するだろうから黙っておこうという思いやりにより、思ってもいない結果になってしまったのです。
また、Aさんは銀行の担当者に相談していました。担当者にもよるところですが、銀行員は、預金や投資などの商品販売には熱心です。一方で、税務に関する専門的なアドバイスは必ずしも得意とするところではありません。そのため、銀行員のアドバイスを鵜呑みにせず、専門家に相談することが重要です。
贈与とは、贈与を受ける側も了承を得ていることがポイントになりますので、本人が知らない、了承を得ていないとなれば、その贈与は無効になります。孫のために内緒で貯金を……というケースは多くあると思いますが、このあたりはしっかり押さえて適正な贈与をしましょう。
相続税の税務調査は他の税金と比べて調査になる確率が高く、多くの案件で財産漏れが指摘されています。調査で指摘される財産漏れの多くは、名義預金です。贈与しているつもりにならないように、贈与をしたいときはしっかり完結させるようにポイントを知ったうえで実行するとよいでしょう。
税務調査で否認されないために!贈与で気をつけたいポイント
一番のポイントは、贈与を受ける本人が管理している通帳であることです。名義預金とみなされないための対策としては、以下の方法が挙げられます。
●本人が承諾している証拠として、贈与契約書を作成してそれぞれが管理している印鑑で押印して、それぞれが保管しておく。
●日ごろ使用していない口座や現金ではなく、本人が日ごろ使用している口座に振り込む形で客観的な記録を残しておく。
●口座開設をするときは受け取る本人が手続きをする。
●110万円を超えるような贈与として贈与税の申告をしておく。
お互いの気持ちが台無しになることがないように、贈与の正しい形を知って進めていくことがなにより重要です。税務署がどうしてそのような通帳の存在がわかるのか、わからないケースもあるのではないかと思う人もいるかもしれません。実は、相続人も気づかなかったというケースも度々あります。
税務署は本人の承諾がなくても預金口座を調査でき、本人だけでなく、家族の口座も調査対象になることもあります。金融機関は過去10年分の入出金データを保存していることが多いため、税務署は過去まで遡って確認することが可能です。
また国税庁や税務署では、納税者情報を管理しており、そこには給与や確定申告のデータが登録されているため、そこに記録されている所得状況と預金の状況を照らし合わせて調査をします。これにより不自然な預金の動きがあれば、一目でわかってしまうのです。
相続対策は家族同士ではなかなか話を進めることが難しいことも多くあると思います。しかし、話し合っておけば、贈与税では教育資金の一括贈与など、想いに合わせた制度もあるので、もっとよりよい相続対策をすることができることもあります。家族の大切な想いが苦い思い出になることがないように、大切に思うからこそ、正しい対策を進めていきましょう。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
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