あれっ、あの人辞めたんじゃないの?…月収60万円・貯金3,500万円だった58歳元サラリーマン「喜んで早期退職」も、1年後に“半ベソで出戻り”のワケ【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月27日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
人材費削減や若手人材の待遇向上など、さまざまな理由により「早期退職優遇制度」を採用している企業も少なくありません。早期退職の場合、定年退職よりも上乗せされた退職金が受け取れるというメリットはありますが、安易な判断では思わぬ「老後破産危機」に陥る可能性も……。58歳Aさんの事例をもとに、早期退職の落とし穴と注意点についてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
抜群の営業成績も「社則」で役職定年に…給与が激減したAさん
現在58歳のAさんは、大学を卒業後、都内の上場企業である食品加工会社のC社に就職しました。
営業部に配属されたAさんは、持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、抜群の営業成績をあげて営業部長に昇進。役員候補の呼び声も高いAさんでしたが、社則により、55歳で役職定年を迎えました。
役職定年後は、給与が激減します。月収は95万円から60万円に、年収に直すと400万円以上の減額となってしまいました。
また、後任の営業部長には、海外畑でAさんとあまり面識のない、2歳年下の後輩が就くことに。Aさんとは考え方が異なり、その仕事ぶりについAさんが口を出し、衝突してしまうこともありました。
定年退職まではあと数年あるものの、部長としての決裁権もなくなり、敏腕営業部長から“ただの社員”に成り下がってしまったように感じたAさんは、どんどん仕事への熱意が失せていったのでした。
Aさんには、妻でパート勤めのBさん(55歳)と3人の子どもがいます。自宅である都内の分譲マンションには、AさんとBさんのほか、大学3年生の長男がおり、65歳まで住宅ローンの返済が続きます。長女はすでに家庭をもって遠くに住んでおり、大学1年生の次女は地方で下宿をしています。
「大学に通う子どもたちの学費や住宅ローンがまだ残っているけど、もうしんどいな……」
Aさんはこのまま働き続けるかどうか悩んでいました。
俺が輝ける場所は他にある!…Aさんは「早期退職」を決断
とはいうものの、Aさんの現在の肩書は「営業部付部長」です。C社の取引先の多くは以前と同様、C社を訪れると、新部長よりも真っ先にAさんとあいさつを交わします。
(俺の求心力はまだまだ健在だな。会社のルールのせいでこんな立場にいるが、俺はまだ求められている!)
Aさんは心のなかでこう思っていました。
そんなとき、C社に「早期退職優遇制度」があることを同僚から聞いたAさん。調べてみると、早く退職する代わりに、60歳で定年退職するよりも上乗せした退職金を受け取れるそうです。
「取引先のツテで、すでに再就職先の当てはいくつもある」と考えたAさんは、「よし、こんな会社さっさと退職して、もっとバリバリ働ける環境に転職しよう!」と、58歳でC社の早期退職を決断しました。
ウキウキで早期退職したが…Aさんを襲う「想定外」の連続
退職後の貯金は、上乗せされた退職金を含めて3,500万円ほどになりました。
しかし、あらかじめ想定して貯めていたとはいえ、子どもたちの学費や住宅ローンの返済により、お金はどんどん減っていきます。また、“想定外の出費”により、A家の支出は働いているころよりも増えてしまいました。
その想定外の原因とは、「税金」と「保険料」です。
それまでのAさんは、住民税や、健康保険・厚生年金保険といった社会保険料がすべてAさんの給与から天引きされていたほか、妻のBさんも「第3号被保険者」として国民年金保険料を納付する必要はありませんでした。
しかし、今後はAさんとBさんそれぞれ、60歳まで毎月1万6,980円(令和6年度)の国民年金保険料の納付が必要になります。
また、会社の健康保険とは異なり、国民健康保険には「扶養」の考えはありません。世帯の所得と人数で保険料が決まります。そのため、生計を一にしている次女の分も含めて自治体からの請求に従って納付が必要になってしまいました。
さらに、いままでは自宅から都心まで出向くのに通勤定期を使っていましたが、これからは職を探すにも、友人と会うにも、その都度交通費を支払います。
仕事熱心な分「無趣味」だったAさんは、目的がなければ1日中自宅にいることも多く、それだけ光熱費も増えました。
Aさんが想定していなかった「最大の誤算」
そして最大の誤算は、転職先が見つからないことです。Aさんが退職時まで取引先からチヤホヤされていたのは「C社」の社員だったからで、C社を退職した現在はただの59歳の無職です。
Aさんが信じていた「いくつもの転職先」も、ふたを開けてみればそのときの世間話で、実際にあっせんしてくれる人はひとりもいませんでした。目論見が外れてしまったAさんはひどく落ち込みます。
さらに追い打ちをかけるように、妻のBさんから「ねえ、ずっと家にいるけど、仕事はすぐに見つかるんじゃなかったの? 学費もローンもあるし、退職金が多かったとはいえ、年金をもらうのはまだずいぶん先だけど……」と言われ、今後が心配になったAさんは、ファイナンシャルプランナーである筆者に相談することにしました。
直視しなければならない「59歳・無職」という現実
Aさんが利用した「早期退職優遇制度」とは、従業員が定年を迎える前に、退職を希望した社員に対し、退職金の割り増し給付や再就職支援など、通常の定年退職よりも手厚く優遇される制度です。
似たような制度として、業績悪化や事業縮小などによる人員整理を目的に、期間限定で退職者を募集する「希望退職制度」があります。こちらは会社都合での退職となりますが、早期退職優遇制度は従業員側が希望すれば利用できる福利厚生の一環とされており、自己都合退職となります。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の平均退職給付額は、学歴・退職理由によってそれぞれ下記のようになっています。
■大学・大学院卒(管理・事務・技術職)
定年:1,896万円
会社都合:1,738万円
自己都合:1,441万円
早期優遇:2,226万円
■高校卒(管理・事務・技術職)
定年:1,682万円
会社都合:1,385万円
自己都合:1,280万円
早期優遇:2,432万円
■高校卒(現業職)
定年:1,183万円
会社都合:737万円
自己都合:921万円
早期優遇:2,146万円
これをみると、どの学歴であっても「早期優遇退職者制度」を利用した場合の退職金がもっとも高いということがわかります。
しかし、一見魅力的に思える「早期退職優遇制度」ですが、“落とし穴”も存在します。
たとえばAさんのように58歳で退職してしまうと、退職金は支給されても、その後7年間は老齢厚生年金を受給するまで収入がありません。さらに、年金受給額は退職当時の給与の約3分の1となります。
A家に迫る「老後破産」の危機
相談を受けた筆者は、A家の今後の家計収支を書き出してみることにしました。
<今後の主な収入>
■Bさんのパート収入
月8万円
■老齢厚生年金
Aさんが65歳~:月約20万円
Aさんが69歳~:Bさんの年金受給がスタートし、あわせて月約29万円
<今後の主な支出>
■住宅ローン
残債:約660万円(65歳まで返済)
■教育費※
・長男(大学3年生)……年間130万5,700円※
※1年分。自宅に住んでいるため生活費はここに含めず。
・次女(大学1年生)……年間133万8,100円
+下宿のため生活費の仕送りが年間106万5,700円
→3年間で合計721万1,400円
合計:1,511万7,100円
※ <参考>日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査結果(1-1表)」
支出としては上記のほか、生活費や国民年金、国民健康保険料、固定資産税などの諸税が加わります。このままでは、年金受給が始まる前に家計が破産しかねません。
そこで筆者は、早急に職を探して収入を得ることと、支出を見直しムダな出費を減らすよう勧めました。
「やっぱりこのままじゃ生活できないですよね……今日もハローワークに寄ってから帰ります」
Aさんはこう言い、肩を落として事務所を後にしました。
Aさんの「その後」
それから1ヵ月ほど経ったころ、「営業の途中なんですが」といって、Aさんが筆者の事務所に立ち寄りました。表情は以前と打って変わり、にこやかです。
そして、前回の面談のあとの出来事について、次のように話してくれました。
「あれから、言われたとおり夫婦で支出の見直しをしていたら、うちの5年後輩のDが自宅を訪ねてきたんです。いきなりどうしたんだって聞いたら、『今度営業部長に就くことになったんで』って。あいさつだけかと思ったら、『ぜひAさんに戻ってきてほしい』っていうんですよ」
Dさんの話では、Aさんが辞めたあと、営業部の業績が低下。「Aさんが戻ってきてくれたらなあ」という声が上がり、少しでも力を貸してくれないかと声をかけに来たのだそうです。
願ったり叶ったりのAさんは、契約社員ながら、肩書は「営業部付部長」としてC社に出戻り。固定給月7万円+歩合給で働くことになりました。
復帰後の朝礼あいさつでは「あれっ、あの人辞めたんじゃないの?」という声が聞こえてきて心が痛みましたが、それよりも就職先が見つかった感謝やおよそ1年ぶりに働ける喜びから思わず涙ぐんでしまい、うまく話すことができなかったそうです。
「早期退職」検討時は、老後を見据えて慎重に判断を
一見魅力的な「早期退職」ですが、退職後の暮らしをよく考えて決断しなければ、思わぬ落とし穴にハマる可能性が高まります。
従って、検討の際は勢いで判断することを避け、まずは住宅ローンや子どもの教育費など「退職後にもかかる支出」を可視化しておくことが重要です。また、必要であればファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するなどし、ライフプランの作成など「老後の準備」を万全にしたうえでの慎重な判断をおすすめします。
代表社員 牧野FP事務所合同会社 牧野 寿和
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