お願い、お金は貯め込まないで!「シニアの資産活用」が少子高齢化の日本にもたらすスゴい影響力【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月18日 11時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
少子高齢化による労働力不足の懸念から、日本企業が生産性の向上に注力した結果、経済成長が起こって株式投資のリターンが高くなる可能性が見えてきました。ところが、将来不安が拭えないシニア世代の消費活動は控えめです。しかし、シニアによる計画的な消費活動は、日本経済を変える力を秘めているといえます。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが解説します。
人手不足→省力化投資→株式投資のリターンが高くなる可能性!
日本の将来を危うくするとされる少子高齢化社会ですが、2010年代から労働力不足が懸念され、人手不足対策としての省力化投資が増加し、生産性の向上が期待されるようになっています。
実は、高度成長時代の設備投資も、人手不足への対応として省力化投資が大きな役割を果たしました。この時期、日本の経済は急速に成長し、労働力の需要が急増しました。しかし、労働力の供給が追いつかない状況が続いたため、企業は生産性を向上させるために省力化投資を積極的に行いました。高度成長期には機械化や自動化が進みましたが、現在はデジタル化が進んでいます。
政府は、1990年代初頭の株価と地価の下落によって銀行の不良債権が急増したとき、その処理を先延ばしにしました。銀行は追い貸しなどによって不良債権を少なくみせる努力を続け、債務者に必要なリストラを積極的に迫ることはありませんでした。これは雇用を守るためには政府当局として都合がよかったという分析があります(星岳雄・アニル・カシャップ「何が日本の経済成長を止めたのか?」総合研究開発機構、2011年)。
この分析によると、結果として、非製造業を中心に生産性の悪い企業が多くなり、経済成長を低下させたとしています。
しかし、人手不足の認識が広まったいま、さまざまな企業で省力化投資が行われて生産性が上昇し、先進国型の経済成長によって株式投資のリターンが高くなる可能性が出てきました。たとえば中小企業について、人手不足対応の設備投資を実施した企業と実施していない企業では、5年間(2017年から2022年)の変化率で業績に差(売上高で約7%、経常利益で約10%)が出ているとする分析があります(中小企業庁「2024年版 中小企業白書」)。
そうしたなか、厚生労働省は今後の公的年金運用の計画レートを0.2%引き上げる方針を決めました(2024年12月3日公表)。これにより公的年金の資産運用における資産配分では日本株への投資を増やし、海外債券への投資を減らすと予想されています。
高齢期はゆとりを活かし、債券・株式での資産運用を
このように資産運用にとってよい兆しが見えても、シニア世代は一般的に、所得の不安から元本割れが起こるリスクがある資産運用はできないのではないかといわれます。
しかし、老後の生活不安を持っているのは50代がピークで78.6%であり、70歳代になると不安を感じる人は60.7%に減少しているという調査があります(内閣府「国民生活に関する世論調査(令和4年10月調査))2023年」。
実際、次の図表のように、シニア世代の経済的な不安感は年齢とともに増加しているわけではなく、おおむね横ばいとなっているという調査もあります。
つまり、高齢期は全体としてみればゆとりのある時期といえ、このゆとりを活かすことで、債券、株式による資産運用に取り組めるのではないでしょうか。
しかし、現在のシニア世代の生活は公的年金や健康保険、介護保険等によって支えられています。たとえば75歳以上が対象の後期高齢者保健は、現役世代からの支援金が6.8兆円(令和3年度)使われています(政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」)。
個人金融資産約2,200兆円のうち、投資信託の残高は約120兆円です(2024年6月時点)。シニア世代の方々はこのうちの6割を保有しているといわれていますが、さらに200兆円を預貯金から投資信託にシフトし、公的年金の資産運用の目標レートである4%で運用すれば、長期的に平均すれば先述の支援金程度の運用益が得られる可能性があります。
シニアの方々が、これらを長生きの不安から貯め込むことなく計画的に使用すれば、国全体の個人消費の拡大に貢献することになるといえます。シニア世代の方々の資産運用とファイナンシャル・プランニングは、国にとっても大きな課題だといえます。
藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師
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