2025年「フィリピン・経済成長」マルコス大統領vs.ドゥテルテ副大統領の対立深刻化を懸念
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月23日 7時15分
写真:PIXTA
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週はフィリピンの経済成長、および財政状況を中心に解説していきます。
2024年「比・経済成長」、政府目標未達か
フィッチ・レーティングスの報告書は、フィリピン経済は成長を続ける見通しであるものの、政府が設定した2024年および2025年の成長目標には届かないと指摘しました。フィッチは、2024年のフィリピンの国内総生産(GDP)成長率を5.7%、2025年には5.9%と予測しています。これらの数値は、フィリピン政府が目標とする2024年の6~6.5%および2025年の6~8%の成長率を下回ります。ただし、2026年には成長率が6.2%に加速すると予想され、政府目標の6~8%の範囲内に収まる見込みです。成長の主な要因は、金融緩和、インフラ投資、貿易および投資促進のための改革とされています。
国内の政治的緊張が経済成長のリスク要因として挙げられています。マルコス大統領とドゥテルテ副大統領の間の対立が深刻化し、2025年5月の中間選挙を控えた政治的対立が懸念されています。ドゥテルテ副大統領は汚職や資金の不正使用などの疑惑で弾劾訴追を受けており、政治的不安定が経済運営に影響を与える可能性があります。
また、次期米国大統領ドナルド・トランプ氏の政策もフィリピン経済に影響を与える可能性があります。特に米ドルの上昇は、フィリピン・ペソの価値を押し下げ、インフレ圧力を高める要因と見られています。さらに、米国の移民政策の変更は、フィリピンの重要な経済資源である海外送金にも影響を与える可能性があります。2024年の10ヵ月間で、フィリピンへの海外送金の41.2%が米国からのものでした。
フィリピン中央銀行(BSP)のインフレ率見通しは安定しており、フィッチは2025年から2026年にかけてさらに100ベーシスポイントの利下げを見込んでいます。BSPは2024年末までに合計75ベーシスポイントの利下げを実施し、主要政策金利は5.75%に達する見通しです。
フィッチは2024年の中央政府の財政赤字がGDP比5.7%に達し、2026年には4.9%に縮小すると予測しています。これは政府の財政目標よりも大きいものの、2023年の6.2%や2021年のピーク時の8.6%からは改善すると見られています。
一方、中央政府の債務対GDP比率は2024年末までに61%に達する見通しで、開発途上国の持続可能な水準とされる60%を超えています。ただし、政府は2028年までにこの比率を60%以下に引き下げる計画です。
フィッチ・レーティングスはフィリピンの長期外貨建て発行体デフォルト格付けを「BBB」で据え置き、見通しを「安定的」と評価しました。今後の成長はインフラ投資、金融政策の緩和、貿易促進策に依存する一方で、政治的な不安定さや外部環境の変化がリスク要因として残ります。
低迷する「比・不動産市況」…回復のカギを握るのは?
フィリピンの銀行の不動産部門へのエクスポージャー比率は2023年9月末時点で19.55%となり、前年同期の20.55%および2023年6月末の19.92%から減少しました。この比率の低下は2019年9月以来の最低水準です。BSPは金融安定性を維持するために、銀行の不動産業界への貸出状況を監視しています。
銀行による不動産向け融資と投資は、前年同期比2%増の3兆2,200億ペソに達しました。内訳として、不動産ローン総額は前年同期比7.9%増の2兆8,400億ペソとなり、住宅用不動産ローンは8.1%増の1兆700億ペソ、商業用不動産ローンは7.8%増の1兆7,800億ペソとなりました。一方、不動産向けの延滞ローンは10%増加し、1,481億ペソに達しましたが、不良債権比率はわずかに改善し、前年の3.95%から3.92%に減少しました。
カナダのトロントに本社を置く、世界的な不動産サービスおよび投資管理会社であるコリアーズは、開発業者が新規プロジェクトの立ち上げに慎重であると指摘しました。2023年1月から9月までの新規開発件数は前年同期比で約50~60%減少しており、オフィススペースの空室面積は260万平方メートルに達しているため、これが吸収されるには約5年かかると見られています。メトロマニラの住宅市場でも、未販売のコンドミニアム在庫の市場吸収には5年以上かかると予測されています。
また、フィリピン政府がオフショアゲーミング事業者(POGO)を禁止した影響も不動産市場に影を落としています。2019年には298社がライセンスを持っていましたが、現在は17社に減少しており、この事業者の撤退がオフィススペースと住宅市場の空室増加を引き起こしました。
一方で、フィリピン中央銀行は2024年にさらに政策金利を引き下げる予定であり、これが不動産市場の回復に寄与する可能性があります。2024年にはすでに2回の利下げが行われましたが、住宅ローン金利の低下が市場に与える影響はまだ不透明。開発業者は既存の在庫の吸収を優先し、新規プロジェクトの立ち上げを控えているため、銀行の不動産部門へのエクスポージャーは今後も引き続き低下する見通しです。
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