家族のために身を粉にして働いてきたんだぞ…元食品スーパー勤務・年金月16万円の65歳男性、ようやく穏やかな老後生活を送れるはずが…ある日手渡された「一通の書類」で急転直下。悲しみの老後へ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月27日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
一家の大黒柱として長年勤め上げたサラリーマン。「もちろん家族も感謝してくれているだろう」そう本人は思っていても、実は家族の評価はそうではなかった……といったことは少なくありません。今回は、そんな悲しいケースについて、中島さん夫妻(仮名)の事例と共にCFPの伊藤寛子氏が解説します。
多忙な現役時代を終えた後、穏やかな老後を送るはずだったが…
中島義夫さん(仮名・65歳)は、妻の奈美さん(仮名・61歳)と二人暮らし。子どもは独立しています。中島さんは定年退職を迎えるまで食品スーパーで店舗運営の仕事をしていました。
店長として現場を統括する立場になってからは、売上目標のプレッシャー、顧客クレーム対応、スタッフとの関係構築など、ストレスを多く抱えながらも、責任感を持って働いてきました。
店舗異動による転勤もあったことから、中島さんが家を購入したのは40代後半になってから。住宅ローンを借りる際は、借入可能額や住宅ローン控除のメリットなどを考慮して、共働きの奈美さんとペアローンを組んで、4,500万円のマンションを購入しました。
そんな中島さんは長年仕事中心の生活を送ってきたこともあり、65歳の定年を迎えたらそのままリタイアして奈美さんと穏やかに老後を過ごそう、と決めていました。
退職金を住宅ローンの一部返済に充てても貯蓄は2,000万円程残ります。ひと月約16万円受け取れる自分の年金と奈美さんの年金があれば、十分今の暮らしを続けていけるだろうと考えていました。
そして、実際に退職して年金生活に突入した中島さんは、今までがむしゃらに働いてきたことだし、しばらくは家でゆっくりしよう、と1日中家にいるようになったのでした。
一方で、4歳年下の奈美さんはまだ仕事を続けています。退職したことだし、家のことを少し手伝ってあげてもいいかなと思った中島さんですが、今まで一切家事をしてこなかったため、何をしたらいいのかさっぱりわかりません。
聞いてみればいいものの、プライドが邪魔をしてなかなか切り出せず、結局奈美さんに任せきりの生活のまま過ぎていきました。
しかし、そんな日々を過ごしていたある日、中島さんは突然、奈美さんから離婚届を突き付けられたのです。
「あなたとはもう一緒に暮らしていけません」
1日中家にいる夫…妻の我慢や鬱憤が限界突破
中島さんにとって離婚宣言は青天の霹靂でしたが、奈美さんにとってはそうではありませんでした。
長時間労働や不規則な勤務体系になることも多かったため、家庭の事はほぼ奈美さんに任せきりでしたが、中島さんは「俺が家族を支えてやってるんだから当たり前」とばかりに奈美さんに感謝の言葉や行動もありませんでした。家のことには非協力的にも関わらず、「父親が絶対だ」と自分の考えを家族にも押し通していました。
そんな夫のモラルハラスメントに長年我慢を重ねていた奈美さん。奈美さん自身も共働きで家計を支え住宅ローンも背負っているのに、俺が大黒柱だという考えや態度で接してくる夫に、いつしか離婚が頭にちらつくようになっていったのです。
中島さんは退職した後、特にすることもないのに、奈美さんの家事負担が軽くなることはありません。家にいる時間が増えたことで関わる機会が増え、一層我慢や鬱憤が積み重なっていきました。
そうして限界を超えた奈美さんは、ついに離婚を切り出したわけです。
離婚後の財産分与に立ちはだかる壁とは?
中島さんは、まさか離婚を切り出されるとは思いもせず、奈美さんが離婚に思い至った理由すらわかりませんでした。離婚届を渡されて、初めて妻が自分との生活に不満を持っていることを知ったのです。
一方、離婚を決心した奈美さんは、離婚に向けて動き始めました。子どもはとっくに成人しているため、問題は離婚後の財産と年金がどうなるかです。
離婚をする際は、夫婦が婚姻期間中に形成した財産を公平に分割するための「財産分与」という制度があります。離婚をした夫婦のうち一方が、相手に対して財産の分与を請求することができるという仕組みです。割合は原則2分の1とされていますが、お互いの合意によって分割割合を変えることもできます。
財産分与を請求するには、離婚から2年の期限があります。離婚から2年が経過すると家庭裁判所に申立てをすることができなくなり、相手の同意なしには財産分与を受けられなくなってしまうため、注意が必要です。
中島さん夫婦が財産分与する場合に問題になるのが、まだペアローンが残っている自宅でした。中島さんは、せっかく手に入れて老後生活をゆっくり送る予定でいたマイホームを手放すつもりはありません。一方、奈美さんは心機一転、住まいも含め新たな暮らしを始めたいと思っています。
中島さんが自宅に住み続けるためには、住宅ローンを一本化して、中島さんが返済義務を負う必要があります。しかし、ペアローンの単独債務化については、借入先の金融機関はさまざまなリスクの観点から消極的です。
さらに、中島さんは年金生活者になり収入が減少しています。現役時代よりも返済能力が低下しているため、今よりも返済額が増える住宅ローンの借り換えは難しく、住宅ローンを一本化する目処が立ちません。ペアローンを組んだことが、離婚の大きな壁になっていました。
離婚後に受け取れる年金の現実…妻が下した決断
一方、奈美さんは今後自分が年金生活に突入し、離婚後の住まいにかかる家賃や生活費を払い続けていけるのか、心配になりました。
離婚をした際に、婚姻期間中の厚生年金を夫婦間で分割することができる「年金分割」という制度があります。年金分割には合意分割制度と3号分割制度があります。
3号分割制度は、妻(または夫)のいずれかが国民年金の第3号被保険者であった場合に、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ、夫婦間で分割することができる制度です。
中島さん夫妻は共働きで両方が厚生年金を支払っているため、合意分割制度が適用されます。婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦間で分割することができ、中島さんの方が厚生年金記録が多いため、奈美さんからの請求により中島さんから奈美さんへ分割がなされます。
年金分割によって自分の年金がどれくらい増えるのか知りたい場合、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を請求して調べることができます。この通知書は離婚前であれば相手に知られることなく、単独で請求が可能です。
通知書を請求して手にした奈美さんは、分割後の年金額と、離婚後の暮らしにかかる費用を想定して比べてみましたが、とてもではありませんが賄える額ではありませんでした。仮に財産分与で1,000万円を手にすることができたとしても、それだけでは長い老後には心許なく、仕事を辞めずに働き続ける必要がありそうです。
離婚をしても、財産分与をした資産と年金があればモラハラ夫から解放されて自由気ままに生きられるのではと考えていましたが、現実的には難しそうなことがわかってきました。
夫の中島さんとこの先も一緒に暮らしていくのは耐え難いものの、金銭的なことを考えると背に腹は代えられず、結局、苦渋の決断ではありましたが離婚を踏みとどまることにしたのです。
中島さんは離婚の話し合いの中でようやく奈美さんの不満を知ることになり、自分を変えようと努力しています。しかし、奈美さんの不満は長年の蓄積によるものですから、そう簡単に解消はできません。家庭内別居のような状態が続いており、今後2人が歩み寄れるかどうかも分からない状態です。
ライフプランの共有がコミュニケーションにつながる
長年の夫婦生活の中で価値観の違いや不満が積み重なり、もう一緒に暮らしていくことは考えられずに熟年離婚を思い至る、ということは珍しくない話です。しかし金銭的な面を見ていくと、中島さん夫妻のように離婚に踏み切れないケースも少なくないでしょう。
熟年離婚は長年の蓄積された不満や、コミュニケーション不足から生じることが多いと言われています。日々の生活の中で、不満をため込まずに相手に伝えて話し合うこと、相手の意見や行動を頭ごなしに否定せずに、受け入れる姿勢を持ってお互いを尊重して暮らしていくことが大切です。
そして、将来のライフプランについて共有することも、コミュニケーション不足の解消に効果的です。子どもの独立後や、定年退職後の生活設計について一緒に考え、家計や老後の資金計画を共有することで、お互いの価値観を見直すことができます。
これからも夫婦関係を続けていく場合、お互いを尊重して暮らしていくために歩み寄るきっかけになるのではないでしょうか。
伊藤 寛子 ファイナンシャル・プランナー
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