失ったお金は2,000万円…大金を稼ぐ20代女性が新宿でホームレス生活をしている理由【Z世代ネオホームレスの実態】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月3日 8時15分
「ホームレスとは?」という問いに対し、「お金がない」「家がない」「頼れる人がいない」といった、おおよそ想像し得る分かりやすい答えが何一つ当てはまらないない、言わば〝ネオホームレス〞とも呼べる存在の若者が増えているといいます。本記事では、元芸人でYouTube登録者数24万人超えの青柳貴哉氏の著書『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA/2023年4月発売)より一部抜粋し、新宿歌舞伎町でホームレス生活をする20代女性についてご紹介します。
「間違いない、彼女はホームレスだ」…マナミさんとの出会い
ホームレスにインタビュー取材を続けたおかげで、僕にもある程度は眼力のようなものが備わってきたのかもしれない。
その女性を目にした瞬間、僕は彼女がホームレスであることを察知した。髪はボサボサで、ピンクのロンTにはところどころ染みのような汚れがついている。そして、公園の周りに点々と立つほかの女性たちとは決定的な違いがあった。
それは、ほかの女性たちは立っているのに、自動販売機の横にいる彼女だけが地べたに座り込んでいることだ。自動販売機の灯りを頼りに目を懲らすと、公園の周りに立つ女性たちがメイクやファッションに多少なりとも気を遣っていて、群がる男性から少しでも視線を集めようと努力しているのが見て取れる。
だが、座り込んでいる彼女だけがスッピンだった。間違いない。彼女はホームレスだ。僕はそう確信して自転車を公園の横に停め、その女性に声をかけた。
「すみません。僕、青柳と申します。今、ネットカフェなどに寝泊まりしている方の取材をさせていただいてるんです」
ホームレスだと確信はしたものの、女性は見たところまだ20代。これまで僕が会ってきたような、ダンボールやテントで寝泊まりするタイプのホームレスと同じタイプには見えなかった。「ホームレス」という断定的な単語を避けて「ネットカフェ」というワードを使ったのは、そうした僕なりの〝予測変換〞が頭の中で咄嗟に反応したからだ。
その女性は黙ったまま僕の目を見上げた。すごく虚ろな目だった。
「よろしければ、少ないですが謝礼をお支払いするので、ちょっとだけお話を聴かせていただけないですか?」
「……いいですよ」
これが、マナミさんとの出会いだった。
ホストに注ぎ込んだ金額は2,000万円
「ちなみに、今ここで何をしてたんですか?」
「立ちんぼです。あ、お兄さん警察じゃないですよね?」
「立ちんぼをしている」というマナミさんの返答を聞いて、僕は少し意表を突かれた。今いる場所からして、彼女が立ちんぼをしていることはもちろん想定の範囲内だったが、それを正直に、会ったばかりの男に話してしまう、というマナミさんの反応が僕には意外だった。
僕は「カメラを向けられているのに、こんなことを言ってしまうなんて……この子、大丈夫かな?」と感じて、警戒心の薄いマナミさんのことが少しだけ心配になった。僕はマナミさんと同じように自動販売機の近くにしゃがみ込んで、本格的に彼女へのインタビュー取材を始めた。
「マナミさんは今、ホームレスをしていらっしゃるんですか?」
「はい」
今度は「ホームレス」という言葉をマナミさんにぶつけてみたが、彼女の反応はそれまでと特に変化はない。淡々と、というよりも、虚ろという感じで僕の質問に答えていく。
この時点で、マナミさんがホームレスを始めて半年ほど経過していたが、寝泊まりは路上ではなく〝お客さん〞の家やネットカフェなどが多いと話した。そのお客さんというのは風俗店勤めをしていた頃の客だという。
風俗店を辞めた今でもスマホを介して繋がっていて、時々フリーランスの風俗嬢として客の家に呼ばれていた。風俗店で働いていたのなら、不景気とはいえ生活できる程度の金銭を得ることはできたのではないか。
マナミさんがホームレスになった理由はなんだったのだろう。僕は頭に浮かんだ疑問を率直に聞いてみた。
「僕は風俗ってお金もらえるイメージだったんですけど……」
「稼げました」
「なのに、お金なくなっちゃったんですか?」
「はい」
「なぜ……ですか?」
「ホストで使っちゃって」
「風俗でお金は稼いでたけど、全部ホストで使ってしまったんですか?」
「はい」
「ちなみに今までホストで、トータルで言うとどれくらい使ってるんですか?」
「2,000万円くらい」
僕は絶句した。か細い声でなんとか「え……2,000万円ですか?」と返すのがやっとだった。
ホストクラブで散財する女性のエピソードはよく耳にする。しかし、ホームレスになってしまった女性から、2,000万円もホストに注ぎ込んだ、という話を聞かされて、僕は心底驚いてしまった。
マナミさんによると、風俗で働きながらホストクラブに通い、これまでに総額で2,000万円を使ったという。大金を注ぎ込んだホストとは付き合うことができた。一時は同棲していた が、結局は自然消滅のような形で別れることになり、当時二人で借りていた部屋も解約。
ホストで散財してしまったマナミさんには新たに部屋を借りるお金は残っておらず、ホームレスの生活が始まった。
さらに、マナミさんに聞いてみる。
「ここってめちゃくちゃ歌舞伎町(のど真ん中)じゃないですか」
「はい」「結構、会うんじゃないですか?(別れた)彼氏さんに」
「たまに会いますね」
「ここにこういう感じで座ってたら(元彼が)びっくりするんじゃないですか?『何してんの?』ってならないですか?」
「ならないです」
元彼は歌舞伎町のホストクラブで今も働いているらしく、ホームレスになって路上に座り込んでいるマナミさんの目の前を、出勤途中に通りかかることもあるとか。彼女の口ぶりからすると、もう二人の間で言葉を交わすことはないようだ。別れた相手とはいえ、路上に座り込んでいるのを見て、そんなに無関心のままでいられるだろうか……。
僕の中に「そもそも元彼はマナミさんのことを大事に思っていなかったのでは?彼女がどうなろうと、お金を使わせることだけが目的だったのでは?」という考えがどうしても浮かんできてしまう。
僕が踏み込んだ質問をしても、マナミさんは悲しんだり言い淀んだりせず、感情の見えない虚ろな目をしたまま
「はい」「そうですね」と僕のインタビューに答えていた。
青柳 貴哉
※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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