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公益通報者保護法の改正論議における刑事罰への過度の依存/米国司法省反トラスト局による、米国独禁法違反捜査に関するコンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドラインの改訂

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月15日 11時45分

公益通報者保護法の改正論議における刑事罰への過度の依存/米国司法省反トラスト局による、米国独禁法違反捜査に関するコンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドラインの改訂

(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひが発行する『N&Aニューズレター(2024/12/26号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひまたは当事務所のクライアントの見解ではありません。

I 公益通報者保護法の改正論議における刑事罰への過度の依存

執筆者:木目田 裕

1. 日本経済新聞のコラム「悪意ある通報」

「大機小機「悪意ある通報」とどう向きあうか(客人)」(日本経済新聞2024年11月27日付け朝刊。以下「本コラム」といいます。)は、面白いコラムでした。

本コラムは、「不振事業の構造改革を進める社長に対して恨みを持つ社員が、メディア各社に、内容虚偽の社長のパワハラ疑惑の告発文を送付した」旨の架空事例を設定しています。この架空事例において、社長のパワハラ疑惑のメディア報道で株価が下落し、会社は第三者委員会を作って調査することになり、調査結果は「シロ」だった。会社が「シロ」の調査結果を公表しても「メディアの扱いは小さく、株価の急回復にはつながらなかった」と、本コラムは記載しています。

社長のパワハラ疑惑かどうかはともあれ、私もこれと似たような事例への対応を弁護士として経験したこともあり、この架空事例は、いかにもありそうなケースです。企業不祥事の防止・早期発見のためには、内部通報その他の公益通報を積極的に奨励すべきですが、その一方で、本コラムが取り上げるような悩みがあることもまた現実です。

また、内部通報に限りませんが、報道機関がさんざんバッシング報道していながら、「シロ」との結論は、ほとんど報道しないどころか、沈黙すらしているというのも、よくあることです。

ただ、通報者による故意の虚偽内容の通報に対して罰則を設けることには、私としては賛成できません。

この点、消費者庁の公益通報者保護制度検討会(以下「検討会」といいます。)において、公益通報者保護法の改正に向けた検討がなされていますが、検討会の令和6年9月2日付け「中間論点整理」※1(以下「中間整理」といいます。)では、濫用的通報や虚偽通報に対し罰則を設けるべきであるとの意見が紹介されています。

※1 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_partnerships_cms205_240906_01.pdf

確かに、複数回の調査で調査結果はシロであり、通報者にフィードバック済みであるにもかかわらず、社内の特定の人物をターゲットとして繰り返して同じ内容の通報がなされたり、およそ怪文書のような通報、何時間も通報窓口担当者を拘束して疲弊させるだけの通報や通報窓口担当者を怒鳴ったり罵倒するような通報などもあります。

しかし、内部通報を行った結果、内容が事実でなく、事実でないことに確定的又は未必的認識(つまり故意)があれば、内部通報者が刑事罰の適用を受けるとなれば、内部通報を萎縮させる弊害が大きいので、こうした罰則を設けることは適切とは思いません。

悪質な濫用的通報については、脅迫罪、強要罪、名誉棄損罪、侮辱罪、偽計業務妨害罪等の既存の罰則による対応も可能であり、新たな罰則を設ける必要性が特に高いとも思いません。

2. 検討会の中間整理における刑事罰への依存

「濫用的通報者への対応」に限りませんが、検討会の議論は、刑事罰に依存し過ぎであるように感じます※2

※2 刑事罰には限界があることについて、例えば、拙稿「国公立大学・公的機関の研究開発における贈収賄と「不器用な刑事司法」」参照。

中間整理は、以下のとおり、刑事罰導入が必要であるとする意見を取り上げています※3

※3 なお、検討会の中間論点整理は、公益通報を行ったことについて刑事免責の明文化を検討してはどうか、との意見も取り上げています。

・事業者の公益通報業務従事者指定義務の履行徹底に向けて、現行法の報告徴収、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表に加え、勧告に従わない場合の命令権や立入検査権を規定し、命令違反には刑事罰を科すべきとの提案

・通報者を探索する行為に対し、行政措置又は刑事罰を規定すべきとの意見

・労働者に公益通報しないことを約束させるなど、公益通報を妨害する行為を禁止する明文規定を設けるとともに、違反時の行政措置又は刑事罰を規定すべきとの意見

・濫用的通報や虚偽通報に対し、罰則を設けるべきとの意見

・公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰が必要との意見

私は、いずれの点も刑事罰の導入について非常に疑問ですが、本稿では、「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰が必要との意見」について検討します。というのも、中間整理によれば、検討会では「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰が必要との意見」が多かったとのことであり、新聞報道等でもこの点は特に注目されていると思われるからです。

3. 「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰」の当否

以下で述べるとおり、「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰」を設けることは適切とは思いません。

(1)第一に、企業による通報者に対する懲戒処分であれ人事異動であれ、いかなる行為が公益通報を「理由とする」「不利益取扱い」に該当するかどうかは、一義的に明確でありません。

例えば、パワハラやセクハラについて公益通報の対象に含まれることがありますが、部下が上司についてパワハラやセクハラで公益通報したと仮定しましょう。具体的な事実関係によっては(例えば、パワハラやセクハラとは認定できないが、当該上司と当該部下の人間関係が悪化していたり、職場内で当該部下が孤立するなどしている場合)、上司ではなく、通報者である部下を異動させて問題解決を図ることもあります。この場合に、部下としては現在の職場での勤務を続けたいと思っていたとします。そうすると、部下から見れば、この人事異動は部下に対する「不利益な取扱い」です。この人事異動は当該通報を「理由」としてなされたものです。これに対して、部下が「通報を理由とする不利益取扱いだ」と主張して、刑事告訴※4をした場合を想定してください。「不利益」性は、部下の主観と一切関係なく判断できるものなのかどうか、という問題があります。

※4 「公益通報を理由とする不利益取扱い」に刑事罰を設ける場合、その保護法益をどのように構成するかという問題がありますが、本稿では、さしあたり、通報者自身の個人的法益を保護法益とするものと仮置しています。

捜査機関や裁判所が客観的に判断するといっても、「不利益」性は必ずしも一義的に明確とは限りません。こうした微妙な判断は、民事ならばともかく、刑事司法の判断(罰金刑や執行猶予もありますが、刑事司法は、本質的には、有罪であれば人を犯罪者として刑務所に入れ、前科者にする作用)にはなじまないと思います。

別の例ですが、通報者が通報内容(例えば「上司が横領した」という内容)を通報とは別に怪文書として社内外に拡散させた場合に、その通報内容が事実でなく、通報者が事実と誤信したことに合理的な根拠がなかったとします。この場合に、会社が通報者に対して、怪文書配布の点を理由に、懲戒解雇などの懲戒処分をしたとします。通報内容に何の根拠もなくただの誹謗中傷ならば、懲戒処分は、通報を「理由」とするものではないと比較的言いやすいかもしれませんが、通報者が通報内容を事実と信じたことや怪文書配布にそれなりに理由があった場合はどうでしょうか。あるいは、会社側が、前々から会社の上層部にいろいろ異議を申し立てる通報者を煙たがっていて、懲戒処分などの機会を狙っていた、という場合もあるかもしれません。

このように、「不利益」にせよ「理由」にせよ、これらの構成要件要素は、しばしば、非常に微妙な判断が必要になる概念であり、「公益通報を理由とする不利益取扱い」を刑事罰の対象とすることは、構成要件としての明確性を欠き、企業役職員が公益通報に対処するに当たり、十分な予測可能性を担保できないと思います。

つまり、企業側は刑事罰の適用範囲を事前に予測できないため無用に委縮することになり、例えば通報した部下を人事異動させるというような事案に即した妥当な解決を図ることも困難になると思います。

従前、共同研究開発に関して別稿でも述べたように、日本の刑事司法は、基本的に人を刑務所に入れるかどうか等といった刑罰しかエンフォースメントの手段がない「不器用」なものです。日本には、米国における訴追延期合意※5のような当局と企業側とで合意により柔軟な処理を図る制度もありません。現行の日本の刑事司法は、責任や嫌疑の度合いに応じた解決や互譲による解決、刑事罰以外の手段による解決等といった柔軟な解決に適しません。だから、欧米での立法例の存在はそのままでは我が国に当てはまらないと思います。

※5 木目田裕=山田将之「企業のコンプライアンス体制の確立と米国の訴追延期合意―Deferred Prosecution Agreement―」旬刊商事法務1801号(2007年)43頁参照。

このような構成要件の曖昧さに加え、以上であげた2つの簡単な例のとおり、立証構造として、「公益通報を理由とする不利益取扱い」は、関係者の主観的判断を伴う供述証拠に大きく依存することになりがちです。そのため、仮にこれを刑事罰の対象にしたとしても、司法当局としては、法執行しにくく、罰則として活用されないと思います※6

※6 例えば、インサイダー取引規制について、証券取引法上の一般条項(現、金融商品取引法157条1号)で処罰可能であっても、同法166条、167条等の具体的で明確な構成要件が設けられるまでは、ほとんど摘発実績がありませんでした。

(2)第二に、通報者による刑事告訴を通じた濫用の問題があります。

通報に対して会社が真摯に調査を行い、調査結果が「通報者が述べるような違法不当な行為があったとは認定できない」というものだった場合、通報者が通報結果に納得しないことがあります。こうした場合、会社は、通報者の指摘を受けて再調査を行うなどしますが、それでも通報者が納得しないで公益通報対応業務従事者らに不満を募らせることは、残念ながら、皆無ではありません。そのような状況で、会社が通報者を人事異動させたり、昇給やボーナス査定を行ったところ、これらの措置が通報者の意に沿うものでなかったとしましょう。通報者が通報を理由にした不利益処分であるとして、公益通報対応業務従事者らを刑事告訴するといった事態も懸念されます。

捜査当局が適切に判断するから、公益通報対応業務従事者らが起訴されたり有罪とされることはないはずだといっても、既に述べたとおり、構成要件は曖昧であり、通報者の声が大きければ大きいほど、捜査当局や裁判所が「通報を理由とした不利益処分」であったとして有罪認定するおそれは否定できません。仮に、最後は不起訴や無罪になるとしても、会社の役員や従業員としては、捜査や裁判を受けたり、取調べを受ける等といったことだけでも、心理的にも肉体的にも大きな苦痛や負担になります。この点は、民事裁判や労働審判とは比べものになりません。

(3)第三に、企業が公益通報を理由として、通報者に対して脅迫や報復等を行うことは、強要罪、脅迫罪等によって一定程度処罰可能です。PTSDや精神疾患の発症等を傷害結果として、傷害罪を適用することもあり得ます。こうした既存の刑事罰で対応できないケースは、懲戒処分、解雇(懲戒解雇、諭旨退職等)、降格、左遷、ボーナスなどの報酬減額等といった、純粋に使用者と従業員等との間の雇用関係上の問題であって、これらの問題は民事訴訟や労働審判を通じた抑止や是正の効果を期待することもできます。こうした法的制度に重ねて、上記で述べた問題点があるにもかかわらず、公益通報を理由とする不利益取扱いに刑事罰をもって対処すべき必要があるとは思いません。

4. 間接罰方式等

(1)以上で述べた問題点は、検討会の議論でも十分認識されていると思われます。中間整理13頁も、「行為の悪質性に鑑み、不利益取扱いに対する直罰を想定した意見が多かった一方、不利益取扱いを行った自然人及び法人の予測可能性を確保するため、直罰方式ではなく、行政による是正命令に違反するような場合にのみ、行政罰又は刑事罰が適用されるように措置すべきとの意見があった」として、間接罰方式や行政罰(課徴金と思われます。)も取り上げています。

確かに、刑事罰の対象とするべき行為を一義的に明確に法令上で規定できない場合には、間接罰方式をとることがあります。

(2)通常の刑事罰は、法令上の義務規定(「…しなければならない」との規定)又は禁止規定(「…してはならない」との規定)に対する違反行為があれば、直ちに違反行為者が処罰可能になるというものです(直罰規定)。例えば、公益通報者保護法21条は、「第十二条【筆者注:同条は「公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない」と規定しています。】の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する」と規定していますが、これは直罰規定です。

他方、間接罰規定とは、義務規定又は禁止規定に対する違反行為があっても、それだけで直ちに罰則の構成要件を満たすとして違反行為者を処罰可能にするものではありません。いったん、行政庁が違反行為者に対して、違反の是正を命じる等の行政命令を発出することになります。その上で、違反行為者がその行政命令に違反した場合にはじめて、当該違反行為者を処罰するというものです。

間接罰規定は、例えば、行政庁による措置をいったんは待つ方が行政運営上適当と考えられる場合や、問題とすべき行為が個別事情に応じて多種多様であり、あらかじめ義務規定や禁止規定の具体的な内容を明確に定めておくことが困難な場合などに使われます。

例えば、ストーカー行為規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、直罰規定のほか、次の間接罰規定を設けています。

19条1項「禁止命令等・・・に違反してストーカー行為※7をした者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する」

※7 ストーカー行為規制法2条4項は、ストーカー行為について、「同一の者に対し、つきまとい等(第一項第一号から第四号まで及び第五号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう」と定義しています。

同条2項「前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする」

20条「前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」

「禁止命令等」とは、都道府県公安委員会が、つきまとい等を行った者に対して、当該つきまとい等の更なる反復を禁止する命令です(同法5条1項)。ストーカー規制法では、つきまとい等があった場合に、いったんは都道府県公安委員会が行為者に対して禁止命令を発出し、その行為者が禁止命令に反した場合に同法19条又は20条で刑事罰を科すことにしています。このような行政命令、刑事罰という二段階の構造にしている理由は、「つきまとい等」の範囲が曖昧なこと等によると考えられます※8

※8 つきまとい等の範囲の曖昧さは、ストーカー行為規制法2条1項の定義から明らかです。同項は次のとおり規定しています。

「この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

二 (以下略)

(3)このように、一般論として、義務規定や禁止規定について予測可能性の確保が困難な場合などに罰則を設けるのであれば、直罰方式よりも間接罰方式の方が適切なときが多いと思います。

私自身も、金融庁の課長補佐当時の2001年に米国同時多発テロが発生したことからテロ資金対策を担当した際に、施策の一つとして「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(現在は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に統合)を立案しましたが、同法に基づく義務規定等を政省令にできるだけ細かく落とし込んだものの、金融機関等が行うべき本人確認等の具体的内容を一義的に明確に定めることは容易でなかったので、間接罰方式をとり、法令違反があれば所管行政庁が金融機関等に是正命令を発出し、金融機関等が是正命令に違反した場合に処罰可能とする建付けにしました。

義務規定や禁止規定の範囲が明確でない場合は、行為者としては、自己の行為が法令違反になるのか否かを認識することが容易でないため、故意や違法性の意識の可能性といった主観的要素を認定しにくく、かえって直罰規定では取締りの実効性を達成しにくくなります。これに対して、間接罰規定であれば、行政命令を通じて、行為者に対し、具体的な行為規範を明示して、いったんは警告等を与えた上で、行為規範違反があれば、禁止命令違反として処罰することになるので、直罰規定における主観的要素の認定のような問題は少なくなり、取締法規としての実効性を確保しやすくなります。

(4)このように間接罰方式には優れている面もあるのですが、「公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止」に関しては、間接罰方式では問題の解決にならないと思います。

前述のとおり、間接罰方式の利点は、行政命令を発出することで、被命令者に対して行為規範を具体的に特定して明示することを通じて、予測可能性を確保することにあり、だからこそ行政命令違反に対して刑事罰を科すことが正当化されるわけです。

この点、企業やその役職員に対して、所管行政庁(公益通報者保護法の場合には、基本的には消費者庁つまり内閣総理大臣になるものと予想します。)が発出する行政命令の内容が、単に「通報者【筆者注:制度の運用次第ですが、行政命令の名宛人については、個別具体的に特定された通報者のこともあれば、役職員一般のこともあり得ると思います。】に対して不利益取扱いをしてはならない」という、抽象的な行為規範を示す命令にとどまるならば、直罰方式をとる場合の構成要件要素の曖昧さという問題の解決になりません。このような命令内容では、行政命令を介在させても、予測可能性を確保できません。

そこで、次に、公益通報者に対する不利益取扱いの場面において、行政命令を通じて、所管行政庁が具体的な行為規範を特定して示すことができるかどうかが問題になります。

公益通報がなされて、当該通報者に対して企業が何らかの不適切な行為を行い、それを受けて、所管行政庁が例えば「通報者Aを人事異動してはならない」という命令を発出したと仮定します。この行政命令には、通報者Aを何年人事異動してはならないのか、通報者Aが家庭環境の変化等から人事異動を希望したらどうするのか、そもそも通報者Aを特定部署に長期間固定することは通報者Aが職業経験を通して自己の能力や経験を高めていくことを妨げることになるのではないか、という問題があります。それこそ通報者Aに不利益なことを所管行政庁が命令することにもなりかねません。

他方、通報者Aを現在の部署から人事異動させることが通報者Aの救済になるという事情がある場合に、企業の中のどの部署に異動させるのがよいか、いつ異動させるのがよいか等については、所管行政庁が介入して妥当な判断を行うことができるとも思えません。

以上のとおり、行政命令において、不利益取扱いにつき所管行政庁が具体的に妥当な行為規範を特定することは難しく、また適切とも思いません。このことは、給与やボーナスの査定、昇格等における不利益取扱いの問題のおおむね全てに当てはまると思います。

なお、確かに、懲戒解雇を含む懲戒処分や解雇については、行政命令で明確に行為規範として禁止(これらの処分を単純に禁止すれば足ります。)を示すことができます。しかし、その場合でも、行政命令では、「今回の公益通報を理由として通報者Aを(懲戒)解雇してはならない」などと、「理由として」との限定が必要になると考えられ、結局、直罰規定の場合について述べた問題点はやはりクリアできないのではないかと思います。

(5)以上のとおり、公益通報を理由とする不利益取扱いについては、間接罰方式によっても刑事罰化は適切ではないと思います。

なお、課徴金などの行政上の制裁についても、義務規定や禁止規定の違反を課徴金対象行為とする点で、直罰規定の場合の刑事罰と同様に、予測可能性の確保に困難さがあります。また、課徴金であっても、日本の場合、当局との合意等を通じた柔軟な解決を行うこことが困難であることは、刑事罰の場合と大差がないので、やはり、直罰規定について述べた問題点は、課徴金の場合についても等しく当てはまると思います。

【補遺 本稿脱稿後の2024年12月24日、検討会が報告書案を公表しました。報告書案では、「公益通報を理由とする不利益取扱い」と従事者指定義務違反に係る是正命令違反を除き、各論点における刑事罰の新規導入については、今後必要に応じて慎重に検討すべきである等として見送り方向とされています。また、公益通報の刑事免責や、公益通報のために必要な資料収集・持ち出し行為の免責についても今後の検討課題として見送り方向とされています。

「公益通報を理由とする不利益取扱い」については、不利益取扱いの内容を解雇や懲戒処分に限定しつつ、直罰規定を設けるものとしています。解雇や懲戒処分に限定することで、「不利益取扱い」要件に係る問題点はかなり軽減できますが、よほどコンプライアンス意識の低い企業でない限りは、解雇や懲戒処分といった露骨な報復を行う可能性は低いと考えられるため、わざわざ刑事罰を設ける必要性はむしろ更に乏しくなったと思います。

また、たとえ不利益取扱いの内容を解雇や懲戒処分に限定するにしても、依然として「理由として」要件の問題が残るため、「公益通報を理由とする不利益取扱い」の刑事罰化は適切でないと思います。報告書案が、民事訴訟における「理由として」要件の立証責任の転換を論じ、立証責任の転換それ自体にも難しい問題があることから、立証責任の転換の範囲を「公益通報をした日から1年以内の解雇及び懲戒」処分に限定することとしていますが、かかる議論の経緯も「理由として」要件が刑事罰にそぐわないことを別の角度から実証するものであると考えられます。】

Ⅱ米国司法省反トラスト局による、米国独禁法違反捜査に関するコンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドラインの改訂

執筆者:宮本 聡、安部 立飛

1. はじめに

米国司法省反トラスト局(Antitrust Division, United States Department of Justice)は、本年11月、「米国独占禁止法※9違反捜査に関するコンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドライン(Evaluation of Corporate Compliance Programs in Criminal Antitrust Investigations)」の改訂版(以下「改訂版米国独禁法ECCP」といいます。)を公表しました※10。本ガイドラインは、検察官が米国独禁法違反行為に関する起訴・不起訴や量刑を検討する際に、企業の米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムをどのように評価するのかを示したものであり、今回、2019年に公開された初版からの改訂が行われました。

※9 米国独占禁止法は、シャーマン法やクレイトン法、連邦取引委員会法などの幾つかの法律の総称であり、改訂版米国独禁法ECCPは、その中でもシャーマン法のエンフォースメントに関わるものです。

※10 Evaluation of Corporate Compliance Programs in Criminal Antitrust Investigations

米国司法省は、本年9月に、一般的な企業犯罪の訴追において参照される「企業コンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドライン(Evaluation of Corporate Compliance Programs)」の改訂版(以下「改訂版ECCP」といいます。)を先んじて公表しており※11、今回公表された改訂版米国独禁法ECCPは、改訂版ECCPでアップデートされた内容を踏襲しつつ、米国独禁法固有の視点を踏まえた改訂を行ったものです。

※11 改訂版ECCPの概要は、本ニューズレター2024年10月31日号もご参照ください。

本稿では、改訂版米国独禁法ECCPと改訂版ECCPとの類似点、及び、改訂版米国独禁法ECCP独自の着眼点について説明を加えた後、今回の改訂を踏まえた日本企業の採るべき対応等についてコメントします。

2. 改訂版米国独禁法ECCPの全体像

改訂版米国独禁法ECCPは、今回の改訂前と同様、企業の米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムの実効性を検討する際のポイントとして、以下の9つの要素を示した上で、各要素の詳細を述べるという構成となっており、こうした大枠・全体像は今回の改訂でも変わりませんでした※12。今回の改訂では、この9つの要素の詳細について、いくつかの追記がされるなどしております。

※12 改訂前の米国独禁法ECCPの内容については、当事務所の北米ニューズレター2019年7月29日号もご参照ください。

●コンプライアンスプログラムの設計及び網羅性

●コンプライアンスの文化

●コンプライアンスプログラムに向けられた責任の在り方及びリソース等

●リスク評価

●従業員のトレーニング及びコミュニケーション

●継続的なレビュー、モニタリング、監査

●報告体制

●インセンティブ及び懲罰

●是正措置及び独禁法コンプライアンスプログラムが違反行為発見に果たした役割

3.改訂版米国独禁法ECCPと改訂版ECCPの改訂箇所の類似点

本年9月に公表された改訂版ECCPにおいては、新たに、①新しい技術がもたらすリスクの評価等、②不正行為の通報に関するインセンティブの確保及び通報者の保護、③コンプライアンス・プログラムの改善などの重要性を指摘する記載が追加等されましたが※13、今回の改訂版米国独禁法ECCPの改訂においても、これらの観点と共通する記載が追加されております。

※13 詳細につきましては、本ニューズレター2024年10月31日号をご参照ください。

例えば、①新しい技術がもたらすリスクの評価等に関して米国独禁法改訂版米国独禁法ECCPも、会社の業務遂行に使用される新しい技術(人工知能(AI)やアルゴリズムによる収益管理ソフトウェア等)がもたらすリスクについてコンプライアンス・プログラムが適切な評価を行っているかに着目しています。具体的には、次の諸点が記載されています。

●会社は、新しい技術を導入する際、それがもたらす米国独禁法上のリスクを評価しているか。

●会社は、新しい技術の使用に関連するリスクを軽減するためにどのような措置を講じているか。

●コンプライアンス担当者は、AIその他の技術の導入に関与し、それらがもたらすリスクを評価しているか。

●コンプライアンス部門は、会社が使用するAIその他の技術について理解しているか。

●会社は、AIその他の技術によってなされた、会社の価値観に合致しない意思決定を、どれだけ迅速に検知し、是正することができるか。

また、②不正行為の通報に関するインセンティブの確保及び通報者の保護に関して、改訂版米国独禁法ECCPも、同様の観点から、次のような事項に着目する旨の記載を加えるなどしています。このような内部告発に関する新しいポリシーの追加は、米国司法省が2024年8月に運用開始を発表した「企業内部告発者に報奨金を支払うパイロット・プログラム(Corporate Whistleblower Awards Pilot Program)」※14とも整合するものであり、同省における、内部告発促進と内部告発者保護への関心の更なる高まりを示すものといえます。

※14 企業内部告発者に報奨金を支払うパイロット・プログラムにつきましては、本ニューズレター2024年9月30日号もご参照ください。

●従業員が報復を恐れることなく、犯罪行為の可能性について報告したり指導を求めたりできるよう、どのような仕組みを設けているか。

●従業員が匿名で秘密裏に報告することは可能か。

●会社のポリシーは米国独禁法違反の報告を奨励しているか、あるいは、妨げているか。

●会社は、従業員において米国独禁法違反を報告する意思についてどのように評価しているか。

●報復防止方針があるか。

●刑事反トラスト報復禁止法(Criminal Antitrust Anti-Retaliation Act:CAARA)15に基づく保護について、管理者及び監督者を含む従業員に研修が行われているか。

※15 CAARAは、使用者(雇用者)が、米国独禁法上の刑事違反の通報を当局に対して行った従業員に対して報復することを禁止し、内部告発者を保護することを目的とするものです。

●会社が現従業員や元従業員に対して課す秘密保持契約(NDA)その他の制限が、従業員が報復を恐れることなく米国独禁法違反の可能性を報告できるようにするための保証体制を阻害しないか。

●NDAが、内部告発者を抑止したり、CAARAに違反したりするような形で利用されていないか。

●NDA及びその他の従業員に関わるポリシーが、従業員が米国独禁法違反を社内及び政府当局に報告できることを明確に示しているか。

そして、③コンプライアンス・プログラムの改善に関しては、元々、会社の米国独占禁止法上のリスク評価の定期的な見直しや、米国独占禁止法に関するポリシーやプロセスの更新時における過去の違反やコンプライアンス事案を通じて発見されたリスクの考慮について記載されていたところ、今回、次のような記載が追加されました。

●会社の事業環境の変化に伴い新たに発生するリスクを特定するプロセスが設けられているか。

●会社は、特定のリスク領域がポリシー、管理又は研修において十分に対処されていない可能性を検証するために、ギャップ分析を実施したか。

4. 改訂版米国独禁法ECCP独自の着眼点

改訂版米国独禁法ECCPは、特に米国独禁法との関係に焦点を置いた記載も追加しています(当然ながら、そのような記載は企業コンプライアンス・プログラムに対する評価ガイドラインにはないものです。)。その中でも特に重要と思われる箇所は、以下のとおりです。

●民事制裁の抑制可能性:上記のとおり、米国独禁法ECCPは検察官における起訴決定と量刑勧告の際に参照されるものであり、基本的には刑事上のリスクに関連するものです。もっとも、改訂版米国独禁法ECCPでは、“a well-designed antitrust compliance program should also minimize risk of civil antitrust violations.”(よく設計された米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムは、民事上の米国独禁法リスクも最小限に抑制することになる。)と述べられています。これは、米国司法省が米国独禁法違反に基づく民事制裁の決定を行うに当たっても、米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムがどのように構築・運用されているかが重要であり、その評価の際には米国独禁法ECCPが重要なリソースになることを明らかにするものです。つまり、米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムが適切に構築・運用されていれば、(仮に結果として米国独禁法違反が発生しても)刑事責任だけでなく民事責任についても軽減される可能性があるということになります。

●一般的なコンプライアンス・プログラムとの関係性:米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムは、一般的なコンプライアンス・プログラムと調和しつつも、会社が直面している米国独禁法上のリスクに照らして、同法に特化したコンプライアンスに適切な重点を置かなければならないとされています。これはつまり、米国独禁法に関するコンプライアンス・プログラムは同法のリスクに対応した特異性を有していなければならず、一般的なコンプライアンス・プログラムを定めるだけでは十分ではないことを示唆しています。

●米国独禁法に関するトレーニングの実施:従業員(特にコンプライアンス担当者や管理職)は、米国独禁法のレッドフラッグを認識するための研修を受けており、その際、彼らの米国独禁法に対する理解度や研修資料への取り組み度を適切にテストしているかという観点が指摘されています。また、研修は、会社が事業展開している業界やその業界で過去に発生した米国独禁法違反に合わせた具体的な資料を取り入れているかという観点も指摘されています。

我が国の独占禁止法に関しても独自のコンプライアンス・プログラムの整備・運用が求められているのと同様に※16、米国独禁法についても、一般的なコンプライアンス・プログラムとは異なる配慮が求められているという点について留意する必要があるといえます。

※16 例えば、公正取引委員会は、「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド-カルテル・談合への対応を中心として-」(2023年12月)を公表しています。

5. 改訂版米国独禁法ECCPを踏まえた日本企業の採るべき対応

改訂版米国独禁法ECCPは、一般的なコンプライアンス・プログラムにおいても求められている、AI等の最新の技術についてのリスク評価や内部告発の促進を米国独禁法との関係においても要求しつつ、さらに、同法に特化したコンプライアンス・プログラム(研修体制の充実を含む。)を整えることの重要性を指摘するものであると評価できます。

そのような適切なコンプライアンス・プログラムを構築することには多くのコストと労力を要すると予想されますが、もとより、優れたコンプライアンス・プログラムは米国独禁法違反の発生を未然に防ぐものであり、また、実際に問題が発生した際には企業がリニエンシーのチャンスを獲得することを可能にします。

そして、改訂版米国独禁法ECCPは、適切なコンプライアンス・プログラムの構築、運用は、米国独禁法に関する刑事責任だけでなく民事責任においても考慮されることを明らかにしています。日本企業においては、改訂版米国独禁法ECCPの内容も踏まえ米国独禁法、自社のコンプライアンス・プログラムについてアップデートする必要がないか改めて確認する必要があります。

その際には、上記のとおり自社が身を置く業界の特性・特殊性や過去に発生した事例をつぶさに分析し、そこから得られた教訓をコンプライアンス・プログラムに適切に取り込むことが必要となります。

6. 米国の政権交代の影響

2025年1月にドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任し、第2次トランプ政権が発足する見込みです。第2次トランプ政権によってジョー・バイデン政権下で策定された改訂版米国独禁法ECCPに(どのような)変更が行われるのかは不透明です。もっとも、上記のとおり今回の改訂は、第1次トランプ政権下に制定・公表された従前の内容を否定するものではなく、むしろ、それを前提として、時代に即したより精緻で実務的なアップデートが行われたものと評価することができることからすれば、改訂版米国独禁法ECCPが、第2次トランプ政権になって急激に変わる可能性は低いようにも思われます。

いずれにせよ、企業においては、第2次トランプ政権下における司法省その他の当局の方針の動向についても注視していく必要があります。このことは、米国独禁法(シャーマン法)だけでなく、同種の規制である不公正な競争方法(Unfair Methods of Competition)※17はもちろんのこと、外国公務員等への贈賄を規制するFCPAを含む他の米国法のエンフォースメント全てに当てはまります。

※17 不公正な競争方法は、連邦取引委員会法第5章(Section 5 of the Federal Trade Commission Act)によって規制されるものであり、その管轄当局は、連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)となります。連邦取引委員会は、2022年10月に不公正な競争方法に関する方針(Policy Statement Regarding the Scope of Unfair Methods of Competition Under Section 5 of the Federal Trade Commission Act)を声明しており、当該方針が、第2次トランプ政権下においてどのような変更を受けるのか(あるいは受けないか)についても注目されます。

Ⅲ 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて

執筆者:木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、寺西 美由輝

危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。

なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。

【2024年11月26日】

金融庁、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表

https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20241126/20241126.html

金融庁は、2024年11月26日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。本改正案では、有価証券報告書等において「株式の保有状況」として、当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る。)の銘柄、株式数、貸借対照表計上額、保有目的の変更年度、並びに保有目的の変更の理由及び変更後の保有又は売却に関する方針の開示を求めることとされています。

【2024年12月4日】

個人情報保護委員会、監視・監督権限の行使状況等を公表

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/supervision/

個人情報保護委員会は、2024年12月4日、令和6年度第2四半期の「監視・監督権限の行使状況の概要」及び「漏えい等報告の処理状況」を公表しました※18

※18 令和6年度第1四半期の「監視・監督権限の行使状況の概要」及び「漏えい等報告の処理状況」については、本ニューズレター2024年9月30日号(「個人情報保護委員会における監視・監督権限の行使状況及び漏えい等報告の処理状況に関する四半期ごとの公表」)をご参照ください。

【2024年12月5日】

金融庁、「記述情報の開示の好事例集2024(第2弾)」を公表

https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20241205.html

金融庁は、2024年12月5日、有価証券報告書等の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄の開示の好事例を取りまとめ、「記述情報の開示の好事例集2024(第2弾)」として公表しました※19

※19 好事例集2024(第1弾)については、本ニューズレター2024年11月29日号(「金融庁、「記述情報の開示の好事例集 2024(第1弾)」を公表」)をご参照ください。

【2024年12月11日】

個人情報保護委員会、「不正アクセスによる個人データ漏えい防止のための注意喚起」を公表

https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/241211_alert_dataleakage/

個人情報保護委員会は、2024年12月11日、「不正アクセスによる個人データ漏えい防止のための注意喚起」を公表しました。ランサムウェアを含むサイバー攻撃の高度化・巧妙化が進んだことにより、従前の、情報システムの脆弱性を狙った不正アクセスに加え、グループ会社又は海外拠点における弱点となり得る関係性に起因するシステム侵入や、機密情報が保存される領域への高度な水平移動等の手口による個人データの漏えいが見られることから、注意喚起を実施したものです。本注意喚起においては、対策として、例えば、以下のような方法が紹介されています。

●国内だけの対策で完結せず、海外拠点も含めてIT資産の洗い出し、脆弱性情報の収集・分析、脆弱性への対処を適切に行う。

●子会社と親会社の間の通信は業務上必要な範囲のみ許容するなど、拠点間ネットワークのアクセス制限を強化する。

●親会社は委託を受けた個人データを適正に管理するとともに、子会社は委託先がグループの親会社であったとしても、通常の外部委託先に対するルールと同じ基準で必要かつ適切な監督を行う。

●例えば、親会社による自己点検又は第三者機関による検査等の結果を子会社がモニタリングするなど、親会社主導の下、効果的にグループ会社全体の安全管理措置等の取扱状況を共有し、必要な監督を行える仕組みを構築することが考えられる。

【2024年12月13日】

民事訴訟法等の一部を改正する法律の施行日が決定

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00316.html

2024年12月13日、民事訴訟法等の一部を改正する法律に関し、人事訴訟・家事調停において、ウェブ会議を利用して、離婚・離縁の和解・調停を成立させたり、合意に相当する審判の前提となる合意を可能とする仕組みの創設について、施行日を2025年3月1日と定める政令が閣議決定されました。この法律の内容については、本ニューズレター2022年6月30日号(「民事訴訟法等の一部を改正する法律を公布」)をご参照ください。

【2024年12月17日】

日本監査役協会、「2024年監査役制度の運用実態調査・第25回定時株主総会後の監査役等の体制に関する年次調査の集計結果」を公表

https://www.kansa.or.jp/support/library/post-13778/

2024年12月17日、日本監査役協会は、「2024年監査役制度の運用実態調査・第25回定時株主総会後の監査役等の体制に関する年次調査の集計結果」を公表しました。例えば、以下の結果が公表されています。

●女性の役員(取締役及び監査役)がいる会社は、監査役(会)設置会社では2023年から4.7ポイント増加して75.1%、監査等委員会設置会社では8.0ポイント増加して82.1%となっていること。

●指名委員会・報酬委員会の設置状況について、「指名・報酬委員会を併せ持つ機関が設置されている」会社が最も多く、監査役(会)設置会社では2020年から9.0ポイント増加して36.1%、監査等委員会設置会社では16.7ポイント増加して47.3%となっている一方、いずれも設置されていない会社は、監査役(会)設置会社では2020年から18.0ポイント減少して30.6%、監査等委員会設置会社では24.2ポイント減少して21.9%となっており、2021年6月のCGコード改訂以降、指名委員会・報酬委員会の設置が実務として定着してきたと考えられること。

●内部監査部門から監査役会等に対して正式に報告がなされている上場会社は、監査役(会)設置会社では2021年から14.7ポイント増加して59.9%、監査等委員会設置会社では17.8ポイント増加して71.4%となっており、改訂CGコード補充原則4-13③により「上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築」することを受けた結果が出ていると思われること。

【2024年12月17日】

公正取引委員会及び中小企業庁、「企業取引研究会報告書(案)」を公表

https://www.jftc.go.jp/file/01_report_draft.pdf

2024年12月17日、公正取引委員会事務総局及び中小企業庁が共催する企業取引研究会が、「企業取引研究会報告書(案)」を公表しました。本報告書は、経済環境の変化に即応した優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討結果を取りまとめたものです。本報告書の主な内容は以下のとおりです。

●実効的な価格交渉が確保されるような取引環境を整備する観点から、例えば、給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格協議の申出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制する必要がある。

●支払遅延に関する親事業者の遵守事項として、親事業者が下請代金を支払うに当たり、①紙の有価証券である手形については、下請法の代金の支払手段として使用することを認めない、②その他金銭以外の支払手段(電子債権、ファクタリング等)については、支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないことが必要である。

●発荷主と物流事業者との間でもなお長時間の荷待ちや契約にない荷役等の附帯業務の問題が生じているという課題があることを踏まえると、より簡易な手続により、迅速かつ効果的に問題行為の是正を図っていくことが必要である。そのため、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引としていくこととすべきである。

●現行法においても事業所管省庁は中小企業庁の措置請求のための調査権限を有しているが、それに加えて下請法上問題のある行為について指導する権限を規定することが有益である。また、下請事業者が申告しやすい環境を確保すべく、報復措置の禁止(下請法4条1項7号)の申告先として、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加することが必要である。

●下請法の適用基準について、現行の資本金基準に加えて、従業員基準により事業者の範囲を画していくことが適切である。具体的には、下請法の趣旨や運用実績、取引の実態、事業者にとっての分かりやすさ、既存法令との関連性等の観点から、従業員数300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)の基準を軸に検討することが適当である。

【2024年12月19日】

「不正口座情報、共有早く 大手行や地銀、犯罪抑止」

2024年12月19日付け日本経済新聞朝刊

2024年12月19日付け日本経済新聞によれば、全国銀行協会が、メガバンクや全国の地方銀行が不正利用の疑いのある口座情報を迅速に共有する仕組みを検討する協議体を、年内にも設置するとのことです。例えば、ある銀行がマネーロンダリング(資金洗浄)や投資詐欺に使われている口座を特定した場合に、全国銀行協会を通じてすぐに銀行間で名義人などの口座情報を共有し、犯罪の抑止に活用することなどが想定されているようです。

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