「死んだ妹が可哀そうだ!」67歳年金暮らし母の終生の悲願〈海洋散骨〉をした38歳娘…理解を得られない親族が、船上で肉弾戦【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月18日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
以前は、通夜と告別式を行う「一般葬」が主流でしたが、コロナ禍以降、葬儀の多様化が進みました。海洋散骨も新たな選択肢のひとつ。家族の一部は納得して散骨を行うも、古いしきたりを重んじる親族からの理解が得られず、トラブルに発展するケースもあるようで……。本記事では、Aさん家族の事例とともに変化する弔いのかたちについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
コロナを機に変わった葬儀事情
新型コロナ以降、家族葬が増え、お葬式に出向くことは大きく減りました。では、昨今のお葬式にはどれくらいのお金をかけているのでしょうか。「終活」に関するさまざまなサービスを提供する株式会社鎌倉新書が運営する葬儀相談依頼サイト「いい葬儀」が「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」の調査結果を発表しています(2024年5月発表)※。
まず、葬儀の種類ですが、家族葬が50.0%と最も多く、次いで一般葬が30.1%、一日葬が10.2%、直葬・火葬式が9.6%の順となっています。また、葬儀にかける費用の平均は、図表のようになっており、平均で約118万5,000円(基本料金:75万7,000円、飲食費20万7,000円、返礼品費:22万円)です。
なお、葬儀費用はコロナ禍の前後で、大きく変化しています。葬儀にかける費用の推移をみてみると、
・2015年 184万円 ・2017年 178万3,000円 ・2020年 184万3,000円 ・2022年 110万7,000円 ・2024年 118万5,000円アフターコロナの2024年は一般葬が4.2%増えたことで平均金額も上がってきましたが、多死社会に突入した日本では、火葬場の不足や人材不足などの影響により今後も葬儀費用は上がってくると考えられます。
最近では、地域によっては「火葬待ち」が問題となっており、場合によっては亡くなってから火葬まで8日以上もかかっているケースもあるようです。お住まいの地域での火葬場事情も事前に調べておきましょう。
葬儀代のことを考えて死亡保険に加入している人も多いでしょうが、上記を参考に保険の見直しをしてみるのもよいかもしれません。
お骨の保管方法も多種多様の時代
火葬後の故人の供養の方法としては、お墓や納骨堂といったところを思い浮かべますが、近年ではお墓が遠方であったり、お墓を建てる経済的余裕がなかったりといったケースも少なくありません。そこで「手元供養」という供養の形式が注目されています。
「手元供養」とは、遺骨のすべて、または一部を、お墓などではなく自宅などの身近な場所に保管して供養することをいいます。ミニ仏壇などを設置して自宅に保管したり、ペンダントなどに入れて身に着けたり、など、さまざまな供養の方法があります。近年では、核家族化も増えてきたことから、「墓じまい」やこういった「手元供養」をする人が増えています。
また、ほかに「自然葬」というのもあります。自然葬も墓地や墓石を用いず、「自然に還す」という考え方に基づいた埋葬方法です。自然葬には、樹木葬、散骨(海や山)、宇宙散骨などがあります。しかしながら、価値観の違いから親族から反対される恐れも多々あるのが実情です。
母親の悲願「私の骨は海に撒いて!」
Aさんは都内で働く38歳の独身女性です。実家は関東地方ですが、通勤が大変なので、大学を卒業したあとは就職を機に都内に1LDKのマンションを借りて長く住んでいます。
先日、癌を患っていた年金暮らしの母親が67歳で亡くなってしまいました。この母親はもともと海の見える田舎町で生まれた人ですが、Aさんの父親と大恋愛の末、関東に出てきて嫁に入った人です。ですが、結婚には母親の実家が猛反対だったため、実家とは縁を切って結婚したような形です。
結婚後はAさんの父親の両親との同居でしたが、舅の介護や姑のいじめで、母親は大変苦労したようです。すでに父親の両親は他界してしまいましたが、結婚後は一度も実家に帰ったことのない母親は、病床でAさんに、
「田舎の海が見たい」
「お義母さんと一緒のお墓なんて絶対にイヤ! 私のお骨は田舎の海に撒いて!」
と何度も訴えていました。Aさんは、母親の最後の願いを叶えようと、散骨式について調べ始めました。
散骨式の方法と費用
「散骨」とは、パウダー状にした遺骨を海や山林、空などに撒く方法で行います。散骨は法的に禁止されてはいませんが、散骨を禁止している海域もありますので、専門の業者に問い合わせたほうが確実でしょう。散骨の費用は、業者に代理で散骨してもらう数万円のコースから、チャーターしてもらった船に親族で乗り込み散骨する数十万円のコースまでさまざまです。業者によって内容や価格も違いますので、比較して調べましょう。
Aさんは父親の了解を得て、船上での散骨式を実施することに。
母親の兄と父親の弟が船上で取っ組み合い
散骨式にはAさんとAさんの父親のほか、母親の友達、そして、父親の弟と母親の長兄が参加しました。母親の実家近くの海で散骨するため、参加してくれるかどうかはわかりませんでしたが、Aさんは会ったこともない母親の長兄に連絡しました。母親の両親はすでに他界していましたため、長兄だけが参加してくれるとのことになりました。
ですが、この長兄は港での集合時にはすでにアルコールが入っており、船が出てしばらくすると文句を言い始めました。
「勝手に嫁に行って、葬式も出してもらえないなんて妹が可哀そうだよ。事前に相談してくれればこっちで葬式くらい出してやったんだ! お前はなんで葬式も出してやれなかったんだ!」とAさんの父親に掴みかかってきました。
Aさんの父親はただ黙って言われるままでしたが、これに父親の弟が参戦します。
「おいおい、うちは葬式を出せないわけじゃないぞ! 義姉さんが生前にどうしてもって言ったそうだから、遠路はるばるこんなところまでやってきたんじゃないか!」長兄に真っ向からぶつかっていきます。
長兄は「こんなところとはなんだ!」と、船上は大騒ぎ。
Aさんや散骨業者のスタッフが間に入り、なんとか散骨式を終えることができましたが、あとでAさんはスタッフから「だから事前にしっかり了解を取っていただくようにお願いしたんですよ」と言われてしまいました。
近年は、こういった海洋散骨を希望する人が増えているようです。しかし、散骨についていいイメージを持たない人や、詳しく知らない人はまだまだ多いものです。「ちゃんと葬式を出そう」「金はかけたほうがいい」「一族代々のお墓に入れよう」と昔からのこだわりを持つ人もいます。
散骨だけに限りませんが、Aさんのようにトラブルが起きないためには、葬儀や埋葬方式が多様化しているいまの時代には特にしっかり理解してもらうことが重要です。
〈参考〉
※ 葬儀相談依頼サイト「いい葬儀」 第6回お葬式に関する全国調査(2024年)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000009951.html
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
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