ないよな、ないよな?兄の〈隠れ借金〉が怖い…相続権が回ってきた75歳・弟。それでも「相続放棄」が一筋縄ではいかないワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月15日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「相続放棄」によって相続権が回ってきた場合、負債を引き継ぐことになる可能性もあるため、相続すべきか否か悩むことでしょう。また、相続する遺産に「不動産」が含まれている場合は、安易に相続放棄を選択すべきではないケースもあります。相続放棄によって回ってきた相続権には、どのように対処すべきなのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、相続放棄の判断をするときに注意すべきポイントについて詳しく解説します。
兄の相続、息子も姉も相続放棄
大吾さん(75歳・男性)から相談がありました。兄が亡くなり、相続人の息子が相続放棄したので、相続権が姉と自分のところに回ってきたといいます。
兄の財産は地方の実家の土地、建物で売れても500万円程度。建物を解体したりすると大して残らないよう。預金は150万円残っていますが、兄の息子が相続放棄したのには理由がありました。
兄は20年程、難病で入院しており、生活費に困ってクレジット会社に借金したことがあると聞いており、返済は済んでいるというものの、亡くなったきっかけで請求されるのでは? という不安があるからだといいます。
現在、土地に抵当権はついていないと確認できましたが、限定承認(相続によって得たプラスの財産を限度として、マイナスの財産も引き継ぐこと)で土地と預金のみ希望したとしても、相続後、借用書などが出てきて請求されたら困る、どうすればいいかというご相談でした。
限定承認?やはり相続放棄?
相続人の子が相続放棄し、次の順位の姉も相続放棄したあと、相続人が大吾さん一人になったときは大吾さんが限定承認の手続きをすることは可能です。
限定承認する際、財産の概要を確認した上で借入金があるか否かも調べることが望ましいところです。
抵当がなく、身辺に借用書などが見当たらない場合は隠れた負債はないのではと想定されます。回収する気がある債権者であればとっくに動いているはずです。
万一、想定外の借入金の返済を求められたとしても相続した範囲までということで持ち出しにはなりません。 しかし、不安を抱えたくないとすれば、やはり相続放棄してしまいたいと大吾さんの本音が見えました。
不動産は放棄できない
民法940条により、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」となっており、相続放棄は受理されるが、財産管理人などを立てない限り管理責任が残るとされています。
借金だけであれば相続放棄は簡単ですが、不動産がある場合、相続放棄の申請が受付されたとしても相続人に管理責任があります。地方の不動産は国が引き取らないため、相続して売却しておかれる方が負担は少なくなります。
土地の放棄ができるようになる
国は、土地所有権の国庫帰属制度を新設し、3年後あたりを目処に実施するように準備を進めています。この制度が始まると、保有したくない土地を相続して、ずっと所有し固定資産税を払い続けなければならないということは避けられます。
土地については10年分の管理費と審査手数料をおさめ、以下の条件を満たしていると国に引き取ってもらうことができます。
- 更地であること(建物があれば相続人の負担で解体しなければなりません)
- 抵当権が設定されていないこと
- 境界争いがないこと
- 土壌汚染がないこと
建物もトラブルもない土地にしないと国は引き取ってくれないということです。
相続して売却
このように現在では、相続放棄しても管理責任が残り、土地所有権の国庫帰属制度はまだ先のこととなると、大吾さんが代表で相続し、建物を解体して売却してしまうことが一番だとアドバイスしました。
今ならまだ手元にお金が残せる売り方ができると想定されます。
借金は時効もあり、今わかっていない借金が出てくることもないのではと思われます。相続人の責任として相続手続きをしていきましょうとお話しています。
相続実務士のアドバイス
●できる対策
相続して、不動産を売却する。
●注意ポイント
相続放棄しても不動産の管理責任は免れないため、相続放棄して終わりとは言えない。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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