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【ベンツ S450試乗】待望の復活!衰退していた直6エンジンが現代に復活した理由とは?

&GP / 2018年5月5日 10時0分

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【ベンツ S450試乗】待望の復活!衰退していた直6エンジンが現代に復活した理由とは?

「さすがは“内燃機関の父”だけあるなぁ」と感心させられました。新しく日本市場に導入されたメルセデス・ベンツ「S450」に搭載される“ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)”と“M256型エンジン”の技術説明を聞きながら。

世界的に環境基準がドンドン厳しくなる中、今後、クルマが生き残っていくには「電気自動車しかないのでは?」という意見までささやかれる今日この頃。「いや、ガソリンエンジンでもまだまだいける!」と、クルマの内燃機関を生み、育てててきたメルセデス・ベンツが、今回、世に問うたのがISGとM256ユニットなのです。

■ターボとスーパーチャージャーをダブルで搭載

M256型エンジンとは、メルセデス・ベンツが新たに開発した3リッターの直列6気筒エンジン。日本に投入されるS450には、コレに電動スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせたユニットが搭載されます。

一方のISGは、エンジンスターターの役割を兼ねる電気モーターと、発電機の機能を併せ持つデバイス。コレを、M256エンジンとトランスミッションとの間に挟み込んでS450の発進を手助けし、減速時にはエネルギーを回収します。つまり、ハイブリッド化ですね。

新開発のエンジンの、低回転域、高回転域を、それぞれ異なる過給器でカバーし、さらに、パワーユニット全体をハイブリッド化する…。もう、手持ちの札をすべてブチ込んできた感がありますね!

もう少し詳しく見てみましょう。まずエンジンの素性ですが、3リッターの直6ということは、1気筒当たりの排気量は約500cc。これはワタシの経験則として、最も効率のいい排気量です。シリンダーの壁には、メルセデス・ベンツのスポーツ部門“AMG”由来のコーティング(スチールカーボン材の容射コーティングなど)が施され、摩擦の低減が図られます。ボア×ストロークは83×92mm。同じく3リッターの排気量を持つV6エンジンと比較すると、ロングストローク化=つまりトルクを重視し、実用上、あまり回さなくても済むタイプとなりました。エンジンを高回転まで回すと、燃費が悪化しがちですからね。

かつて、ラリーマシンの最終兵器(!?)と見なされていた過給器の2種併用ですが、21世紀の今は、もちろん燃費向上(=CO2排出量の低減)のために採用されます。ガソリンエンジンが本来の力を出しにくい低回転域では、電動スーパーチャージャーが吸気を補助し、排気圧が上がってターボチャージャーがしっかり作動する領域になると、こちらにバトンタッチするのです。

こうしたエンジン単体のアウトプット平準化に加え、M256ユニットとペアを組むISGが、さらにシステム全体の効率化を下支えします。

ISGシステムは、おおまかに見ると、ホンダの“IMAシステム”と同系列のパラレル型ハイブリッドシステムです。直6エンジンと9ATに挟まれたISGがモーター/発電機として働き、リアシートとラゲッジスペースの間に置かれたリチウムイオンバッテリーとの間で電気のやりとりをします。

特徴的なのは、永久磁石を使う薄型モーターの最大トルクが、25.5kg-mと強力なこと(最高出力は21.5馬力)。IMAシステムがデビューした頃は「1気筒分をモーターが担当する」といった説明をよく聞きましたが、ISGの場合、いわば2.5リッターエンジン級のトルクをモーターが供給するわけです。モーターだけの駆動が可能なトヨタ「プリウス」ですら21.1kg-mですから、モーター単体でクルマを動かすことがない、S450に使われるモーターのトルクの太さは印象的。ISGシステムは、メルセデス・ベンツのフラッグシップセダンを骨太に後押しするのです。

ISGは、電気モーターとして動力を補強し、減速時には回生ブレーキによる発電を行ってエネルギーを回収するほか、アイドリングストップからの再始動時には、スターターとして働きます。面白いのは、発進時のサポートのみならず、アイドリング時にもエンジンの回転を手助けすること。その結果、アイドル回転数を520回転に抑えることができました。わずかな燃料消費をも減らしたいという、エンジニアの方々の執念が感じられます。

また、エアコン、ウォーターポンプなども電動化されたため、各種補機類のベルト駆動が廃止され、エンジンのコンパクト化に貢献しています。開発当初からISGが組み込まれた恩恵ですね。電気システムは、新たに採用された48Vと、これまでの12Vが併用されます。

説明の順序が逆になってしまいましたが、メルセデス・ベンツのエンジンとして、ほぼ10年ぶりに直列6気筒エンジンが復活してきた理由として、生産システムの改善が挙げられます。実は、新しいストレート6は、直列4気筒エンジンと同じラインで生産されるのです。

さらに、4気筒と6気筒はモジュラー化され、開発と生産コストが圧縮されました。新たな生産設備が必要ないのであれば、ヘッドメカニズムが左右にふたつ必要となるV型エンジンよりも、直列エンジンの方が作りやすい、と判断されたのでしょう。

ところで、V6エンジンと比較して、全長が長くなる直列6気筒エンジンでは、衝突安全性が気になります。そもそも、世のニューモデルから一斉にストレート6が姿を消したのは、この衝突安全性の確保が難しかったから。こうした不安に「エンジンがコンパクト化し、クルマのサイズが拡大したので、問題ない」と、メルセデス・ベンツは応えます。

新しいS450のボディサイズは、全長5125mm、全幅1899mm、全高1493mm。これは1990年代に「あまりに巨大だ」と批判された3世代目のSクラス(W140型)をすっぽりカバーできる大きさです。大きく、重く、贅沢なクルマを、これまでどおり、しかし環境に優しく走らせなければならない…。エンジニアの方々の苦労が偲ばれると同時に、この矛盾がまた“クルマという存在の面白さ”であり、ある意味、技術進歩の原動力でもあるわけです。

■ベンツはPHEV以外はハイブリッドと呼ばない!?

早速、S450に試乗してみると、M256エンジン+ISG、それに、9速AT(!)を組み合わせたパワーパックの高い完成度に舌を巻きます。モーターの加勢、過給器の引き継ぎ、はたまた、回生ブレーキの作動など、いずれもスムーズ至極。いささか感覚の鈍いドライバー(←ワタシのことです)には“ひとつの大排気量エンジン”としか思えません。

実はこの日「S560 4マチック ロング」とS450を比較試乗することができました。前者は、4リッターのV8ツインターボ(469馬力/84.6kg-m)、後者は新型ストレート6(367馬力/51.0kg-m<いずれも欧州参考値。ISGのアウトプットを含まない>)を積みます。

S560 4マチック ロング

S560 4マチック ロング

もちろん、クルマのキャラクターは若干異なりますが、普通に街中、高速道路をドライブする限り、走りの力強さ、パワーユニットの滑らかさでは甲乙つけがたい。M256エンジン+ISGの、シームレスな作動も驚きでしたが、その絶対的な動力性能にもビックリ!

テストコースでアクセルをベタ踏みし、フラットアウトで全力加速を試みると、軽くホイールスピンを披露して、血の気が引くようなすさまじい加速が始まります。新しいS450は、静止状態から100km/hまで、わずか5.6秒で加速していくのです!!

いうまもでなく、S450はドライブモードを備え、デフォルトで「コンフォート」が設定されます。コンフォートといえども、十二分に速い。強大なアウトプットを持て余さないためか、「エコ」とコンフォートとでは、懐かしの(!?)2速発進が採用されています。

試しに、1速発進となる「スポーツ」モードで運転してみると、エンジンの出力特性やシフトタイミングがスポーティに変更され、時に暴力的なまでの活発さが弾けます。正直、5分も経たないうちに「おなかいっぱい」。見かけも装備もダンナ仕様ながら、実は底知れぬパワーを秘めている。そんなSクラスの伝統を、新型S450もしっかりと受け継いでおりました。

もちろん、本業たる(!?)エコ走行も得意で、通常はアクセルペダルに軽く足を載せているだけで、十分な動力性能が提供されます。多段ATの恩恵もあって、アッという間にギヤがバトンタッチされ、街中でエンジン回転数が2000回転を超えることは、まれ。100km/h巡航時のエンジン回転数は、ほんの1250回転前後で、新型ストレート6は粛々と仕事を続けます。エコモードでは、条件に応じて燃料の噴射を止める機能も備わります。気になる燃費は、参考値ながら、12.5km/L(JC08モード)と発表されています(従来のV6モデルは、10.5km/Lです)。

ところで、これまで一般的な呼び方に従って、M256エンジン+ISGの組み合わせを“ハイブリッド”と記述していましたが、メルセデス・ベンツでは、外から給電する機能を持つPHEV(プラグイン・ハイブリッド)タイプのみを、ハイブリッドと称する決まりになっているのだとか。

そんな中、メルセデス・ベンツ日本のスタッフの人から、ちょっと面白い話を聞きました。「日本市場では、ハイブリッドのバッヂが付いていないと、売りにくいのでは?」との質問に「そうでもない」とのお答え。相対的に庶民派モデルの「Aクラス」や「Bクラス」でも、お客さまから「ハイブリッドはないのか?」と尋ねられることはほとんどないそうです。

むしろ「Sクラスの販売現場では、そう聞かれることがある」とのこと。いうまでもなく、カンパニーカー需要ですね。企業イメージを考えると、使用するクルマに、ハイブリッドのバッヂが欲しい。Sクラスの立ち位置が感じられるエピソードです。

メルセデス・ベンツが安易にハイブリッドと付けたがらない理由として、トヨタのそれとの差別化があると思います。昔のことをほじくりかえすと、初代プリウスが登場した際、メルセデス・ベンツを始めとする欧州車メーカーは、どこか冷笑的でしたからね。高速移動が多い彼の国々の人々にとって、高速巡航時には荷物にしかならないシステムを採用するのは、実情に合わないと考えたのでしょう。

当時は、水素を使った燃料電池車が、今にも実用化しそうな世相でした。プリウスと前後するようにデビューした初代Aクラスの二重フロアは、「水素タンクを収納するため」とウワサされたほどです。また、ディーゼルエンジンの進歩も劇的で、次世代パワーユニットが普及するまでの“つなぎ”として、確実視されていました。

あれから約20年。パワーソースの革新はなかなか進まず、今やクルマの存在そのものが岐路に立っています。そのため、業界の盟主たるメルセデス・ベンツは、電気自動車、PHEV、燃料電池車、ディーゼル車、そしてガソリンエンジン車と、全方位的な取り組みを進めおり、新しいS450も、そうした努力の一環なのです。無責任な外野としては、従来型エンジンのメカニズムを突き詰めた“複雑怪奇なパワーユニット”にして、「そもそもの開発のベクトルが合っているのか?」と一抹の不安を感じないでもありませんが、そうした“やりすぎ感”もまた、いかにもドイツ車ブランドの“作品”らしい。フラッグシップモデルに使われるのにふさわしい、渾身のパワーユニットです。

価格は、S450が1147万円から。19インチホイールを履き、上質なナッパレザー内装、13スピーカーのオーディオシステムなど、さらなる豪華装備が追加されたたS450エクスクルーシブが1363万円から。ボディを130mm延長したS450ロングが1473万円からとなります。

<SPECIFICATION>
☆S450(欧州仕様参考値)
ボディサイズ:L5125×W1899×H1493mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2999cc 直列6気筒 DOHC ターボ+電動スーパーチャージャー
トランスミッション:9AT
最高出力:367馬力/5500〜6100回転
最大トルク:51.0kg-m/1600〜4000回転
価格:1147万円

(文&写真/ダン・アオキ)

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