【SLC試乗】ベンツの最新コンパクトオープンカーには、古き良き時代の走りが健在
&GP / 2016年10月15日 8時0分
【SLC試乗】ベンツの最新コンパクトオープンカーには、古き良き時代の走りが健在
メルセデス・ベンツの新しい「SLC」に乗って来ました。
手頃な大きさ、扱いやすい動力性能、そして、ドライブフィールに“ちょっと前のメルセデスらしさ”があって、ステアリングホイールを握りながら、なんだか懐かしくなりました。
詳細は後述するとして、まずは新型SLCの概要をご紹介しましょう。
■電動ハードトップは40km/h程度まで操作可能
SLCは、これまで「SLK」と呼ばれていたコンパクト2シーターオープンの後継モデル。SLKの“K”とはドイツ語の“短い(Kurz)”から採られたもので、メルセデス・ベンツが手掛ける2シーターオープンの旗艦モデル「SL」に対し、小さくて短いことからSLKと名付けられました。
それが「モデルのヒエラルヒーをはっきりさせよう!」という最近のメルセデスの方針に従って、“K”改め“C”となったわけです。昨今流行のSUV系は、すでに小さい方から「GLA」→「GLC」→「GLE」→「GLS」となっていますが、先々この2座オープンのカテゴリーも、SLが「SLS」になったり、「SLE」が登場したりするんでしょうか?
新生SLCは、SLKとしては最終型となった3世代目のフロントフェイスを最近のメルセデス顔へとお化粧直しし、エンジンを新世代の環境対応ユニットに換装したモデル、といえます。
グレードは、1.6リッターの直4ターボ(156馬力/25.5kg-m)を搭載する「SLC180」(530万円)、同「SLC180スポーツ」(590万円)、2リッター直4ターボ(184馬力/30.6kg-m)の「SLC200スポーツ」(685万円)、そして、3リッターV6ツインターボ(367馬力/53.0kg-m)を載せたメルセデスAMG「SLC43」(970万円)で構成されます。SLK時代の2リッターモデルに換わって1.6リッター車が登場し、新型の2リッター車は、一段上の価格帯になりました。
今回ドライブしたのは、SLC180スポーツ。ノーマルの180と比較すると、AMGルックの前後バンパーを備え、ホイールは18インチになっています。ドットの海に翼を伸ばしたスリーポインテッドスターが浮かぶ“ダイヤモンドグリル”も“スポーツ”の特徴となります。少々クラシカルかつエレガントな印象で、兄貴分のSLと雰囲気がよく似てる。これまた、モデル間のイメージを統一する、最近のメルセデスのトレンドに乗った変更です。
ホイールベースは、先代SLKと同寸の2430mm。ボディサイズは、全長4145×全幅1845×全高1295mmと、こちらもSLKとほとんど変わりません。
インテリアは、ブラックとシルバーを基調にした定番カラーでまとめられ、レザー内装が標準となります。横方向に余裕がある室内で、ゆったりドライブできます。
気になったのは、身長165cm、足短めの自分の場合、シート位置を一番前にしても、床から生えるスロットルペダルの付け根にかかとが届かなかったこと。アクセルは普通に操作できますし、ブレーキもしっかり踏めるので、実用上の問題はないのですが、なんだか落ち着かない気分です。SLCは小柄な女性が乗ることも多いだろう車種ですから、ココは要改善ですね。ちなみに、大きなSLでは同様の問題はありませんでした。不思議。
新しいSLCでは、バリオルーフこと電動ハードトップの開閉を、停車時に操作を始めれば、40km/h程度まで動作を継続できます。屋根を開け閉めする途中で青信号になっても、後続車に迷惑かけることなく、スムーズに発進できるわけです。
SLCは、オープンにすると(当然ながら)、ルーフ部分がトランクに収納されます。たまたまSLCの前にSLの試乗をしていたので、つい比べてしまうのですが、SLではトランクリッドを開けると、自動で収納されたルーフ部分が跳ね上がり、荷物の出し入れを容易にしてくれます。これは便利! 車両価格が半分程度のSLCに同じ機構を要求するのは酷かもしれませんが、同車は他人の視線を意識したプロムナードカーの要素も強いモデルですから、ぜひ採用して欲しいところです。
■9速ATがスポーティな走りを演出する
さて、新しいSLCに用いられる1.6リッターターボは、最新の直噴エンジン。156馬力の最高出力と、25.5kg-mの最大トルクを発生します。2リッターモデル(184馬力/30.6kg-m)と比較すると、JC08モードでの燃費は、1.6リッターが14.9k/L、2リッターが14.2km/L…。アレ!? あんまり変わらない? でもまあ、今のご時世、少しでも小さいエンジンを積んでいた方が、むしろカッコいいかもしれません…。
SLC180スポーツの車重は、200スポーツより20kg軽い1520kg。相対的な動力性能では2リッターのそれに及びませんが、絶対的には、1.6リッターターボで不足はありません。ルーフの開閉にかかわらず、ボディの剛性感は高く、薄いタイヤ(前40扁平/後35扁平)を巻く18インチの足まわりにも関わらず、穏やかな乗り心地です。冒頭にも書きましたが、走り出しの“ちょっと腰が重い感じ”が、少し前のメルセデスらしくて、個人的にはうれしく思いました。
ことあるごとに“アジリティ(機敏さ)”を強調する最近のメルセデス車に、少しばかりせわしなさを感じている方は、SLCを試してみてはいかがでしょう? 良くも悪くもモデルライフが長くなるオープン2シーターならではの利点を享受できるかもしれません。
全体に大人っぽいドライブフィールのSLCですが、走行モードを変える“ダイナミックセレクト”を備えます。通常の「コンフォート」から、「スポーツ」に変更すると、エンジン、トランスミッション、足まわり、そしてステアリングフィールが、グッとアグレッシブに!
1.6リッターモデルには、モードによって排気音を変える“スポーツエグゾーストシステム”は備わりませんが、9速という多段ATがすかさずギヤを落とすので、結果的にエグゾーストノートが高まって、スポーティに演出してくれます。
余談ですが、SLCのカタログにあるスポーツエグゾーストシステムの説明には「スポーツカーを彷彿とさせるようなサウンドを奏でます」とあります。ん? SLCはスポーツカーではないんかい!?
SLCのオリジン、1996年に登場したSLKは、何はともあれ、折り畳み式の電動ハードトップを現代に甦らせたモデルとして、特記されることでしょう。その後、猫も杓子も(!?)同様のルーフシステムを採用したことを鑑みると、希代のトレンドセッターだったんですね。
SLKは、大きく見ればユーノス「ロードスター」フォロワーの1台ですが、後に、NC型こと3世代目ロードスターがリトラクタブルハードトップを採用しています。狙っている顧客層がまるで違うオープンモデルの2車ですが、いい意味で影響し合っている印象があって、クルマ好きとしてはうれしい限り。
細かいハナシになりますが、SLCではオープン時の室内への風の巻き込みを低減させるため、とある工夫をしています。ヘッドレスト後ろのロールバーに透明なアクリル板を取り付け、風を遮っているのです。不要な時には半回転させ、ロールバー背面に収納する仕組み。こうしたドラフトストップの装備も、マツダが先鞭を付けた記憶があります。
マツダのロードスターが美麗なND型になり、一方、SLKは新しい顔とエンジンを得て、SLCとなりました。実用性から一歩離れた2座オープンは、いわば自動車業界の“華”。ですから、ブランド、価格帯を問わず、ニューモデルの登場はめでたい! メルセデス・ベンツSLCに、幸アレと願うのです。
<SPECIFICATIONS>
☆180スポーツ
ボディサイズ:L4145×W1850×H1295mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:1595cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:9AT
最高出力:156馬力/5300回転
最大トルク:25.5kg-m/1250〜4000回転
価格:590万円
(文&写真/ダン・アオキ)
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