自動変速はサーキットでも楽しい!ヤマハの看板車種「MT-09」の3モデルを比較試乗
&GP / 2024年9月8日 7時0分
自動変速はサーキットでも楽しい!ヤマハの看板車種「MT-09」の3モデルを比較試乗
今やヤマハの中核を担う車種となっているのが、3気筒エンジンを搭載した「MT-09」です。ストリートファイター的なアグレッシブな外観と、その見た目に違わない強烈な加速が持ち味。2021年にエンジンからフレームまでを一新するフルモデルチェンジをしましたが、今年に入っても外観やライディングポジションを見直す改良が施されています。
こうした、ネイキッドマシンとしてはかなりの短期間でブラッシュアップが繰り返されていることからも、ヤマハがこのマシンに力を入れていることが感じられるでしょう。
そして、このほど自動変速にも対応した電子制御シフト機構を搭載した「MT-09 Y-AMT」も追加に。
こうした革新的な機構の搭載マシンとして選ばれることからも、「MT-09」が同ブランドの看板モデルに位置付けられていることが伝わってきます。
スタンダードモデルと、足回りをグレードアップした「MT-09 SP」、そして自動変速を搭載した「MT-09 Y-AMT」を乗り比べる機会があったので、この3モデルの比較から「MT-09」の魅力を紐解いてみます。
■ライディングポジションの刷新で魅力が増大
新型の「MT-09」はフロントフェイスを一新し、歴代モデルの中でも個性的なルックスとなっています。
ストリートファイター系のマシンは、年々アグレッシブなデザインになっている印象ですが、その中でも埋もれることのないインパクト。好みは分かれる部分ではあるものの、乗っているうちに走りの楽しさでルックスも好みに思えてくるのも歴代「MT-09」の特徴だと思います。
▲左が新型、右が従来型のタンク
手を入れられたのはライディングポジションと足回りという、比較的地味なモデルチェンジではありますが、実はそのためにタンクの製造方法まで見直されているという力の入れよう。これによってタンク容量を確保しながら、ハンドルの切れ角を片側4度ずつ増やし、高さを抑えて前傾姿勢が取りやすくなりました。
ハンドル高を約3.4cm低くしたことによって、ライディングポジションはスポーツネイキッドらしいやや前傾した姿勢が可能に。ステップ位置が約3cm後方かつ1cm上方に移動させられ、いわゆるバックステップ的なポジションになったことで車体との一体感が増しました。
このライディングポジション変更の効果は大きく、特有の過激な加速をより積極的に味わえるようになっています。コーナリング中の一体感も向上し、足回りを引き締められたことで、より“攻めた”走りが可能に。サーキットやワインディングはもちろん、街中でもその恩恵は感じられます。クイックに曲がって、強大なパワーで素早く立ち上がるというメリハリの効いた走りをどこでも味わえることが、このマシンの最大の魅力でしょう。歴代「MT-09」に乗ってきたライダーでも、現行型に乗ればこれこそが完成形であると感じられるはずです。
■スポーツライディングが楽しめる自動変速
多くの人が気になるのは、新たに自動変速機構を搭載した「MT-09 Y-AMT」でしょう。スポーツライディングを楽しむための変速機構だという触れ込みですが、実際に乗ってみると確かにその通りだと思える完成度です。
▲ハンドル左手側に設置されたレバー
「Y-AMT」と呼ばれるこのシステムは、クラッチレバーや足元のシフトレバーがなく、AT限定の二輪免許でもライディングできます。自動で変速してくれるモードのほか、左の手元に設けられたレバーで、任意のタイミングで変速できるモードも搭載されています。
試乗はサーキットで行いましたが、クラッチ操作がなく、アクセルとブレーキや車体をバンクさせる操作に集中できるのは新鮮。自動変速といっても、スクーターのようなCVTとは違い、明確なシフトチェンジの感覚を伴って加速していくフィーリングは明らかにスポーツバイクのそれです。シフトのタイミングもスポーティで、特に「D+」と呼ばれるモードでは、かなり高回転まで引っ張ってくれるので、サーキットでも不満を感じることはありません。
AT免許で乗れるというと「それは楽しいのか?」と疑問を抱く人もいることでしょうが、エンジンの美味しいところをしっかり使ってくれるシフトプログラムのおかげで、サーキット走行を満喫できました。クラッチやシフトの操作から解放されたことで、サスペンションの動きや荷重移動に集中できる感覚は、ほかのマシンでは味わえないもの。無意識で行っていたつもりの変速操作に、意外と脳のリソースを使っていたことが感じられたのも貴重な体験でした。タイムは測っていませんが、意外と自動変速モードで走っているときが一番速かったのでは? と思えるほどです。
サーキットの後、パイロンで仕切られた低速のスラロームコースも走ってみましたが、こちらでは「Y-AMT」の効果をより体感することができました。Uターンや低速のスラロームでは、途中でエンストするのが一番怖いので、半クラッチ操作に気を使いますが、「Y-AMT」ではその気遣いが皆無で済みます。グリップを探りつつ車体を寝かしたり、ハンドルをより深く切れさせることに集中できるので、不安なくスラローム走行を楽しめました。
今回は体験していませんが、信号待ちからの発進や、渋滞の中ではそのメリットがより感じられるはずで、長距離ツーリングや峠に行くまでの移動セクションが長い場合には、その恩恵をより感じられることでしょう。
■サーキットで性能の光るSP仕様
最後に乗ったのは「MT-09 SP」。DLCコーティングを施したKYB製のフルアジャスタブルのフロントフォークと、専用開発のオーリンズ製リアサスペンション、それにブレンボ製のブレーキキャリパーなどを装備した最上級仕様です。
結論から書いてしまうと、サーキット走行ではこの「SP」が一番楽しいと感じました。前後のサスペンションは固められただけでなく、作動性も素晴らしいのでしっかりと路面を捉え、荷重の変化なども明確にライダーに伝えてくれます。ブレーキも、指で直接ブレーキディスクをコントロールしているようなフィーリングなので、コーナー進入でフロントタイヤの面圧まで制御できるような気になってきます。
クイックシフターの完成度も高いのでシフトフィーリングも良好で、サーキット走行ではピットからスタートするとき以外、クラッチレバーには触れることなく走れたことも好印象の理由でしょう。このままずっと走っていたいと思えるほどの楽しさでした。
* * *
さて、3モデルの価格ですが、スタンダードの「MT-09」が125万4000円。「MT-09 Y-AMT」が136万4000円。「MT-09 SP」が144万1000円。決して気軽に出せる金額ではないことは確かですが、同じくらい走りの楽しめる輸入車などを思い浮かべると、どれもバーゲンプライスに感じられるほどの性能と楽しさを持っています。
どれを買うか? と問われると、やはり「SP」が一番魅力的なのですが、公道を走るシーンを思い浮かべると「Y-AMT」もかなり魅力的です(スタンダードに乗った際は「これで十分楽しい。一番コスパが高い」と思ったのですが…)。無理を承知で言えば、「SP」の車体をベースに「Y-AMT」を組み込んで、シフトは足で行う仕様に。空いた左手側にリアブレーキのレバーを持ってきたいというのが個人的な願望です。そんな妄想が膨らんでしまうほど、魅力的なマシンでした。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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