【日本人が知らないニッポン】掛川城が豊臣政権の「アキレス腱」だった理由
GOTRIP! / 2016年11月29日 4時0分
太平の世を作り上げた江戸幕府の創始者である徳川家康は、天下を治める以前に、豊臣政権時代に「関東移封」というものを経験しています。
それは北条氏を駆逐した関東に、家康を封じ込めるというもの。
もちろん豊臣秀吉は家康に面と向かって「お前を関東に押し込める」とは言っていません。「関東のほうが広いから、そこで悠々自適にやれ」とでも言ったはずです。
ですが当時の関八州は伊達、上杉といった強豪と秀吉の若い頃からの戦友に事実上包囲され、家康はじっと身構える羽目になりました。
・家康包囲網
東海道の一拠点である掛川城。ここは秀吉の直臣である山内一豊が城主を務めていた時期がありました。もし関東移封後の家康が大坂に攻め込むとしたら、まずは東海道の諸大名を討伐しなければなりません。
駿府城の中村一氏、掛川城の山内一豊、浜松城の堀尾吉晴。いずれも秀吉の長年の戦友です。家康からして見れば、直線距離で70kmもないエリアに3人の猛者が控えているわけです。
では、東海道を諦めて中山道を通るか。道半ばには、あの真田昌幸がいます。どちらを選ぶにも、険しい道が待っているのです。
今回ご紹介する掛川城は、「豊臣VS徳川」のキーパーツとも言える拠点。
ここに山内一豊という男がいたという事実は、日本史を動かす軸となりました。
・「秀吉信者」が命綱
一豊は、平たく言えば「織田家配下の秀吉派」です。
今でもそうですが、人は出自の卑しい他人を差別します。それが自分を脅かすほどの才能の持ち主なら、なおさらです。人というのは嫉妬を材料に行動する動物かもしれません。
木下藤吉郎秀吉という「貧農の猿」に対しては、当然ながら織田家中で大きな反発もありました。
その筆頭が柴田勝家です。「なんで俺があんな猿に頭を下げなければならないんだ」と思っていたからこそ、彼は最後まで秀吉と戦って死ぬことを選びました。
逆に、「俺は秀吉には勝てない」と早い段階で腹を決めていたのが前田利家や山内一豊です。彼らは言わば、秀吉のカリスマ性の信者でもあります。だから秀吉がいるうちは、絶対に豊臣家を裏切りません。
山内一豊は、秀吉の命令通り掛川城を拡張します。この時整備された石垣や天守閣は、関東の徳川家康に対抗するためだけのもの。ですが、世の中は一筋縄では行きません。
・戦友たちの寝返り
今ある掛川城の天守閣は、日本初の木造再建天守としても有名です。
そのため、掛川城には「木の味わい」があります。決して大きくはありませんが、木造建築物というものはやはり独特の匂い、自然の温もりが伝わってきます。その上、木には経年変化というものがあり、時間が経てば経つほど風格が増していきます。
さて、先述の通りこの城は「対家康用」に整備された拠点。ですが問題は、城主の山内一豊はあくまでも「秀吉の戦友」に過ぎないという点です。
豊臣政権は、跡継ぎの男子に恵まれたとは言えません。
しかも彼自身、譜代の家臣などひとりもいない貧農出身です。カリスマ性に満ちていた秀吉がこの世を去ると、東海道の戦友たちは豊臣政権に操を立てる理由がなくなります。
だからこそ、露骨に野望を剥き出しにする徳川家康に山内一豊は「掛川城を徳川に差し出す」と言い放ったのでした。有名な小山評定におけるこの発言のインパクトは、諸大名にとっては非常に強大なものだったはずです。
・秀吉は「家族」が少なかった
こうして見ると、掛川城は「豊臣滅亡の原因」をはっきりと炙り出しています。
極端な話、秀吉に男兄弟がもうひとりいたとして、そこからさらに秀吉の甥っ子が何人か誕生していたら歴史は変わっていたはずです。
豊臣政権は、常に「血縁者の少なさ」に悩まされていました。逆にそういうことがなければ、駿府・掛川・浜松の3拠点は親戚縁者に任せてしまう。秀吉が死んでも絶対に豊臣を裏切らない勢力を、今の静岡県に作らなければなりません。
日本の戦国史を研究する上で、東海道探索はまさに「避けて通れない道」と言えるでしょう。
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