50代の転機 受験生の息子に作った朝食がきっかけ…スープ作家・有賀薫さん「主婦スキルが役立った」
HALMEK up / 2025年2月3日 21時15分
50代から新しい一歩を踏み出して、第二の人生を歩み始めた人たちを追う「わたしリスタート」。40代まで家事と子育て優先。50代、料理家修行ゼロで「スープ作家」というスタイルにライフシフトした有賀薫さん。自分を表現する仕事の作り方とは?
有賀薫さんのリスタート・ストーリー
おもちゃ会社勤務を経て、結婚後は子育てや家庭と仕事の両立のため、フリーライターに。さまざま媒体で執筆するかたわら、2011年から受験生の息子のために、朝食にスープを作り始めた有賀薫さん。
SNSに投稿をはじめ、2013年、毎朝作り続けた365日分のスープ写真を展示した『スープ・カレンダー展』を開き、話題に。50歳で「スープ作家」としての活動が始まった。
スープを作り続けて10年、その日数は3500日以上。素材を生かしたシンプルレシピはSNSでも人気を集め、料理レシピ本大賞料理部門で入賞した『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社刊)をはじめ、たくさんの料理本を出版。
最新刊「おうちごはんは日々のくりかえし。」(KADOKAWA刊)ではスープ以外のレシピ本にも挑戦した。
主婦の仕事を軸足に自分の色を消していたライター業から、自分らしい表現と生き方で活躍の場を広げ続けている。
朝、受験生の息子を起こした「1杯のスープ」
ファーストスープは、マッシュルームのスープ(有賀さんのインスタグラム@arigakaoruより)
――今の仕事につながる、最初のきっかけは?
息子の朝食のために始めた、スープづくりです。
当時、息子は高校3年生で受験勉強、真っただ中。でも、朝が苦手でなかなか起きられないのが、悩みのタネだったんですね。
クリスマスの翌朝、前の晩に使い残していたマッシュルームがあったので、それでスープを作ってみたら、とってもおいしくできて。息子に「食べる?」と聞いたら、ムクっと起きてきたんです。「これぞ、スープマジック!」と驚いて、以来、毎朝作るようになりました。と同時に、SNSでスープの写真を投稿し始めました。
受験の日までは作り続けようと思っていたら、なんと浪人することになり(笑)、その後もしばらく続けることにしたんです。そのうちに、SNSの発信を楽しみに見てくれている人が増えていって、「スープ作りをしている人」として認知されるようになりました。
50歳からは、自分を表現する仕事をしたい
――今までの経験で役立ったスキルはありますか?
これまでのライターの仕事。
仕事より子育てや家事に軸足を置いていたので、ライター業はあくまでも自分の能力や時間の範囲内で、と制限していたんです。自分の色は表に出さず、クライアントの意向を汲んで取り組んでいました。それでも、ライターとして20年以上、文章を書いてきた経験は力にも自信にもなりました。
39歳のときから絵画教室に通って本格的に学んできた絵を描くことも大きかった。そのときは何につながるかわからなかったけれど、今振り返るとやってきたことすべてが、写真の美しい撮り方や文章での伝え方……SNSや今の仕事に生きている気がします。
イベントや書籍にあるイラストも有賀さんが自身で手掛ける。ペンは「シグノ」のボールペンがお気に入り
――「チャレンジするなら今だ」と思ったタイミングは?
私自身、「チャレンジしている」という感覚はまったくなくて。やりたいことにちょっとずつ足を踏み入れてみたら、ずぶずぶと深みにはまっていった感じなんですよね(笑)
1年間365日、スープを作り続けてSNSに投稿しているうちに写真が溜まったので、展覧会『スープ・カレンダー展』を開催しました。すると、300人もの人が来場してくれて。やる気がわいてきて、友人から「スープ作家」と名乗ったら?というアドバイスもあり、名刺を作って名乗り始めました。
ただ、料理の仕事は、下積みが必要なイメージが強かったので、50歳になった自分が今から目指すのは正直、無理だろうなと……。
それで、 これまでライターの経験も生かし「自分のレシピ本を1冊だけでも作ろう!」と目標を決めました。
――チャレンジする中で大変だったことは?
出版社に企画を持ち込んでも、無名のライターの、しかも料理のプロでもない主婦のレシピ本を出してくれる出版社はありませんでした。
そこで次の一手として取り組み始めたのが、スープの実験室「スープ・ラボ」でした。とにかくスープについて詳しくなろうと、食材を何種類も買って味見したり、いろんなレシピを調べて再現したり。勉強会という形で、毎月参加者を招いて説明することで、自分に足りない専門知識も身に付けようと思ったのです。
ただ、自主開催でのイベントは、想像以上に金銭的な負担が……。イベント開催のための場所を貸してくださる方がいて実現したものの、毎回採算がとれず経費はほぼ持ち出し。しかも慣れない車を運転しながら、都内の会場まで毎回食材や調理器具を運ぶのも体力的にきついものがありました。
自分の勉強のためとはいえ、この活動がどこにどうつながるのかわからない。ライターの仕事を続けながら、先が見えない中で取り組んでいたこの時期が、一番つらかったかもしれません。
「スープ作家」として発信を続け、一歩ずつ前へ
『スープ・レッスン』の表紙になったキャベツとベーコンのスープは、焦がしてしまったキャベツを生かそうと工夫して生まれたそう
――大変でも、チャレンジし続けられたの理由は?
「スープ・ラボ」に来てくれた人たちが喜んでくれるのを見ていると、すぐ苦労を忘れて、ワクワクしてしまって。あと、スープ作家としての活動に周囲の人を巻き込んでしまったので、後に引けなくなってしまったのも正直なところです(笑)
今振り返ると、家族や友人が協力してくれて、とても恵まれた環境だったと思いますが、それでも仕事と家事を両立させることは本当に難しかった。主婦として、家のことがうまくできない自分にもどかしさを感じたこともありましたが、「そもそも両立させるなんて無理なんだ」と、いい意味で諦めたら、気持ちがラクになりました。
2016年、念願だった料理本を出版。その後もたくさんの料理本を出版することができました。
――SNSを上手に活用する秘訣は?
SNSで心掛けているのは、媒体によって発信内容を変えること。
料理についての考え方を発信するときは「X(旧Twitter)」、スープの写真を見せるときは「インスタグラム」、仕事関連の発信をするときはリアルな知り合いが多い「Facebook」というように、使い分けています。
2014年にはローンチと同時にnoteも使い始め、レシピなどを展開しています。
それぞれの特性に合わせた発信をしていくと、自分の意向に合った人とつながりやすくなると思います。
そして、誰かのことを悪く言ったり、自分の考えを押し付けたりしないこと。”対立軸をつくらない”表現は常に心掛けています。
――自信をなくしたときや、スランプから抜け出したいときの特効薬は?
特効薬は、ないですね。
本当につらいときって、そもそも何かをやる気力も湧かないもの。そこで慌てていろんなことに手を出すとドツボにハマってしまうので、日常生活の最低限のことだけをやって、嵐が過ぎ去るのをじーっと待ちます。そうするうちに、自然と晴れ間が見えてきて、やる気がちょっとずつ湧いてきます。
梅仕事も季節の食材をいただくことも、気分転換に
――あなたの座右の銘は?
「中庸であれ!」です。
中庸とは、「どちらか一方に偏らずに調和をとること」という意味。これは、子どもの頃に母から教わった言葉で、いつの間にか、私自身の心にも浸透しています。「心を大きくぶらさずに、中心でいること」はとても難しいんですけど、なるべくいろんなものを見聞きして、取り入れた上で、「バランス」をとっていきたい。「真ん中でいること」が、私にとっては心地いいみたいです。
――自分の性格で自慢できるところは?
自分の好きなことをコツコツと続けられるところ、でしょうか!
主婦のプロだから、できることが必ずある
――チャレンジを成功させる秘訣とは?
具体的な目標を持つことです。
漠然とした理想を描くだけだと、実現させるのは難しいもの。私はとにかく「自分の本を1冊出す」と目標を立て、そのために必要な行動を考え、実行していきました。
念願叶い、1冊目を出版できたら、「2冊目を出す。そのためにも1冊目の本を重版させる」と、新たな目標を設定。一歩一歩が明確だと、行動もステップアップもしやすくなります。
――金銭面ではどんな変化がありましたか?
本の出版も重ね、「スープ作家・有賀薫」として仕事をいただけるようになり、そのご縁で次、次……と広がっていきました。
最初は自宅のキッチンで仕事をしていましたが、少し前から自宅の近くに場所を借りて、キッチンスタジオとして使い、撮影のときだけアシスタントさんをお願いすることも。
場所の維持費や人件費の負担は増えましたが、よりよい仕事をするためには必要だと思っています。
ルクルーゼのココット鍋が定番。鍋は使ってみて、と試していたら今では50個にもなった
――新しいチャレンジをして得た最大の教訓は?
自分にしかない“強み”を肯定していくこと。
私はほかの料理家さんのように、若いときからその道一筋でやってきたわけじゃありません。料理は好きだけれど、プロとしての実績はない、完全な素人です。その道を極めている人にかなわないのは目に見えていました。
でも、私には主婦として、30年やってきた実績と経験がある。仕事をしながら家事をする主婦の大変さも、日々の献立や冷蔵庫の余り物をどうしようと悩む主婦の気持ちも、手に取るようにわかります。「そこにこそ、私の強みがあるんだ」と肯定できたときから、自分の立ち位置や伝えたい軸が定まったように感じます。
――がんばった一日で、家でほっとできる、楽しみにしている時間は?
仕事終わりの1杯のビール。その日の仕事が片付いた18時ぐらいに、夕飯を作り始めながら、缶ビールをプシュ。頑張った自分へのごほうびタイムと、仕事から家事へとスイッチを切り替える、いい時間になっています。
――これからチャレンジしたいことは?
全国のスープを巡る旅。
スープを作り続けて10年。息子は独立し、夫も定年退職し、私は60代になった区切りで、2024年3月に毎朝のスープづくりを卒業しました。
60代からは家から飛び出して、新しい体験をしてみたい。それでYouTubeで各地への「スープ旅」の動画配信を始めました。次の目標はこの動画を、何か形としてまとめること。
最近は、海外に足を伸ばしたい気持ちもムクムクと。目下、行きたい国はポーランド。スープのおいしい国なんです。
有賀さんのYouTube番組「有賀薫のスープ旅」より。旅先でいろいろな食材、料理、人と出会い、スープを作っている
50代のリスタートに必要な3つの備え
チャレンジのために備えるというより、それまでの日常の積み重ねが、いざチャレンジするときの後押しになってくれるのではないかなと思います。
1. 「好き」を固めすぎないこと
趣味でも仕事でも、「好きなこと」は続けやすいし、突き詰めて新しい道を開きやすい。でも、自分の「好きなことだけ」「好きな人だけ」で固まると世界が狭まってしまいます。SNSなどを活用して、視野を広げると、新たな出会いやチャンスも広がる気がします。
2.家族との信頼関係を築くこと
どんなに仲の良い家族でも、お互いどこか我慢している部分があるもの。相手にも人生があることを忘れずに、リスペクトする。そして常日頃から相手の思いに耳を傾ける。家族との信頼関係を築いておくと、いざ新しい世界に踏み出したときに、前進しやすくなります。
3.自分の「向き・不向き」を知ること
リーダー気質、サポート上手、交渉が得意……あなたはどんなタイプですか?何か新しいことを始めるときは、自分の「向き・不向き」をよく知って、自分に合ったやり方やポジションを見つけることが大切。そのほうが、無理なく楽しく続けられます。
取材・文=伯耆原良子 写真=安部まゆみ 企画・構成=長倉志乃(HALMEK up編集部)
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