小学生の娘の“BB弾”から夫婦殺傷、控訴審は涙の謝罪で即日結審…「おまえか!どこに傷があるんだ!この野郎」などの“恫喝”主張も1審判決は懲役25年、玄関モニターに録画機能なく「反省なく、被告の証言は信用できない」
北海道放送 / 2024年4月25日 14時34分
おととし9月、北海道旭川市で、小学生の娘の“いたずら”から30代の夫婦を殺傷した罪に問われ、1審で求刑どおり懲役25年の判決受けた58歳の男の控訴審が始まりましたが、男が涙で、1審で一言もなかった謝罪の言葉をくり返し、即日結審しました。
起訴状などによりますと、旭川市の無職、川口和人被告58歳は、近くに住んでいた30代の夫婦、Aさん(夫)とBさん(妻)の小学生の娘が玩具の銃の弾=BB弾を被告宅に投げたことをめぐり、訪ねて来たAさんとBさんを折りたたみナイフで何度も突き刺し、Aさんを死亡させた殺人、Bさんに重傷を負わせた殺人未遂の罪に問われています。
去年11月14日から旭川地裁ですすめられてきた1審(裁判員裁判)では、被害者特定事項秘匿制度により、夫婦は匿名にされ、小学生の娘、妻のBさん、川口被告の隣人のXさんとYさん、さらに被告の精神状態などを鑑定した医師の証人尋問なども行われてきました。
検察は「残忍な犯行で、落ち度がない被害者の刺し傷は20か所にも及び、被告に反省の態度は一切、見受けられない」と厳しく指摘し、懲役25年を求刑。
一方、弁護側は「被害者の風貌などからくる恐怖感から、全て自己防衛的であり、正当防衛である。殺すつもりはなく、殺人も殺人未遂も成立しない」と反論。
被告も、検察からの100項目以上の質問について「取り調べで屈辱を味わい、精神が破たんして自殺を考えた」と全て黙秘した上で、Aさんから「いきなり大声で『おまえか!どこだ!どこに傷があるんだ!この野郎!』などと恫喝され、とにかく離れて欲しかった」と話し「胸に切りつけた後の記憶がない」などと主張していました。
検察と被害者側、被告と弁護側の主張、説明する事実関係が異なる中、迎えた12月1日の判決公判で、旭川地裁は「被告の証言は信用できない。犯行は残忍」として、求刑どおり懲役25年を言い渡しました。
ちなみに、被告宅の玄関モニターは、監視機能があるだけで、映像の録画機能がなく、被告の証言を裏づける証拠にはなっていませんでした。
■判決理由
・妻のBさん、小学生の娘、隣人Xさんの証言は一致しており、信用できる
・被告人の証言は信用できない
・人を死亡させる危険性の高い犯行で、殺意が認められる
・犯行時は急性ストレス障害が一定程度あったが、完全責任能力あり
・犯行中もAさん、Bさんを認識できていた
・子どもの“いたずら”があったとはいえ、常軌を逸した犯行
・真摯な反省は見られない
・犯行は残忍で、結果は重大
これに対し川口被告は、判決を不服として控訴、25日午後、札幌高裁で始まった控訴審で、弁護人からの質問に対し、涙を流しながら下記のように答えました。
Q.1審の判決は?
「非常に重いと感じています」
Q.判決文を読んで、違うところはどこだと?
「一番違うなと思いましたのは『全く反省の態度が現れていない』というところです」
Q.1審で、謝罪していないのはなぜ?
「1審では、全て弁護人の指示に従った。記憶のないところの犯罪は、一切、謝罪が必要ないと言われていた」
Q.違和感は?
「もちろん、感じておりました」
Q.家族とはどのように?
「母と姉も私が謝罪したいという話もしていたが、かないませんでした」
Q.一審の弁護士に「反省を言いたい」などと申し立てたことはある?
「確か、2~3回、申し出たことはあります」
Q、今現在、遺族への気持ちは?
「大切な命を奪ってしまいました。大きな傷をつけてしまった奥さん、お父さんを亡くしたお子さん、ご親族の方に心から申し訳ないことをした。謝罪をしたい気持ちでいっぱいです。申し訳ありません」
Q.(犯行時の)記憶はない?
「そのとおりです」
Q.本当に記憶ないのに、真摯に謝罪の気持ちがある?
「大切な人様の命を奪ってしまったと思ってる。心から申し訳ないと思っている。心から罪を償っていきたい」
さらに、検察からの質問に対しては、下記のように答えました。
Q.(50万円の)被害弁償金以外に手紙とかでの謝罪の申し入れはあった?
「直接の手紙、謝罪文はありません」 ※被害者は受け取らず
Q.弁護人に見せた手紙を、遺族に見せたい申し入れはしなかった?
「私は、しておりません」
Q.本当に謝罪の気持ちあるなら、まず謝罪での気持ちは表すのでは?
「そのとおりだと思います。言い訳かもしれませんが、刑事事件は初めてで、謝罪金というのも、常識がない人間かもしれませんが、直接、手紙を出せることも知りませんでした。申し訳ありません」
このように、1審では一言もなかった謝罪の言葉を川口被告がくり返し、控訴審は即日結審しました。判決は、5月28日に言い渡されます。
これまで検察と被害者側、被告と弁護側の主張、説明する事実関係は下記のようになっています。
■きっかけとなった小学生の娘の“いたずら”
<検察>
・Aさんの長女(当時11歳)は友人と下校中、被告宅前で玩具の銃の弾=BB弾を拾う
・直径わずか5~6ミリのプラスチック製
・カーポート奥の玄関前に投げつける
・被告はカーポートに設置した防犯カメラの映像を自室で見て、外に出る
・「おまえら、何やってるんだ」と2人を怒鳴りつける
・友人のカバンを蹴り、中の水筒を凹ませる
・2人に住所と名前をノートに書かせる
<上記以外の長女の証言>
・何度も「ごめんなさい、すみません」と謝った
・算数のノートをちぎられ、名前、電話番号、学校名、担任名まで書かされた
・ママに話すと、謝りに行くことになった
<被告>
・2人それぞれ3~4回、振り被って何かを拾って投げてきた
・砂利のところにいたので、石ではないかと思った
・「おまえら、何やってるんだ」と、普通よりは大きな声を出した
・2人は動かず、無言
・「人の家に物を投げちゃダメでしょ、どうして投げたの?」と問う
・どちらか1人が「ハエのような虫」と答える
・歩道の荷物の上をまたぐように歩くと、左足が当たった
・蹴ってはいない
・もう一度「どうして投げた?」と問うと「ハエのような虫」と答える
・その後、1人が「BB弾」と言って、掌に1つ持っていた
・学校に連絡するつもりで「学校と先生の名前を教えてくれる?」と言った
・手元に紙が無かったので、女の子のノートに書いてもらった
・そのノートを破ってもらい、私がもらった
・「正直に答えてくれたから、お父さんやお母さん、先生には言わないからね」と言った
■夫婦が被告宅を訪れ、最初にAさんが刺されるまでの状況
<検察>
・長女、生後7か月の次女も連れ、4人で被告宅へ
・Aさんがインターフォンを押すと、被告はナイフをポケットなどに隠して玄関へ
・Aさん「娘がBB弾を投げちゃったみたいで?」
・被告「石を投げられて、傷がついた」
・Aさん「石って、どの石ですか?傷は、どこについちゃいましたか?」
・被告「それは、わからないけど」
・Aさん「住所を書かせるほどのことなんですか?」
・騒ぎに気づいた隣人Xさんが2人に「やめましょう」と声かけ
・それでもAさんは収まらず「やりすぎだろう!」
・被告「なに、イキッてんの?やるか」
・Aさん「何をやるのよ」
・被告が右手に持ったナイフで、Aさんを切りつける
<被告>(質問したのは弁護人)
・陽が落ちて、防犯カメラに「変な動きの車」
・見覚えない男性が歩いてきて、怪しい感じ
・昼の子どもの件で、どちらかがヤクザかチンピラを雇ったのではと思った
・襲撃に来たと思い、護身用に棚の上のナイフを右ポケットに入れた
・(先に話したのは?)相手です
・いきなり大声で「おまえか!」と怒鳴られた
・(名乗られた?)何も言ってない
・もしかして、昼のことかなと少し思った
・ヤクザかチンピラの方かと思った
・相手の風貌がすごく怖くて、何を言ってるのかわからなかった
・玄関フードからカーポートに移動した
・(どんな感じでした?)「どこだ!どこなんだ!一体どこに傷があるんだ!」と捲し立てられた
・(どう返した?)何のことかわからないと、返した
・(そうするとAさんは?)「だから、どこなんだ、早く言え、この野郎」!と大声でくり返された
・(「イキんなよ」と言った?)意味がわからないので、知らない
・(2人で話している途中、誰が出て来た?)父が玄関ドアを開けて、顔を出した
・私は父に「大丈夫だから、中に入って」と言った
・「あれは、誰だ!」と聞かれて、私は「うちの親父だ」と返した
・くり返し「あれは、誰だ!」と言われ、殴られた後、父が被害を被るのではないかと思った
・(どういう心情だった?)とにかく離れて欲しかった、勘弁して欲しいの一心だった
・(どう行動した?)彼の胸にナイフを切りつけた
■さらに妻のBさんも刺し、逮捕されるまでの状況
<検察>
・Aさんは腕を上げて防御し、後退して逃げる
・隣人Xさんが被告をつかみ、止めようとする
・被告は追いかけて、背中などを何度も刺す
・妻のBさんが被告に体当たり
・被告は、体当たり後に座り込んだBさんの背中を刺す
・隣人Xさんが被告を後ろから羽交い絞め
・被告は「全員、ぶっ殺してやる」と叫びながら、なおもBさんを刺す
・被告はBさんから離れた後、自宅内へ
・隣人Yさんの通報で逮捕
・Aさんの傷は20か所以上
・Bさんの傷も10か所
・長女の目前での犯行で、残酷というほかない
<上記以外の長女の証言>
・パパと話をしているとき、被告はずっと右手を隠していた
・パパが「住所を書かせるのは、やりすぎではないか」と言ったところで被告が刺した
・被告はパパを追いかけて何度も刺し、パパが着ていた白いシャツが赤く染まった
・パパやママを襲うとき「みんな、殺してやる」と言っていた
<被告>
・当時は、軽く切ったと思った
・(なぜ胸を?)首とか心臓とか内臓とか危険だと思ったから
・(ナイフ出したのはいつ?)父が入って、恫喝止まらなかったから、その時
・(どういう気持ちで?)恫喝は止めて欲しい、とにかく離れて欲しかった
・パニック、精神的に追い詰められてきた
・(殺してしまう可能性は考えた?)そういうのについては考えてない
・胸に軽く当てただけ、とりあえず恫喝を止めて欲しかった
<弁護人>
・「全員、ぶっ殺してやる」などの被告の言葉を隣人Xさん、Yさんは聞いていない
■被告の精神状態を鑑定した医師
・精神障害、詐病なく、殺意を一貫して否認
・Aさんの風貌に強い恐怖感、恫喝され、強く逃げたい思い
・最初にナイフで突き刺した後、大部分の記憶がない
・急性ストレス反応(弁護側も主張)の可能性
・ふだん使わない被告の言葉「イキッてんの?」からも伺える
・善悪の判断能力は、急性ストレス反応で一定の障害あるが、著しく喪失はない
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