観念に遊ぶ「べにや 無何有」の極上ステイ—旅の終わりはふたたびの金沢【LEXUS×VOGUE JAPAN アメイジング エクスペリエンス in 金沢レポートその4】
IGNITE / 2014年11月14日 16時12分
【1】【2】【3】からのつづき
2夜目の宿の名前は『山代温泉べにや無何有』。空間に哲学が宿るようなその建物は、名建築家・竹山聖の手によるものだ。その名に、宿の持つ魅力が表されている。
“無何有”とは、荘子が好んで使った言葉だという。何も無いこと、無為であること。そんな「余白」の豊かさを味わう宿なのだ。無何有境を体現するごとく、その場所で味わった時間はすべてどこか中空に浮いたような感触をともなった。身を委ねればくつろぎを超えて、消え行くような感覚に恍惚を感じるような、とても不思議な体験だった。
夕食の舞台は『方林円庭』と名付けられたフロア。
まず原研哉作のオブジェ『蹲(つくばい)・方寸』に迎えられた。一滴一滴したたる水滴に時間を忘れて見入る。現代的な素材がダイナミックに空間を切り取る様子の中に、太古からの無限の広がりを感じるような気がした。
そしてダイニングスペース『方林』に一歩踏み入れて、言葉を失った。無数の柱がシックな木の空間を貫いている様子は、優雅なダイニングでありながらまるで祈りの場のようだった。
竹林に人を訪ねるような心持ちで食卓への道をたどると、果たして賢人は現れた。この日の朝に訪ねた塗師・赤木明登氏との再会、そして晩餐の始まりである。
夕食の一部は赤木氏の器で供された。
椀ものでは、手や口に軽やかに吸い付くような心地よさを味わい、摘草八寸では、従来の漆器のイメージとは違うモダンでエッジイな印象を楽しんだ。作家と語り合いながら、その作品を楽しむという贅沢極まりないひとときであった。
赤木氏が選んだのワインたちの、味わい深さに少し酔った。
宴の賑わいを後に自室へ戻る。無何有の部屋にはすべて露天風呂がついている。オーセンティックな檜木風呂だ。
部屋の戸棚には酔い覚めに染みる氷水と、夜食の海苔巻が慎ましく置かれていた。繊細で素朴な心遣いが嬉しい。
この宿は、単に知的でラグジュラリーであるばかりではないようだ。心と体を芯から弛緩させてくれるような、日本の温泉ならではの“粋な心地”も十分に味わわせてくれる。
「夢もおぼろな山代温泉」とは泉鏡花の一節だそうだ。
淡い湯気を立てる湯に静かに身を沈め、木々のざわめきに耳をそばだてた。
※※※
3日目は旅の最終日。『山代温泉べにや無何有』での朝は、清々しい山の香りに包まれる朝湯と、地の食材を生かした清涼な味わいの朝食を楽しむ。体内の空気を一新してくれるような爽やかさにゆったりと時間を過ごし、遅めの出立をした。一路金沢へ向かう。
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